「頂上まで登らなくてもいい」登山アプリYAMAPが示す、自分と地域のための新しい山登り文化

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「次の休みには、自然の中でちょっとリラックスしたい」

平日は都会のオフィスで忙しく働き、夜になったら人の多い電車に揺られ、スマートフォンをいじりながらやっと家に帰る。そんな日々からちょっと抜け出してみたいという欲求を持っている人に、「山登り」を勧めている会社が福岡にある。スマートフォンのGPS機能をつかった登山アプリ『YAMAP』を提供する、株式会社ヤマップだ。彼らは「あたらしい山をつくろう。」をコンセプトとし、山登りをもっと身近にするべくアプリの運営やメディアでの発信を行っている。

なぜ今、登山なのか。IDEAS FOR GOODは、先日130万ダウンロードを記録し、山登りアプリの中でもトップの人気を誇るYAMAPのPR/クリエイティブマネージャーを担当する﨑村昂立氏に、登山が持つグッドな可能性について聞いてみた。

本記事は、自然に触れたり体を動かしたりはしたいけど、いきなり登山はちょっと…… と「登山」と聞いただけでハードルの高さを感じている人にこそ読んでほしい。

山登りをもっと身近にするアプリ『YAMAP』

YAMAPは、スマートフォンのGPS機能を活用し、電波の届かないところでも使える「登山地図」と、登山やアウトドアに関する情報交換ができる「コミュニティ機能」の2つの機能を提供するアプリだ。

登山地図の特徴は、登る山の地図を事前にダウンロードしておくことで、電波が届かず方向を見失いやすい山の中でも自分の居場所がわかり、たどってきた道も記録されること。遭難を防ぎ、安全な登山を促進する。そしてコミュニティ機能では、記録された道や、そこで撮った写真を他のユーザーとシェアが可能だ。他のユーザーの「活動日記」をフォローしたり、そこにコメントしたりすることで、山を登るという共通の趣味を持った人とコミュニケーションをとることができる。

YAMAP使用画面(左:登山地図 右:登山日記)

YAMAP使用画面(左:登山地図 右:活動日記)

実際、山に登ろうと思ったらかなりの情報収集をしなくてはならない。そして、いくらインターネットで調べても、直前の山のコンディションまでは分からないので、場合によっては危険が伴うこともある。そこでYAMAPは、直近で山に登った人が「活動日記」を残せるようにすることでそれを解決した。

スマートフォンのアプリだけで情報収集を完結させることができ、使い方も難しくない。それが、YAMAPが多くのユーザーに使われている理由の一つではないかと﨑村氏は語る。

このアプリができた背景には、創立者である春山慶彦氏の原体験があったそうだ。アウトドアを愛する春山氏が山登りをしていたとき、ふと地図アプリを開くと、電波がないので地図の情報はまっさらだったが、GPS機能によって自分の現在地だけは示されていたことに気が付いた。これに山の地図情報を追加すれば、多くの人の役に立つのではないかと考えたのだ。

山登りの可能性は広がっている

YAMAPができたもう一つの背景には、現代人が自然の中で体を動かす機会がほとんどないことが挙げられる。特に都会で生活している人の中には、毎日オフィスと家の往復をするだけの生活を送っており、改めて自分の体と心に耳を傾ける機会を持てない人も多いのではないか。

Scientific Reports誌に掲載された最新の論文では、1週間のうち2時間以上の時間を自然の中で過ごすことが、メンタルヘルスを大きく向上させることがわかっている。春山氏は現代人と自然の乖離に課題を感じ、さまざまなアウトドアの中でも日本人に身近な山に目を付けた。地元の山を登ったときに感じた、頭の中が入れ替わったような爽快感と、町に戻ったときに「もう一度あの景色を見たい」という想いにかられたことがきっかけであったという。

そして山登りの多様なあり方を示すためにも、このアプリをつくろうと考えた。これまで山頂を目指すことが当たり前とされ、きついイメージのあった山登りだが、最近では、一人で思考を整理したいときや、家族や友達と自然の中で楽しい時間を過ごしたいときに山を少し登ってみる、という形に変わってきているのだ。都市とは違う時間の流れの中で、ただその場の瞬間に目を向ける「マインドフルネス」にも通じる。

ヤマップ社内登山のようす

「高い山を目指す必要はないし、ロープウェイを使ってもいい。もはや山頂まで行く必要もないんです。」 﨑村氏の言葉が、山を登ることは難しいと思っていた筆者には印象的であった。

山登りは、新たな地域活性化にもつながる。これまであまりプロモーションされておらず、観光客が立ち止まらなかったような山のふもとの町に、山登りの前後に登山者が訪れて、現地の温泉や宿泊施設が潤うという仕組み。自然の中で体を動かし、同時に地域も元気にできるならこれほどうれしいことはない。

自然に触れ合う手段としての山登り

ヤマップ社のメンバー

ヤマップ社のメンバー

﨑村氏は、山登りの魅力について「一歩一歩登っていって、ふりかえると出発地点からここまでの軌跡が見えるのが気持ちがいい。普段、道を歩いていてもそんなことはしないじゃないですか。山を登っていると、意識すらしていなかったことに感謝します。たとえば登りきったときに天気が良かったこととか。山を下りたあとに入る温泉や、ふもとの町の観光も含めて、楽しいんです。」と語る。

今後、YAMAPはより安全な登山を目指して、登山保険の提供や、万が一遭難してしまったときに役に立つ新機能を強化していく予定である。また、「あたらしい山をつくろう。」というコンセプトの通り、山でのトレイルランニングプロジェクト等にも力を入れていくという。もはや登るだけではない山の楽しみ方を模索しているのだ。

せわしない生活の中で、一度頭をスッキリとさせたいと思ったなら、山登りも一つの手段である。自分が思っているよりずっと健康的で、地域社会にもグッドな行動となるかもしれない。

※1 Scientific repots誌 – Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing
【参照サイト】YAMAP
【参照サイト】株式会社ヤマップ

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