2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故は、コンセントの向こう側にある問題を私たちに投げかけた。それから5年後の2016年には、電力自由化により、私たち消費者は自分に合った電力会社を自由に選べるようになっている。その結果、さまざまな業種による新電力の販売電力量シェアは、それまでの約5%から、2019年11月時点で約15%まで拡大した(※1)。今なお大手電力会社が8割強のシェアを持つ状況だが、少しずつ変化もある。
今回、電力シフトを通した環境配慮への意識を調査するため、IDEAS FOR GOODではソーシャルメディアを通じて「電力自由化後、再生エネルギーを重視した電力会社に切り替えましたか?」という質問したところ、以下のような結果となった。
IDEAS FOR GOODアンケート結果
ツイッター:切り替えた 59.1%、切り替えてない 40.9%(合計22票)
インスタグラム:切り替えた 25%、切り替えてない 75%(合計28票)
フェイスブック:切り替えた 52%、切り替えてない 48%(合計46票)
100弱の票数とはいえ、「切り替えていない」と回答した人が半数を超え、「そもそも再生可能エネルギーを重視した電力会社に切り替えるという視点がなかった」というコメントもあった。
電力会社を消費者が選べる、ということは何を意味するのだろうか。私たちが日々使う電気について多くの示唆を与えた3.11を前に、今一度考えてみたい。持続可能な社会における電力のあり方について考え、行動することを呼びかけている『パワーシフト・キャンペーン』の吉田明子さんに、パワーシフトをするメリットや、よりよい電力会社の選び方を聞いてみた。
再生エネルギー重視の電力会社に切り替えるメリットとは?
そもそも、なぜ再生可能エネルギー(以下、再エネ)を重視した電力会社への切り替え=パワーシフト をする必要があるのだろうか。
大きな理由としては、まず気候変動の緩和があげられる。日本の家庭から排出されるCO2の48.6%は電気に由来する(※2)ため、再エネを重視した電力会社に切り替えることで、電気に由来するCO2の排出を大きく削減することができる。もちろん、脱原発のためにもパワーシフトが重要だ。
また、パワーシフトは地域経済を活性化する可能性も秘めている。日本の発電の8割以上は石油や石炭、天然ガスといった化石燃料に依存している(※3)が、これらは海外から輸入されているため、化石燃料由来の電気に依存している限り、使えば使うほどお金は海外へと出ていってしまうことになる。化石燃料は資源紛争の原因にもなっている。再エネへのシフトはこうした紛争の原因を減らしていくことにもつながる。
太陽光や風力、小水力といった地域の自然資源を活かした再生エネを促進することで、気候変動の原因となるCO2排出を減らし、地域経済を活性化させるというわけだ。「原発や石炭火力に市民がかかわることは難しいが、再エネは市民が参加することができるエネルギー。自らかかわることによって地域や暮らしを豊かにしていける」と吉田さんはその意義を強調する。
グッドな電力会社を選ぶ7つのポイント
では、実際にパワーシフトをするにあたり、どのような電力会社を選ぶべきなのか。パワーシフト・キャンペーンでは、新電力の中でも以下7つのポイントをもとに全国のおすすめの電力会社を紹介している。
- 「持続可能な再エネ社会への転換」という理念があること
- 電源構成などの情報開示をしていること
- 再生可能エネルギーを中心として電源調達すること
- 調達する再生可能エネルギーは持続可能性のあるものであること
- 地域や市民によるエネルギーを重視していること
- 原子力発電や石炭火力発電は使わないこと
- 大手電力会社と資本関係、提携がないこと
地域に役立つ新電力の事例
吉田さんによると、キャンペーンで紹介する電力会社は、「自然エネルギーを増やすことにとどまらず、地域や暮らしの豊かさにつながるさまざまな取り組みをしている」いう。具体的にはどのような取り組みなのだろうか。
たとえば、TERA Energy株式会社は、もともと自死(自殺)問題や環境問題に取り組んでいた4人のお坊さんたちが2018年にスタートしたお寺発の電力会社。
いずれの問題も根本は富の奪い合いではないか、との気づきから、持てるものを分け合うことで誰もが孤独にならない地域社会をつくっていこうと電力会社を立ち上げ、地域のお寺を地元の人たちに開放したり、お年寄り向けの体操教室や地域のおじさんおばさんが講師になる寺子屋などのコミュニティ活動(寺社仏閣・教会などの法人、 NPO 、任意団体)に売上の3.5%を寄付する「ほっと資産」事業を推進したりするなど、宗派や立場を超えて地域社会をよりよくする取り組みも展開している。
東京の城北地域や板橋を中心に広がる、めぐるでんき株式会社は、自然エネルギー選択の電気代の一部を地域の人たちの取り組み支援に還元している。プロジェクトは障害者の自立支援や築100年の古民家の再生、子育てママの社会復帰支援など。吉田さんによると、最近はプロジェクト同士の相互交流から、新たなつながりも生まれ、再生された古民家やギャラリースペースが交流の場所にもなっているという。
▶ めぐるでんき
みんな電力は電力の生産者と消費者がつながる「顔の見える電力™」をテーマにしており、その取り組みの一つとして全国にある150箇所ある再エネの発電所をから1か所選び、月々の電気代から100円を「応援金」として寄付することができる。中にはお米などのプレゼントがあるところもあり、電気をつくる人たちとの交流を楽しむこともできる。こんなお楽しみをきかっけにパワーシフトの相談をしてみてはどうだろう。
▶ みんな電力
キャンペーンで紹介されている電力会社は、持続可能な社会をつくるという志を持ち、地域のニーズに合わせたユニークな取り組みを行っているところばかりだ。IDEAS FOR GOODが実施したアンケートで、再エネ重視の会社に切り替えない理由として「家族を説得するのが難しい」という声もあったが、こうした取り組みをきっかけに話をしてみるのもいいかもしれない。
電力会社のウェブサイト、どこを見ればいい?
