近年、スポーツウェアブランドが従来よりも環境負荷を抑えて製造した商品を販売することがトレンドになりつつある。気候変動への懸念から消費者の環境意識も徐々に高まっており、優れた環境戦略はブランドイメージの向上や売上につながるようになった。
ナイキが2020年1月に発売したスニーカー「Atsuma」は、その代表例と言える。パターンの使用効率を可能な限り高め、通常スニーカーの製造過程で出てしまう大量の廃棄材料を最小限に抑えている。
北海道の厚真町(あつまちょう)に由来するAtsumaは、ブラックの下地にブルー、オレンジ、ホワイトの3色のパターンを重ね合わせたデザインだ。それぞれのパターン生地に注目してみると、まるでパズルのようにパーツが切り出されており、捨てる部分がほとんど出ていない。
中でも象徴的なのは、ナイキのブランドロゴであるスウォッシュだ。スニーカーの内側にデザインされたブルーのスウォッシュを切り出した際に残ったパターンが、そのまま外側で使用され、ブラックのスウォッシュを浮かび上がらせている。また、紐に付いているラバータグは、アウトソールのラバーを切り出した際に余った部分を有効活用しており、ここでも素材の廃棄量が抑えられている。
製造に隠されたストーリーを知った上で、改めてこのスニーカーを眺めると、廃棄物を可能な限り減らす、という目的でパターン生地の使用量を制限したことが転じて鍵となり、その遊び心のあるファッショナブルなデザインが生み出されたことに気づく。
「廃材の再利用」という言葉の響きは、なんだか苦し紛れに努力しているような印象を与えることがあるかもしれない。しかし、Atsumaはそんなネガティブなイメージを見事に破壊する。工作を楽しんでいたらできたような、そんなデザインのスニーカー。材料に限りがあるから、クリエイティビティが引き出される。Atsumaを通してナイキは、私たちが環境問題と向き合う際の大切な心構えを教えてくれる。
【参照サイト】The Nike Atsuma Turns Negative Space into Positive (Aesthetic) Energy
【参照サイト】NIKE’S LATEST KICKS REDUCE MATERIAL WASTE, CREATING AN INTERESTING INVERSE DESIGN!