寄付は社会への投資。渋澤健氏に聞く、コモンズ投信が「本業として」寄付に取り組む理由とは?

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日本国内の寄付者や寄付額は年々増え続けている。地域おこしや大規模災害などへの寄付など、現在はさまざまな寄付手段があるが、どこに寄付をしたらいいのか、どのようにお金を活かしていけばいいのか迷っている人も多いのではないだろうか。今回はその選択肢の一つとして寄付を「本業」として取り組む投資信託会社、コモンズ投信を紹介する。

コモンズ投信は、企業の「見えない価値」に対し比重を置いて投資判断を行い、持続的な価値創造を目指す日本企業30社を厳選した投資信託「コモンズ30ファンド」を運用している。そのファンドの運用収益の一部で、社会起業家に寄付する「コモンズSEEDCap」を運営している。過去の支援先最終候補者の中にはIDEAS FOR GOODでも取り上げた一般社団法人ダイアログ・イン・ザ・ダーク一般社団法人アースカンパニーがノミネートしている。過去5年間のコモンズSEEDCapの支援先は下記の通りだ。

  • 一般社団法人 WITH ALS
    ALSという難病を抱えながらも多様なジャンル間でのコミュニケーションとコラボレーションを通して、全ての人が自分らしく挑戦できるボーダレスな社会を目指す
  • 認定NPO法人 PIECES(ピーシーズ)
    市民の参画を起点とした「有機的なセーフティネット」作りにより、子どもの社会的孤立を予防するNPO
  • 一般社団法人 more trees(モア・トゥリーズ)
    森の保水力や生物多様性の回復を目指すとともに、様々な森の恵みを軸に「都市と森をつなぐ」活動を展開する団体
  • 認定NPO法人 3keys
    虐待や貧困などで、頼る大人が周りにいない子どもたちに、学習支援や相談窓口を設置、適切な支援機関への橋渡しなどを行っているNPO
  • 認定NPO法人D×P(ディーピー)
    しんどさを抱えた高校生が、自分の将来に希望を持てるようになるための取り組みをしているNPO

今回お話を伺ったコモンズ投信の取締役会長である渋澤健氏は、「資本主義の父」とも呼ばれる渋沢栄一の5代目子孫にあたり、渋澤氏自身も、米大手ヘッジファンドで長年の運用経験を有する投資のプロでもある。

利益を上げ続けることが求められる「投資」において「寄付」は対極といってよいほど遠い場所に位置しているように感じられる。それにも関わらず、なぜ投資信託の会社が、寄付に本腰を入れて取り組むのだろうか。今回は渋澤氏に、投資と寄付についての考え方、向き合い方を伺った。

コモンズ投信株式会社 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋澤 健氏

国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。また、日本の企業経営者団体である経済同友会の幹事も務め、政策提言書の作成にも携わっている。

企業の「見えない価値」こそが、未来の価値創造を左右する

Q:コモンズ30ファンドの投資先を日本企業に絞られている理由は?

まず1つ目は、日本で新たなお金の流れを創りたいということがあります。収益性を考えると海外の株式に投資したほうが良いのですが、コモンズ投信は30年の長期投資を見込んだファンドで、利用される方の多くが初めて投資をする方々です。ですから、投資の対象を海外の株式よりもっと身近なところから始めることが大事かなと思っています。

2つ目に株式投資については、投資家の方に日本にも価値創造をしている会社があるという点に着目していただきたい、という想いがあります。というのも、30社のうち7割となる22社が海外売上高比率で50%を超え、うち9社は70%を超える(2019年10月時点)など、日本企業でありながらもグローバルに事業を展開する銘柄です。投資を通じて、「日本には国内だけではなく世界からも評価されている会社がある」ということを知ることができます。

Q:コモンズ30ファンドで重視している、企業の「見えない価値」についてお聞かせください。

「見える価値」は共通言語になるので便利です。例えば「今期どれぐらい企業の利益が上がりました」とか「株価がどれくらいになりました」といったことは誰でも分かるものですね。どの投資信託も投資先企業の「見える価値」を見ています。それはそれで大切な指標ではありますが、社会には多くの運用機関が存在しているので、他とは違う視点から見ることに価値があると思っています。

もちろん、コモンズ30ファンドは投資先企業の財務面も見ますが、この見える価値というのはあくまで海の上から見える氷山の一角です。過去に取り組んできたことの成果がそこに数字として見えるというわけです。それは参考にはなりますが、大事なことは今までではなく、「これからの価値創造」ですよね。

コモンズ投信 渋澤健さん

コモンズ投信 渋澤健さん

それは、数字だけを見ていても分かりません。海面の下にある「見えない価値」は、たとえば経営力とか競争力。なぜその会社が競争力があるのか、どうして経営者が経営力を発揮することができるのかなど、本質の部分は数値化できないところがたくさんあります。

