問題のない世界より「絶望しなくていい」世界を。GoodMorningが考える、社会をよくするクラウドファンディングとは

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あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。

世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

東京大学入学式での祝辞内で、上野千鶴子氏はこう述べた。インターネットが発達し、個人の努力次第でどうにかできることも増えてきた。しかし、世の中には依然として「個人の力だけではどうにもできないこと」が存在する。いま苦しい状況に置かれている人は、がんばらなかったのではなく、そもそもがんばれなかったのかもしれないのだ。

個人の問題を「個人の責任」として片づけてしまわず、「皆で一緒に」向き合っていく――そんな「誰の痛みも無視されない社会」を作ろうとしているのが、株式会社GoodMorningである。GoodMorningは、クラウドファンディングサービスの国内大手「CAMPFIRE」のサブブランドとして2016年10月にオープン。以来、社会問題と向き合う数々のプロジェクトを掲載してきた。2019年4月には、CAMPFIREから分社、別会社として新たなスタートを切ることとなった。株式会社GoodMorningの代表取締役社長に就任したのは、サービス立ち上げ時から事業に携わる酒向萌実さんだ。

分社化により新たに生まれ変わったGoodMorningが、どのようにパワーアップしていくのか?GoodMorningを通して作りたい世界とはどんなものなのか?酒向さんに直接お話を伺ってきた。

話者プロフィール:酒向萌実(さこう・もみ)

1994年2月生まれ、東京出身。ICU卒。2017年1月より株式会社CAMPFIREに参画。ソーシャルグッド特化型クラウドファンディング”GoodMorning”立ち上げメンバーとしてプロジェクトサポートに従事、担当した代表的な事例として、スタディクーポン、日本初の裁判費用クラウドファンディング、緊急災害支援など。事業責任者を経て、2019年4月に事業を分社化、株式会社GoodMorning代表に就任。一人ひとりが連帯し合える社会を目指し、クラウドファンディングを活用した社会課題の解決や認知拡大などに取り組む。

一人の痛みに、きちんと向き合う

Q:「GoodMorning」について

「GoodMorning」は、社会課題の解決に向けて取り組んでいるプロジェクトの資金調達ができるプラットフォームです。NPOでの勤務経験があるスタッフやファンドレイザー(非営利団体での資金調達を行う職業)の資格を持つスタッフが、「社会課題を扱うからこそぶつかりがちな問題」に対してもサポートができるのが特徴です。これまでに約1,400件のプロジェクトが実行されており、2019年3月末時点で累計支援額は約7.3億円になりました。

私たちが常に意識しているのは、「良いインターネットの使い方」をすることです。インターネットによって、個人が色々な挑戦をすることができるようになりました。個人の意見を世界中に発信したり、自分に合った新たなビジネスを始めたり、一人ではできないことを叶えるために資金を募ったり……ネットの力をうまく使えば、自分ひとりでも状況を好転させていけるということですね。しかし、個人の力だけで全ての問題を解決することはできません。生まれる家庭や周囲の環境、身体的ハンディキャップなど、自分で操作できない要因のせいで、構造的に不利な立場に追い込まれる人もいます。そういう人たちのなかには「いまを生き抜くことしか考えられない」「他の選択肢を知るチャンスがない」「状況がいつか良くなるという希望すら持てず、そもそもがんばれない」という人だっているんです。

クラウドファンディングという手段がポピュラーになることは、「自分でお金集めたら?」「クラウドファンディングやって、自分で解決しなよ」という「自己責任」の風潮を後押ししてしまう危険性をはらんでいます。でも、それって「悪いインターネット」だと思うんですよね。インターネットの本質は、「誰もが平等に力を持てること」にあるはずです。だから私たちは、弱者が声をあげるため、皆が生きやすい世の中を作るためにインターネットを使っていきたい。クラウドファンディングで、個人を苦境に追いこむ「社会のほうを」変えていこう。そんな提案をしていきたいと思っています。

酒向萌実さん

酒向萌実さん

Q:分社化に至る経緯は?

