米シアトル市が位置するワシントン州キング群で行われている地方機関の役員選挙にて、スマートフォンやパソコンを使ったオンライン投票が導入された。アメリカでは、過去に国外の一部地域からの投票に限ってインターネット投票が容認されたことはあるが、国内の住民が簡単に「スマホ投票」を行えるのは今回が初の事例となる。
従来の紙の投票方式に加えて、キング群内の有権者120万人は2020年1月22日から2月11日までの期間に、モバイル版のウェブページから本人の名前、生年月日、署名を入力して身元確認を行い、投票を行うことができる。
スマホ投票の実現に向けた議論や仕組み作りは、これまでに国内で何年もかけて行われてきた。今回、キング群選挙委員会、モバイル選挙を促進する非営利団体Tusk Philanthropies、サイバーセキュリティセンターと、電子投票用紙を開発するDemocracy Liveの連携により、初めての実施となった。
導入の狙いは、投票率の向上だ。アメリカの国政選挙における投票率は2016年時点で55.7%と、他の民主国家と比較しても低い部類に入る。キング群選挙委員会のジュリー・ワイズ氏はプレスリリースで、「スマホ投票の導入により、有権者は今まで以上に投票がしやすくなる」と述べた。たしかに、オンラインで投票ができるとなれば、若者など投票率の低い層が選挙に目を向けるきっかけになるかもしれない。
また、在外選挙人(国外在住者)の投票はよりスムーズになる。2007年から世界に先駆けて国政選挙にオンライン投票を導入しているエストニアでも、特にこの点においてオンライン投票のシステムは役立っている。
一方、最大の課題として挙げられるのがセキュリティ面だ。オンライン投票が可能になった際、システムのハッキングによって得票数が改ざんされる危険性はいつまでも否定しきれず、場所を選ばずに投票できることから、特定の候補者への投票の強制や買収なども問題視されている。
サイバーセキュリティの専門家の間では現状、反対する見解が多数を占めているという。文字通り、スマートフォン一台でなんでもできる時代になったが、選挙だけは最後の砦として立ちはだかる。それは、民主主義がアメリカ社会にとっての最重要事項の一つであり、安易に利便性を追求して取り返しのつかない事態が起こるのは決して許されないからだ。
今回、キング群で行われる選挙は、環境サステナビリティを推進する地方機関「キング・コンサベーション・ディストリクト」の役員を決めるもので、前回行われた同様の選挙では、同郡内の有権者120万人の内、投票率は0.5%にも満たない約4000人であったというから、まだまだ今回は実証実験の側面が強い。今後、国政選挙などでスマホ投票が導入されるためには、種々の懸念事項がクリアされていく必要がありそうだ。
イノベーションの目的は「社会をもっとよくすること」である。インターネットの発達を牽引してきたアメリカで、その正しい使い方が今、選挙という形で問われている。
【参照サイト】Exclusive: Seattle-Area Voters To Vote By Smartphone In 1st For U.S. Elections
【参照サイト】What the U.S. Can Learn About Electronic Voting From This Tiny Eastern European Nation
【参照サイト】Statics about Internet voting in Estonia