「自分たちの生きる地球で起こっている環境の課題が、国境を越えて目の前に表れてきていると思った。」なぜ環境を保護する活動をはじめようと思ったのですか、という問いに対して、音楽プロデューサーであり、環境保護や自然エネルギー促進事業を行う非営利団体ap bankを運営する小林武史氏は、そう静かに語った。
2019年2月。東京から車で1時間とちょっと走ったところにある千葉県木更津市の人里離れた林を通り抜け、小高い丘と山に囲まれた広い土地を、IDEAS FOR GOOD編集部は訪れた。あたりはほとんど農作地で、レストランや農家、水牛舎など、敷地内にポツポツといくつか建物が建っているのが見えるだけ。
この場所で、小林氏が手がける次世代のサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」の開発が、2019年10月の第一期オープンを目指して進んでいる。本記事では、筆者らが実際に見たKURKKU FIELDSのようすと、この土地で始まる循環型の仕組みづくりについて書いていこう。
KURKKU FIELDSは「命」を感じられる場所
KURKKU FIELDSは、木更津で有機野菜と平飼い卵の生産を行う30ヘクタールの農場をベースにした「株式会社KURKKU」が運営する「サステナブルファーム&パーク」だ。「農業」「食」「アート」の3つのコンテンツを軸に、これからの人や社会の豊かさを体験できるレストランやイベントスペースなどで構成されている。
場内にはレストランや水牛舎、鶏舎、小麦畑があり、現在はベーカリーが併設されたダイニング、シャルキュトリー(食肉加工場)、各施設から出た排水を自然の仕組みでより綺麗にろ過するバイオジオフィルター設備、タイニーハウスの宿泊施設、アート作品や森づくりなどの準備が進んでいる。
現地に到着したIDEAS FOR GOOD編集部を出迎えたのは、場内レストランで提供予定の、自然食品をつかった料理の数々。KURKKU FIELDSの敷地内で育てた野菜や、飼っている鶏からとれた卵などをふんだんにつかっている。シェフは近隣地域で害獣と呼ばれるイノシシを自ら狩り、解体して調理までしたそうだ。小林氏らは木更津市と協働し、解体処理施設の運営も試みている。
単なる食事だけでなく、「いのちのてざわり」の体験を提供するKURKKU FIELDSのダイニング。食事においては、口に入れるものを自ら育て、身近な場所から採ることで、ひとつひとつの命に感謝していただくことを指す。小林氏はこの「いのちのてざわり」という言葉を、繰り返し使っていた。
なぜ、木更津の地でこのKURKKU FIELDSを開こうと思ったのか。小林氏はこう語る。
「自然のある場所に実際に足を運んでみることが“いのちのてざわり”を体感することにつながるから、一度東京を離れた場所に拠点をつくろうと思っていた。そうしたらたまたま仕事の関係で木更津のことを知って。この広大さと、カルデラ(※1)みたいに山で覆われたこの地を面白いかも、と思った。東京からのアクセスも、どんどん良くなっているしね。」
KURKKU FIELDSの施設内には、自然の循環を見て、聞いて、体験できる仕組みがこれから多くできるという。たとえば、手作りのバイオジオフィルター。バイオジオフィルターとは、排水を砂利でろ過し、水のなかの汚染物質を微生物によって分解し、さらにそれを植物に吸収させて、生き物が住めるくらいにまで浄水するシステムだ。
場内では水牛や山羊、鶏なども飼われている。鶏はよく見られるケージに入れた飼育方法ではなく、微生物を含んだ発酵床の「平飼い(鶏を鶏舎内や養鶏場の屋外で地面に放して、自由に運動できるようにした飼い方)」で、のびのびと育てているそうだ。畑でとれた出荷できない野菜は動物の餌となり、動物が排出した糞は堆肥として畑に返っていく。
そうして育てた動物はやがて屠畜場で解体され、場内のシャルキュトリーで加工され、私たちの目の前に出てくる。普通にスーパーで肉を買うよりもずっとリアルで、命を身近に感じられないだろうか。
場内を案内してくれた新井洸真氏は、「KURKKU FIELDSでは、ムダなく循環するシステムをつくっています。そこを来場者の方々にも一緒に体感してもらいたい。」と語っていた。
人が訪れ、共に体験する場に
10月5日に第1期オープンを迎えるKURKKU FIELDSは、8月3日より週2回(土日)のみプレオープンし、1日40人限定の体験ツアーへ予約することで一足先にその魅力を体感できる。
さまざまな野菜を育てるエディブル・ガーデン(食べられる庭)や小麦畑。草間彌生氏やカミーユアンロ氏などのアーティストが手がけるアートスペース。最小限の機能だけを持ったミニマルで移動可能な宿泊施設、タイニーハウス。子供たちが自由に遊ぶことのできるスクールバス。2月にIDEAS FOR GOOD編集部が訪れた時点ではまだできていなかったものが、次々と形作られていく。
小林氏の言うように、自然の豊かさや、そこに現在進行形で起きている問題は、実際に足を運んでみるまでわからない。太陽光の恵みや、川や森、山、動物の命は、私たちが普段認識しているよりもずっと貴重であり、生きている限り循環しつづけているのだ。
KURKKU FIELDSは、食やアート、遊び、体験などを通じて、それらの循環をめいっぱい体験できる場となるだろう。オープンが楽しみである。
※1 カルデラ:火山の活動によってできた大きな凹地
【参照サイト】KURKKU FIELDS
(画像提供:KURKKU FIELDS)