また、投資家との対話だけではなく、社内のインナー・コミュニケーションがあるかないか。我々はそれを「対話力」と呼んでいますが、これはなかなか数値化できません。ただ、その企業文化があるから、その企業では対話が促進されていて、対話力があれば当然経営力が発揮できるわけですよね。組織の中でそれが発揮できれば、当然競争力もある。競争があれば利益が上がります。だから、「見えない価値」を深く行くほど見えなくなるのですが、実は重要な未来の価値創造の可能性は、そこに隠れているのだと思っています。

その見えない価値の中心に位置するのが「その会社で勤めている人」です。どの企業も「わが社の財産は人です」と言います。ただ、財務諸表には資産として計上されることなく、人件費として数値化されています。

しかし、「人」という重要な財産を削り取ることによって利益が上がり、企業価値が高まるということになってしまっている。1年、2年単位ではそう言えるかもしれないですが、どんどん人を辞めさせたら、誰もいなくなってしまいます。財務の価値も必要ですが、見えない価値の分析や価値判断をすることも長期投資においては必要なことだと思っています。

大切なことは「未来を信じる力」を集めて、大きな流れにしていくこと

Q:コモンズ投信のサイトなどで、よく「未来を信じる力」という言葉を目にします。この「未来を信じる力」とは何でしょうか。

「未来を信じる力」とは、この「長期投資」を別の言い方で表現したものです。未来を信じる力がなければ、目先のことしか信じられません。

私はよく長期投資に関する講演の冒頭で「ここに集まってきてくださった皆さん、未来を信じる力を持っていますか?」と聞くのですが、みんな横目でチラチラと周囲を見ていて、手を挙げてくれません(笑)。たぶん、みんな心の中で少しは手を挙げたはずで、まわりが手を挙げないからご自分の手も挙げないのだと思います。なぜなら、未来を信じる力を持っていなければ、そもそも講演の場に来ないはずだからです。

大事なことは、未来を信じる力が少しでもあっても、みんなのベクトルが同じ方向に向かっている、ということです。そうすれば、足し算・掛け算によってより大きな力が生まれます。未来を信じる力というものを長期投資と同じと考えると、それは「寄付」も同じだと思っています。経済的リターンとして自分に戻ってくるわけではないのですが、「次の世代を良い社会にしたい」という想いを実現するための出資なので、これは間違いなく「投資」だと思うんです。

Q:寄付について考えることが、未来を信じる力にもつながるんですね。

未来を信じる力で言うと、未来には「見える未来」と「見えない未来」があると思っています。「見える未来」は、絶対にそうなる未来、たとえば高齢化・少子化ですね。昭和の人口動態というのはピラミッド型でしたが、平成になるとピラミッド型が崩れてひょうたん型になります。

2020年は大事な年で、ひょうたん型から逆ピラミッド型にものすごく早いスピードで変化していきます。なぜかというと、2020年に世代交代がものすごく速いスピードで起こるからです。過去10年、20年の社会の変革のスピードと比べると、これからの10年、20年の変革のスピードはよりピッチが速まるのではないかと思います。

1980年~2040年までの人口ピラミッドの推移 国立社会保障・人口問題研究所より編集部作成

1980年~2040年までの人口ピラミッドの推移 国立社会保障・人口問題研究所より編集部作成

「世代交代」というのは、過去の成功体験を持っていた人がフェードアウトすることです。過去の成功体験を持っていない人が、未来の成功体験を創らなければいけないという節目なのです。成功体験は大事ですが、過去の成功体験があると、「昔こうだったよね」とその成功体験にとらわれてしまう可能性もあります。逆に成功体験を持っていない人たちは、過去の成功体験にとらわれずに、新しい成功体験を創れる世代ということでもあります。そのバトンタッチが全国規模で起こる、ということなんですね。

世界の人口を見ると、中国・韓国・台湾は日本と同じく少子化社会になっていきますが、インドネシアの人口は日本の倍で2億6千万人くらい、年齢の中央値が28歳。ミレニアル世代のど真ん中です。インドの人口も13億人、中央値が27歳。アフリカの人口はインドと同じ13億人ですが、アフリカの年齢の中央値は19歳。これから2050年までに人口が倍増して、25億人から26億人ぐらいになる。2050年には4人に1人がアフリカ人という計算です。

日本だけで見ると、ミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)は人口的マイノリティですが、世界だとむしろマジョリティです。これからの新しい時代・新しい価値観を創れる人は、世界にたくさんいます。先ほどお話した国々は発展途上国ですが、途上国の若手が求めているのは仕事です。生計を立てて家族を養う、というのは日本では当たり前に思っていることで、日本は途上国の持続可能な成長に関与できるし、貢献できる。その貢献によって還元を受けることができる、という可能性も十分あります。

一つの面ではありますが、それが「見えない世界」だと思うんですよね。日本に暮らす若い世代の皆さんが「世界と繋がっている」と思えるか、思えないか。思えるのであれば、色んな可能性があると思います。「アフリカは遠いからよく分からない」などと思ってしまうと、残された部分は「見える未来」しかないのですが、どちらの未来が魅力的でしょうか。「見える未来」か、どっちに転ぶかわからない「見えない未来」か、どちらを信じますか、と問いかけられる大切な時代の節目に来ていると思います。

コモンズ投信 渋澤健さん

コモンズ投信 渋澤健さん

寄付はキャッチボール。少額から始めて、関係を築くことが大切

Q:寄付がもたらす効果をどのように測ればいいのでしょうか?

