2万本。このペットボトルの数がどのくらいの期間で世界で捨てられているかご存じだろうか。
答えは「1秒」だ。今でこそプラスチックの消費を抑えるように各国政府や企業が動いているが、その前から課題意識を持ってペットボトルを使わない未来を実現しようとしているのが、ソーダストリーム株式会社だ。
1903年に創業し、イスラエルに本社を置くソーダストリーム株式会社は、炭酸水メーカー世界No.1の市場シェアを誇る企業である。創業以来「自宅にいながら手軽に炭酸水が作れるソーダマシン」を開発し、販売店舗は今や世界45カ国70,000店で超える。日本国内でも3,000店以上の取扱店舗を展開している。
このマシンを使うことで、合成化合物を使わないヘルシーで健康によい炭酸水を手軽に楽しめるだけでなく、ペットボトルの消費を抑え、地球にやさしい消費をすることができるという特徴がある。そんな中ソーダストリーム株式会社は昨年8月ペットボトルが必要不可欠な会社、ペプシコーラで知られるペプシコに吸収合併され、ペットボトル廃止に向けて大きなステップを踏み出している。
今回IDEAS FOR GOOD編集部は、世界を代表する大企業を巻き込みながら大きな問題に挑戦するソーダストリームのジェネラルマネージャーに日本でソーダストリームを展開する中で感じたことや社員の環境問題にかける想いについて伺った。
話者プロフィール:デイビッド・カッツ氏(ソーダストリーム株式会社 ジェネラルマネージャー)
イスラエル出身。Fox(アパレル)のビジネスデベロップメントマネージャー、LALINE(コスメ)のグローバルビジネスデベロップメントVPを経て、ソーダストリーム株式会社のジェネラルマネージャーに就任。日本子会社の運営と、韓国、台湾、シンガポール、ニュージーランドの代理店の管理も行う。
環境問題は海外ではなく、日本で起こっていること
Q:環境問題という課題に対し、どのようなことをしていますか?
近年では各国政府がプラスチック問題を取り上げて制度を作り、大企業もプラスチック製品を使わないような商品を売り出し始めていますね。ソーダストリームは、「ムーンショット」という宇宙からの目線を持って地球規模で何をするべきかを考えようという価値観を持っています。その一環としてホンジュラスの海で捨てられた海洋プラスチック廃棄物を船で回収する特別な装置を作りました。これに世界中のソーダストリーム幹部に参加してもらって、海を物理的に掃除できたことは営利企業として世界初のことでした。かなりの量のゴミが集まったことに対して、子供や家族、地球の将来を考えた時に本当にショックで、これは止めなければならない、アクションを起こさなければいけない、という気持ちを強く持ちました。
Q:日本での環境への取り組みについてはいかがでしょうか?
私たちは日本の環境省の政務次官に会いに行きました。日本人は特に、ペットボトルは収集するものだという教育をよく受けているので、リサイクルをしている意識はあると思います。そのため日本人はプラスチックごみによる環境破壊と言われると、遠い国の人や教育レベルが低い人たちが海を汚しているのだろうと思いがちです。ですが重視するべきなのはペットボトルの回収率ではなくリサイクル率です。データによると日本で生産された多くのプラスチックごみが日本の周りを流れていることが分かったのです。中国でも韓国でもない、日本で環境問題を起こしてしまっているという気付きを与えたくて、今回このような広告を使うことにしました。
「海の生き物が苦しんでいる」だとか「ペットボトルのポイ捨て厳禁」では自分の行動を見直しにくいですよね。どうしたら日本人が自分ごととして環境問題を考えられるかを考えた時に、マイクロプラスチックという問題を細分化しました。日本の海で泳いでいる魚がマイクロプラスチックを食べ、その魚をすしとして食べることで、ペットボトルの廃棄が私たちに健康被害を及ぼすことを伝えています。
ここ10年の間で、多くの人がプラスチックは環境によくないと理解し始めました。この傾向はかつて航空機内でもレストランでも、どこでも吸えたタバコと似ています。タバコが体に悪いと認知されて以来急速にタバコを吸う人は肩身が狭くなっていますよね。プラスチックの問題に関しても、今研究が進んでいないだけで体に悪いのは間違いありません。タバコと同じようにペットボトルを使う人の肩身が狭くなる日はすぐでしょう。
働いている人は同じ方向を向いている
Q:社員の方の反応はいかがでしょうか?
この動画を見てください。
私たちは「プラスチックファイター」です。人種、国境のためではなく地球が抱える環境問題のために戦っているという志を持てる環境です。
私たちソーダストリームの本社はイスラエルにあります。ペプシコCEOがソーダストリームの買収の前に私たちの工場に来て驚いていたのが、社員が楽しそうに笑って仕事をしているということです。すぐ近くには内紛があるような地域ですが、社員たちは人種、国境を越えて手を取り合うことで達成するものがあるというミッションを理解して仕事をしています。
ソーダストリームが見る未来
Q:ソーダストリームの今後の展開を教えてください。
ソーダストリームを日本の炊飯器のようなインフラにしたいと思っています。ほかの国だと気軽に炭酸水を飲めることをメインにプロモーションしていますが、日本の炭酸水は色々な使われ方があります。お米を炊くときに炭酸水を使うとおいしくなったり、できたての炭酸水を使った強炭酸のハイボール「生ハイボール」が作れたりと、楽しんでもらう方法はたくさんあります。
このソーダストリームという製品は「未来」だと思っています。人工甘味料を使わないので健康に良く、そして環境にも優しいのです。
日本は歴史上イノベーションをリードしてきた国です。日本人がソーダストリームの製品を使うことでこれからも世界をリードしてもらいたいです。
インタビュー後記
マイクロプラスチック対策という共通の目標を立て、内紛が多いイスラエルでさえ社員が人種問わず笑顔で働ける会社であるということが印象的だった。
働く上で大事なことは「人種や考え方が同じであること」ではないと理解し、一人一人が会社の価値観に共感して同じ方向を目指しているということだ。もしかしたら、同じ目標を達成するために人種問わず働くことが紛争を防ぐ方法なのかもしれない。
イスラエルで働くソーダストリームの社員のように、日本人は環境問題を自分ごと化しているだろうか。海を遠い国のごみ箱のように掃き溜めてしまうことよりも、ごみが目の前から消えることを優先してしまう人も多いだろう。
「私たち一人ひとりが自覚を持つ」と言うのは簡単だが、実際には難しい。人は習慣によって継続的に行動できるものであるから、ソーダストリームのような製品を使い続けることが意識せずとも継続的に環境を守る1つの方法だろう。プラスチックファイターは、ソーダストリームの社員だけではないのだ。