ドイツのサーカスCircus Roncalliが、生きている動物の代わりに3Dホログラムで映し出された動物を使ったパフォーマンスを行う、という画期的な取り組みを始めた。
この取り組みの背景にあるのは、サーカスの動物虐待問題である。華やかなサーカスの舞台裏では、象やライオンなどの動物たちに対して厳しい調教が行われていることが多い。それらの行為を虐待だとする声が挙がり、すでに世界40か国以上で娯楽目的の動物の利用を禁止する法律も出てきた(日本の状況 *1)。
今回ホログラムを取り入れたCircus Roncalliは、1976年からドイツを拠点に活動しているサーカスで、1990年代から生きた動物の使用をやめることをリードしてきたという。
同サーカスの創設者兼プロデューサーのパウル氏は、「これまでのサーカスの成功は、曲芸師やピエロなどの技術によるもので、動物たちの出演はあくまでもサーカスを構成する一部だ」と考え、生きた動物を使用せずに観客を楽しませるホログラム技術導入のために、50万ドル(5300万円相当)の投資を行った。
ショーの中では、逆立ちをする象、舞台を走る馬、空中に浮かぶ巨大な金魚などがホログラムで表現され、非現実で独創的な世界観に触れることができる。
生きている動物を使わなくなってから、初年度だけで60万人以上がショーに参加した。サーカスファンや動物保護に関心のある人々は、未来のサーカスのあり方としてCircus Roncalliに期待し、娯楽目的で動物を非人道的に扱う行為の終わりを告げる好例として取り上げている。
多くのモノが溢れた現代において、お金を払うということは、商品や経験そのものを得るだけでなく、その背景にある思想を支持することにもつながるだろう。サーカスは生きた動物を使わなければいけない、というこれまでの固定観念から脱し、代わりにテクノロジーを取り入れたことでこのサーカスは多くの人の支持を集めた。
伝統にこだわることも大切だが、時には「何が本当に大切なのか」という物事の本質を見極め、柔軟に新たなものを取り入れることも重要であるということを、今回の事例を通してCircus Roncalliは教えてくれている。
*1 2019年時点で、日本には原則サーカスへの動物利用を禁止する法律はないが、禁止のための署名運動などがされている
【参照サイト】動画 – Optoma impresses audiences with a holographic circus experience