私は15年、20年前くらいから「社会的リターン」についての議論に加わってきたのですが、当時は「無理だ」と思っていました。どうやって子供たちの未来や笑顔を測るのか、と。でも今は、正しい答えや正しい数字にはできないのかもしれないですが、少なくともプロセスのほぐあ大事なのではないでしょうか。

インパクトというのは、想像の世界だけではなく、たとえば途上国であれば文字が読めなかった子供が以前はこれくらいいたが、教育のアプリが導入されたことで、何万人、何パーセントが増えましたといったよに、数字として可視化することで「そういうインパクトがあるのであれば、そこに投資しよう・寄付しよう」と考えてもらうためのものだと思うのです。

今、SDGs(持続可能な開発目標)というものがありますよね。私は今UNDP(国際連合開発計画)で「SDGインパクト」というプロジェクトに関わっています。これはSDGsのインパクトの基準づくりです。そして、認証プログラムでもあります。投資家や人間というのは、分かりやすい数字を求める傾向があるので、メジャメント(測定)と言ってもたくさんあると訳が分からなくなってしまうんです。

そこでUNDPでやっているのはインパクトシールという、いわゆる権威ある機関からのお墨付きです。私はそこで運営委員会に任命されたのですが、インパクトを数値化することによって、これまで見えなかったものを可視化するという意義があるのです。そこで気をつけなければいけないことは、数値化できているから、それが実態かというと、また違うときもある、ということです。それを念頭に置きながら、自分たちがやっていることが正しいのかどうかを試行錯誤するために、数値化や可視化をしていくことが大切なのではないかと思います。

Q:「寄付」を始めるにあたってポイントはありますか?

寄付には「一度寄付すると、また(寄付のリクエストが)来てしまうかもしれない」という部分もありますよね。でも、たとえば月1,000円で年間1万2000円のようなマンスリーサポーターというのは、とてもよい寄付の入り方ではないかと思っています。寄付先の選択肢としてはユニセフなど有名な国際機関もありますが、日本の中には熱い想いで頑張っている社会的な活動をしているNPOもたくさんあります。30年くらい前はどんなNPOが日本にあるか分かりませんでしたが、今はインターネットを使えば、さまざまな社会的活動に取り組んでいるNPOの存在がわかります。マンスリーサポートをやってみて、色んな活動やサービスを見て「違うな」と思ったら解約して、他のところに切り替えることもすぐにできます。

まずは少額から、関心のある寄付先に対して関係を築いていく。私は、「募金」と「寄付」は違うと思っていて、募金はお金を渡したら終わりですが、寄付は寄付した人と寄付された人や団体の対話、つまりキャッチボールができるものだと思います。キャッチボールができる団体かどうかを見極めるには、小さい額の寄付から始めるのがよいのではないかと思います。

結果はすぐには戻ってこないかもしれないので、そこは長期投資だと考えてください。色々な社会課題や不安要素はあありますが、「未来を信じる力」があれば「寄付」もできますよね。そういう意味では、長期投資も寄付も、同じことなのではないかなと思います。

コモンズ投信 渋澤健さん

コモンズ投信 渋澤健さん

編集後記

投資信託として目先の利益ではなく企業の見えない価値を丁寧に見て、未来の創造価値を吟味しているコモンズ投信。寄付を社会への「長期投資」として捉えているからこそ、本業で取り組める。

過去の輝かしい栄光から廃れていることに憂う日本人もいるが、成功体験のない世代だからこそ新しい日本を、そして新しい世界を作っていける可能性を秘めている。そんな見えない未来を信じる力がこれからの社会において重要になっていくのだ。そこでキーになってくるのが「寄付」だという。対話を通して企業やNPOの「見えない価値」を見極め、投資や寄付という形で応援していくことが、次の社会をよくするための一歩になる。

渋澤健氏は、先祖である渋沢栄一が一万円札になることに対して、「『わしは暗い所が嫌いじゃ』と言うと思います。タンスの中に入れっぱなしにされちゃうと。寄付でも投資でも、お金は世の中に循環してこそ活きていくものだと思います。」と話した。

未来に関するいろいろな推測がある。しかし正解はだれにもわからない。それならば世界中にいるミレニアル世代と一緒に、「見えない未来」を信じながら、より良いお金の使い道を考えていきたい。

【参考記事】エンゲージメントとは・意味
【参照サイト】コモンズ投信