「自分が応援したいという電力会社を選んでほしい」と吉田さん。一番のポイントは、その電力会社の描く未来に共感できるかどうか、だという。情報を集めるのには時間もエネルギーも必要だが、どこを見て判断したらいいのだろうか。
吉田さんは、各社のウェブサイトで紹介されている社長や社員の想いが紹介されているインタビュー記事を読むことを勧めている。「新電力の特徴はさまざま。同じ再生可能エネルギーでも、地域にフォーカスしていたり、市民太陽光発電もあれば、市民出資の小水力発電もある。連携している企業や団体もいろいろ。自分が想い描く未来に近い電力会社をぜひ選んでみてほしい」。パワーシフトのウェブサイトでも、各社の短いインタビューが掲載されているのでチェックしてみよう。
電力会社がどこから電力を調達しているかを示す、電源構成を見るのもポイントの一つ。電力構成を開示していないところは問題外だという。構成をみた上で、再エネ比率の割合や再エネでも、どんな発電所なのか、市民が関わる発電所なのか、FIT系(固定価格買取制度によって買い取られた電気)が多いのかなどを見ながら自分の考えに合ったところを選ぼう。
とはいえ、新電力は小規模なところが多いため、なかなか広報に手がまわらず、情報がわかりづらいところもあるかもしれない。また、現段階で再エネ100%というところは少ない。「完璧なところはないのが現状。でもそれぞれビジョンの実現に向けて努力している最中なので応援する気持ちで選んで欲しい」と吉田さん。電力会社と一緒に、再エネを進め、地域を応援していく、そのプロセスを楽しむのもパワーシフト流と言えそうだ。
月々の電気代に未来を託して
パワーシフトすると電気代が高くなって損するのでは?という問いは常にある。でも実際にはほとんど変わらないか、安くなる場合もある。一人暮らしなどですでに節約を頑張っている人に関しては、少しだけ高くなる場合もあるかもしれないが。
「毎月数千円を環境や地域で活動するNPOに寄付をするとなると大変ですが、月々の電気代で環境を破壊するのではなく、守る活動に貢献できるとすれば一石二鳥。使わない手はないのではないでしょうか」と吉田さん。電気代を通じて未来をつくれるとしたら、価格を超えた価値があると言えるのではないだろうか。
電力会社の選択の権利を使うかどうかは私たち次第。しかし、その選択によって未来は大きく変わる。
もうすぐまた9年目の3.11がやってくる。コンセントの向こう側は知らない、という時代はもうおしまい。どんな未来をつくっていきたいのかを考える貴重な機会として、楽しみながらパワーシフトをしてみてはどうだろうか。
簡単なパワーシフトのコツ
- 住んでいる地域に再エネを重視した電力会社がないか探してみよう
- 生協に入っている人は生協で再エネ重視の電力サービスがあるかどうかきいてみよう。
- 1、2で納得できる電力サービスがなかった場合、もしくは地域に再エネ重視の電力会社がなく、生協でも該当するサービスがなかった場合は、全国展開する、再エネ重視の電力会社を探してみよう
よくある質問
Q. 価格は高くなりますか?
あまり変わらないか、むしろ安くなる場合があります。一人暮らしで節約を頑張っている人は高くなる場合があるかもしれません。
Q. 新たな設備工事は必要ですか?
不要です。
Q. アパートやマンション住まいなので切り替えらえないのでは?
切り替えられます。建物一括契約の場合はできませんが、一括契約をしているところはあまりありません。
Q. 停電リスクは?
これまでと同じです。切り替えなかったとしてもリスクは変わりません。
Q. 切り替えた新電力が倒産したら?
電気は止まりません。改めて電力会社を選ぶだけです。
Q. 切り替え手続きが煩雑なのでは?
検針表を用意してウェブサイトや電話から申し込みをするだけです。5分もあればできます。
すべて吉田明子さんに回答いただいています。
※1 電力・ガス取引監視等委員会 電力取引の状況(令和元年11月分)
※2 温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
※3 我が国の一次エネルギー国内供給構成 出典:総合エネルギー統計
【参照サイト】パワーシフト