CAMPFIREのサブブランドとして事業をスタートし、様々なプロジェクトに携わるなかで「社会課題を扱うからこそぶつかる壁」をたくさん見てきました。私たちは、この「領域ならではの壁」を突破するため、サービスやサイト機能を常に改善しつづけていきたいと思っています。別会社として独立すれば、意思決定のスピードがアップする。「こうした方がいいんじゃないか?」と思ったことを、どんどん変えていくためにも分社化しよう、ということになりました。

また、これまで以上に積極的かつ多角的なプロジェクト支援をしたいという想いも、分社するきっかけの一つでした。

クラウドファンディングは、「お金が必要なタイミングでプラットフォームを利用してもらうという」という形が主流。どうしても短期的な「点の支援」が中心になってしまっていました。ですが、本当の意味での支援って、1回のプロジェクトを成功に導くだけではないと思うんです。大切なのは、今を乗り切ることではなく「これからどう課題を解決していくか」ということ。だからこそ、立案者の方と一緒に中長期的な目線で戦略をたてていきたいな、と思っています。

例えば、そもそも「問題がある」ということ自体があまり知られていない場合は、いきなり資金集めを始めるよりもSNS戦略を強化するのが効果的かもしれない。制度を変えなければ根本的に解消できないような問題なら、署名運動やロビイングを併せて行う必要があるかもしれません。このように、問題を解決するうえで、「クラウドファンディングとそれ以外のアプローチをどう組み合わせていくか?」「どのフェーズでクラウドファンディングを活用するのが効果的なのか?」という、そもそもの部分から一緒に考えたいなと思っているんですね。これを私たちは「点の支援から面の支援へ」と呼んでいます。

クラウドファンディングを資金集めのためにただ「利用」してもらうのではなく、より効果的に「活用」してもらえるようにしていきたいですね。

酒向さんインタビュー

酒向さん「むしろ、いろんな使い方を試してみてほしい」  Image via shutterstock

クラウドファンディングには、資金集め以上の価値がある

Q:社会課題を解決する手段として、クラウドファンディングを使う利点とは?

クラウドファンディングは、「認知の拡大」と相性がいい手段です。

例えば、問題を解決するために100万円の資金が必要だというとき。親密な間柄の人のなかから「100万円払ってくれる1人」を探して出資してもらったほうが早いし結果的にコストもかからないと思うんですよ。それでもクラウドファンディングを使うのは、「1万円を払ってくれる100人の人物を集める」こと、そして「この問題を問題視している人が100人もいると示す」ことに大きな意義があるからです。

プロジェクトのページを見た人が100人いたとしても、全員が支援をしてくれるわけではありません。100人に1人が支援すると仮定しても、1万人以上の人にプロジェクトページを見ていただく必要がありますよね。つまり、資金集めの過程で「こんな問題がある」と世の中に発信できるのです。

また、「プロジェクトに1万円を払ってくれる人が100人いる」ことを世の中に示す、というのも大きな意義です。「解決すべき課題だと捉えている人がこんなにいる」――この人数という指標が説得力となるので、当事者ではない人でも問題の重要さや深刻さを理解しやすくなります。

何かが起こっても「絶望しなくていい」社会を作りたい

Q:GoodMorningが目指す世界とは?

私たちは「何かが起こっても『絶望しなくて良い』社会」をつくっていきたいと考えています。いまある課題を解決したとしても、新たな問題は次々にうまれてしまう。正直、すべての社会課題を無くすのは難しいことですよね。だからこそ私たちは、課題を「すべて解決しきる」ことを目指しているわけではないんです。

皆の力を合わせて課題に向き合っていける、なんとかしていける環境さえあれば、また別の問題が起こったとしても「絶望しなくて良い」じゃないですか。私たちが作りたいのはそんな世界なんです。

ハッピーな未来像を提示していくことももちろん大事ですが、「今この瞬間」苦しんでいる人・悲しんでいる人がいるという事実」を無視したくはない。だからこそ、まずは「ひとつひとつの課題に向き合う」ことを大切にしています。

酒向萌実さん

酒向萌実さん

Q:「クラウドファンディングならではのパワー」を感じることのできた、印象的なプロジェクトは?

