ワンタイムパスワードで、テロを撲滅。みずほ銀行の社会課題解決型キャンペーン

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近年、フィッシングサイトなどの偽サイトによる不正送金被害が急増している。ネットバンキングに関わる不正送金の被害は2019年9月から急増しており、11月だけでも被害額は約7億7600万円に拡大し、2012年以降最多の水準になっている。みなさんは、多額の不正送金は何に使われているかご存知だろうか?不正送金によって流通してしまうお金の一部は、テロ組織の資金源となっているのだ。

この社会課題の解決と自社のマーケティングを上手に組み合わせたCSV(社会課題解決型)マーケティングで成果を出しているのが、メガバンクのみずほ銀行だ。みずほ銀行は、ワンタイムパスワードの登録促進に向けてNPO法人アクセプト・インターナショナルと協創の取り組みを実施した。アクセプト・インターナショナルは「受け入れる」という意味のアクセプトを理念に置き、平和的な手法を用いてテロや紛争の解決に取り組むNPO団体だ。

みずほ銀行は過去二度にわたって、ワンタイムパスワードの利用促進キャンペーンを実施している。銀行都合のセキュリティ観点からワンタイムパスワードの利用を促すのではなく、第一弾では不正送金被害をなくしたいという思い、そして第二弾ではNPO法人アクセプト・インターナショナルと協創し、テロ組織への資金源までも断ちたいという思いを掲げた結果、当初より申込率が28倍に伸びるという大きな成果につながった。

コーズマーケティングとは、商品やサービスの購買を通して社会貢献につながることを顧客に訴えるマーケティング手法のことを指す。代表的な成功事例としてはアメックスの「自由の女神」修復基金キャンペーンやボルヴィックの「1L for 10L」チャリティプログラムなどが有名だが、みずほ銀行の取り組みは、NPO団体と協働しつつ「顧客参加型」のキャンペーンを創り上げたという点で非常にユニークだ。IDEAS FOR GOOD編集部では、みずほ銀行リテールデジタル開発部の竹内司さんと、アクセプト・インターナショナルの代表を務める永井陽右さんに話を聞いてきた。

顧客も企業も幸せになる「三方よし」の社会課題解決型キャンペーン

現状、不正送金被害は数億円単位で起きている。最近はウイルスではなく電話による犯罪や偽サイトが増えており、銀行のセキュリティで対策を講じるだけでなく、消費者のセキュリティ意識を醸成することも重要だ。このキャンペーンを企画した背景を両者に伺った。

みずほ銀行の竹内さんは、セキュリティと社会課題解決施策はとても相性がよく、やらない理由はなかったという。

「不正送金ゼロにしてはいけないという人もいませんし、メリットが多かったですね。社会にポジティブなインパクトがあることはもちろんですが、銀行としても当行に限らず、一度不正送金が発生すると膨大な手続きが発生し、コストが大きくなるため、ビジネスという観点でも合理的な理由がありました。」

みずほ銀行竹内さん

みずほ銀行リテールデジタル開発部・竹内司さん

一方、みずほ銀行からオファーを受けたアクセプト・インターナショナルも貴重な機会に恵まれたと語る。

「テロ組織への資金は海外送金で成り立っているので、テロ撲滅は現地で解決するのではなく、不正送金元となる上流での取り組みが重要となります。ただ、我々のようなNPO団体がエンドユーザーにリーチするのは限界があり、難しさを感じていました。今回、みずほ銀行様と協働することでより多くの方々にリーチができると思い、協働させていただくことにしました。」

成功の鍵は、ジブンゴト化と参加型

みずほ銀行は、ワンタイムパスワード登録促進に向けて、キャンペーンを二度打ち出した。その結果、第一弾では申し込み件数が2倍に、第二弾ではさらに6倍も伸びた。さらにメールからの申し込み数はなんと28倍まで伸び、登録人数1万人という目標を2ヶ月半で達成した。キャンペーンが大きく成功した要因について、みずほ銀行の竹内さんは顧客への参加意義を持たせたことではないか、と語る。

「第一弾ではお客さまに問題をジブンゴト化できるような工夫をしました。ワンタイムパスワードを利用することの意味、セキュリティやみずほのWhyをしっかりと伝えるために不正送金被害の現状を訴求し、自分自身の不正送金被害を防ぎたいという思いと、世の中の不正送金被害を減らしたいという意思を持つ動機形成をしました。」