最近のものだと、印象に残っているのは「辺野古・米軍基地建設に関する沖縄県民投票」の際の「県民投票音楽祭」プロジェクトですね。これは、「一人ひとりが県民投票についてきちんと考えるきっかけを作りたい」との思いから始まったもの。その手段として「音楽イベント」を開催し、無料でより多くの人に参加してもらえるよう、クラウドファンディングで開催資金を募りました。

県民投票音楽祭

県民投票音楽祭のプロジェクトページ(※募集は終了)

面白いなと思ったのは、沖縄県民「ではない人」が辺野古問題への意思表示をすることができたということです。県民投票に参加できない他県民でも、プロジェクトの支援を通じ間接的に「辺野古について考えている」と示すことができました。これまでなら「参加できなかった」問題に対して、「参加する」「意思表明をする」チャンスをつくれたっていうのはすごくよかったな、と思いますね。

ニュースを眺めていて気になった社会課題があったとしても、自分にできることはないからと、そのまま流してしまうことって多いと思うんです。確かに直接的に課題解決に関わるのは難しいかもしれない。でも、クラウドファンディングを通して小さなアクションを起こす、という手段だってあるんです。そういう使い方があるということをもっと広められたらいいな、と思いますね。

社会問題を、「自分の関わる問題」に

Q:プロジェクトをより多くの人に支援してもらうコツは?

クラウドファンディングは、お金がその場でモノやサービスに交換される普段の買い物とは違います。プロジェクトの支援者は、活動がきちんと前進し、良い影響が生まれる「可能性」に期待してお金を支払うわけです。すぐにリターンがあるわけではないからこそ、支援者が「自分が払ったお金の使い道」を気にするのは当たり前のことですよね。

だからこそ、基本的なことですが「集まったお金でどんな社会を作ろうとしているのか」「どの部分をどうやって変えていくのか」という「地図」をきちんと作って提示する必要があります。「なぜクラウドファンディングという手段をえらぶ必要があるのか」「なぜこのタイミングで行うのか」という「そもそもの部分」についてもしっかり考えるのも大切なことです。もちろん募集期間が終了したら「集めたお金で何をしたのか」「どこまで活動を進めることができたのか」を丁寧に説明する必要もありますね。当たり前のように思えるかもしれませんが、これらは本当に大切なことです。

もう一つのポイントは、様々な人に「自分が関わる問題」あるいは「関わっていける問題」として捉えてもらえるよう、発信の仕方を工夫することです。

私たちは皆社会に生きる一員なのだから、極論を言ってしまうと、本当は世界で起きているすべてのことが「ジブンゴト」なんです。そうはいっても、まったく自分と関係のない事柄に対して興味を持つのは難しいですし、自分が解決しなければいけない、というモチベーションも持ちづらいですよね。だからこそ、まずは「自分に関係する話だ」と思ってもらうことが大切です。

酒向さんインタビュー

Image via Stock Snap

「社会課題をジブンゴトにする」と聞いたとき、真っ先に思い浮かぶのは、今の自分と同じような困難を抱える人や、過去の自分と似た悩みを持つ人、未来の自分が被るかもしれないしんどさを持つ人たちの「痛みに気づき共感する」場面ではないでしょうか。もちろんそれも「ジブンゴト化」のひとつの形だと思います。でも、同じような痛みを知っていなければジブンゴト化できないのかというと、そうではないと思うんです。

例えば、GoodMorningでは「○○を『エンジニアリング』で解決したい!」というような、「ソリューションとしてエンジニアリングを使うプロジェクト」を何度か扱ったことがあります。プロジェクトごとに解決したい問題のジャンルは大きく異なりますが、どのプロジェクトでも、多くのエンジニアの方から支援していただけたんですね。それはきっと、「自身の職業スキルや得意なこと、持っているリソースが、状況を少しでも好転させる可能性がある」――つまり、「自分が力になれるかもしれない」と感じられたとき、社会課題が「手の届く範囲内」に入ってくるからではないか、と思うんです。

ですから、プロジェクトを発信する際には、「どういう層の人たちが『ジブンゴト』にしやすいテーマなのか?」「ストーリーをどのように伝えたら、共感してもらいやすいか?」「ターゲットとなる人達にプロジェクトを知ってもらうためには、SNSをどう活用すれば良いのか?」などをきちんと考えた上で、伝え方を工夫するのが大切ですね。

Q:GoodMorningのこれからについて

クラウドファンディングって、1回しか使えないものではないし、使い方が制限されているわけでもない。あくまで「道具」でしかないんです。今後は、資金集めにとどまらないクラウドファンディングの使い方を色々提案していきたいなと思っています。皆さんにも、実際にいろいろな使い方を試してみてほしいですね。アイデア次第で、クラウドファンディングの可能性はもっと広がっていくと思いますから。

それから、プロジェクトを掲載するだけでなく、今後はもっと「メディア的な見せ方」にもこだわっていきたいですね。理想は「GoodMorningを見れば、社会にある問題と様々なソリューションについての全体図を捉えることができる」状態をつくることです。プラットフォームにただプロジェクトをずらっと並べるのではなくて、「どういう社会課題があるのか」「どういった背景があるのか」「ほかの問題と、どう関係しているのか」「プロジェクトによってどれだけ社会が変わる(変わった)のか」などが体系的にわかるように組み立てていきたいですね。

Q:読者へのメッセージ

「社会変革なんて、自分には無理」「自分とは遠いモノ」――そんなふうに思っている人が多いかもしれません。でも「社会変革を担う」ってプロジェクトを立ち上げることだけではないと思うんですね。

「問題がある」と声を上げること、クラウドファンディングで3,000円支援すること、Twitterでプロジェクトをシェアすることや友達と話をしてみることだって、社会をちょっと良くするための大切な一歩。社会変革を担うひとつの形なんです。だから、「自分が今日できること」「明日ならできそうなこと」があったら、小さなことでも迷わずトライしてみてほしいですね。

ふと思いついたとき、肩肘張らずにGoodMorningをのぞいてみてください。「もしかしたら社会って、これから良くなっていくのかも」――そんな希望をもってもらえるように、私たちGoodMorningもできることをどんどんやっていきます!

酒向萌実さん

何度でもおはようを。

編集後記

「実はもともとトップに立ちたいと思っていなかった」という酒向さんは、様々な葛藤の末、社長に就任することを決意したのだという。こういう選択ができたのは、彼女が誰よりもGoodMorningを想っているから、そしてGoodMorningがより良い未来を作っていけると信じているからなのだろう。誰かが苦しんでいる現在から目をそらさない「強さ」と、痛みを受け止める「やさしさ」の両方を持ち合わせている――そんな酒向さんだからこそ描ける未来があるし、それを実現させていくことができるのではないか。そんなことを思った。

GoodMorningが目指すのは問題を全部解決することではなく、「絶望しなくて良い世界」にしていくこと

そう聞いて、「それってあきらめじゃないか」「問題がなくならないと言い切ってしまうことのほうがよっぽど絶望的だ」と抗議したくなった人がいたかもしれない。

問題がなくなることはない――そう認めるのは確かにしんどい。だが、課題の存在そのものより「未来に希望が見いだせない状況に陥ること」のほうが、実ははるかにしんどいことだ。何をしても未来が良くならないのなら、今を頑張る理由なんてなくなる。絶望はときに、人々の生きる意欲まで奪い去ってしまう。

「何があってもきっとなんとかなる」と思えたなら、私たちは、ほんの少しずつでも前へ進み続けることができる。「絶望しないこと」は、きっと、いちばんの希望になるはずだ。

暗くて寒い夜のなかでも、かすかな光に目を向けられるように。朝、「おはよう」と挨拶を交わすのを心待ちにできるように。そんな世界にするために、いま自分にできることは?――そう思ったら、GoodMorningをのぞいてみてはどうだろう。何かヒントを見つけられるはずだ。

【参照サイト】GoodMorning
【参照サイト】平成31年度東京大学学部入学式 祝辞
【関連ページ】クラウドファンディングとは・意味