そして、アクセプト・インターナショナルが加わった第二弾では、顧客参加型を意識したのだという。

「多様化する不正送金被害を防ぐためには銀行の努力だけでは難しく、お客さまにも協力してもらう必要があります。不正送金がテロや紛争に使われてしまう事実を伝え、一人一人が参加していただく、関心を持っていただく必要性を訴えました。ワンタイムパスワードのご利用はも勿論ですが、たとえば、なんとなく普段と違うなと思ったら一度立ち止まっていただき確認していただく。それだけでも大きな抑止効果があります。そのため、第一弾との違いとして、自分の不正送金被害を防ぎたいという思いだけではなく、犯罪やテロの資金源になるのを避けたい、抑止したいと思っていただける具体的な動機付けを意識しました。」

また、アクセプト・インターナショナルの永井さんは、アクションのしやすさも今回の成功の鍵だったと付け加えた。利用者は直接お金を振込、プロジェクトを支援する必要がなく、ほんの数クリックで誰かを救う手助けができ、気軽に参画できる仕組みだ。

アクセプトインターナショナル永井さん

NPO法人アクセプト・インターナショナル代表・永井陽右さん

協働において大切なのは、軸をぶれさせないこと

SDGs(持続可能な開発目標)の目標17に「パートナーシップで目標を達成しよう」というカテゴリーがあるように、社会課題の解決において民間企業とNPOの協働は欠かせない。これから様々な形で協働を試みる企業やNPO団体へ、双方の視点からアドバイスをいただいた。

みずほ銀行は企業がNPO団体と組む際に意識すべき点についてこう話す。

「なぜその団体と組むのかを明確にし、その理由をぶれさせないことが大切です。たくさんある団体の中から選んだ理由をしっかりと噛み砕き、社内にも理解してもらう必要がありました。付け加えると、支援金の使い道を団体に任せ “お金を支払う”ことに重きを置くのではなく、何にどう活かしていただくのか、アクセプトさんのようにクリアに教えてくれることも大切だと感じました。」

また、第一弾で成果を出したうえで第二弾でNPOと連携したように、前例を作りながら徐々にステップアップしていくことも有効だと語った。

一方のアクセプト・インターナショナルも様々な企業からオファーを受けることがあるという。そんな中、企業との提携有無を考える際に気をつけていることは、やはり軸をぶれさせないことだという。

「たとえいいお話がきても、その取り組みが自分たちの活動領域に合致しているかをしっかりと考えることが大切です。NPO団体は信頼がベースにあるので、自分たちの理念や活動領域にその企業が沿っているのか確認し、判断することが必要だと考えています。」

竹内さんと永井さん また、両者ともに、企業とNPOの間に入り、潤滑油の役割を果たしてくれるエージェンシーの存在も重要だと声を揃える。エージェンシーが間に入ることで、互いに直接聞きづらいこともクリアにすることができ、信頼関係の礎を築いた上で連携に入ることができるのだという。今回のキャンペーンも、もともとみずほ銀行のデジタルマーケティングを支援していた株式会社メンバーズが両者の間の架け橋となり実現したものだ。

今後に関して、アクセプト・インターナショナルの永井さんは「ファイナンス × テロ撲滅」のベストプラクティスとして同様の取り組みを世界で行いたいと語る。実際に今年は国連の会議などで今回の成果を世界に向けて発信予定だという。みずほ銀行の竹内さんも、このような取り組みを広め、継続していきたいと意気込んでいた。

一人一人の小さな意識の変化が社会課題の解決に繋がる

テロ撲滅と聞くと遠い世界の社会課題でジブンゴト化しづらいように感じるが、テロ組織の資金源の一つは、私たちが知らぬ間にしてしまっている海外への不正送金である。私たち一人一人がしっかりとセキュリティ意識を持つことで解決に繋がる。自分の資産の安全を守るためにワンタイムパスワードを使うといった小さなアクションが、テロ撲滅につながるということを示した点が秀逸だ。

ジブンゴト化のためのストーリーテリング、すぐにアクションができる、といったコーズマーケティングを成功させるうえで鍵となるエッセンスがつまったユニークな事例だった。

【参照サイト】みずほ銀行 不正送金被害をゼロに。
【参照サイト】NPO法人アクセプト・インターナショナル
【参照サイト】メンバーズ「社会課題解決」訴求のアプローチにより、みずほ銀行メルマガ経由でのワンタイムパスワード申込数を以前の約13倍に