サーキュラーエコノミー×新しい働き方で「人材ロス」ゼロへ。サーキュラーHRローンチレポ

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2015年の電通社員の過労自殺や、昨今のコロナウィルスによるリモートワークの推進をはじめ、「働き方」に関する変革が始まっている。誰もが持続可能な形で働き、個々の価値を発揮し続けられる社会が求められている今、「人という資源」を使い捨てず、育て、循環させる取り組み「サーキュラーHR」が1月からスタートした。名前の通り、資源を循環させる経済モデルである「サーキュラーエコノミー」と、「人的資源=(人材)」の在り方を紐づけた考え方だ。今回は「サーキュラーHR」のローンチイベントを取材し、これからの「働き方」に迫った。

第一部では、サーキュラーHRの編集長である稲葉氏による「サーキュラーHR」という概念についてプレゼンテーション、第二部ではマザーハウス代表取締役副社長の山崎氏と稲葉氏によるパネルトーク、第三部では株式会社ラッシュジャパン人事部長の安田氏、多様性×マンガメディア「パレットーク」編集長のAYA氏、株式会社Waris代表取締役/共同創業者の田中氏によるパネルトークが行われた。

■登壇者プロフィール

登壇者プロフィール:山崎大祐氏

マザーハウス代表取締役副社長/マザーハウスカレッジ代表
大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や顧客への金融商品の提案を行う。2007年3月、バイクによるアジア横断旅行の準備のために同社を退社するも、マザーハウス立上げメンバーとして経営に参画することを決意し、取締役副社長に就任。2019年から代表。創業者であり代表をつとめる山口絵理子とは、大学のゼミの先輩・後輩にあたる。

登壇者プロフィール:安田雅彦氏

株式会社ラッシュジャパン人事部長
1989年南山大学卒業。西友にて人事採用・教育訓練を担当後、子会社出向の後に同社を退社。2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年よりラッシュジャパンにて現職。

登壇者プロフィール:AYA氏

多様性×マンガメディア「パレットーク」編集長
1992年生まれ。新卒でIT企業に入社し、ゲーム事業部に所属。その後転職を経て2018年5月に「Palette」を立ち上げ、2019年9月にフォロワー3万人を記念して「パレットーク」としてリニューアル。株式会社アラン・プロダクツで「人の性のあり方・多様性への考え方を変える」事業部の事業責任者を務めた後、株式会社TIEWA代表取締役CEOに。

登壇者プロフィール:田中美和氏

株式会社Waris代表取締役/共同創業者
国家資格キャリアコンサルタント。1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌「日経ウーマン」を担当。取材・調査を通じて接した働く女性の声はのべ3万人以上。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年株式会社Waris設立。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』がある。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事。講談社ミモレにて『100年時代のキャリアデザイン』連載中。

登壇者プロフィール:稲葉哲治氏

サーキュラーHR編集長
開成、東京大学から一転、中退して社会的ひきこもりを経験。当事者性を活かしてセゾングループ人材会社にてNPO協働事業等を担当後、日立グループにて新規事業、若者キャリア支援会社起業、人事、人材コンサルタントを経て、日本最大の人事・HRメディアにて人事コミュニティ運営等に従事。現在は㈱Warisコンサルタントの他、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するNPO法人GEWEL理事、ワールドカフェ・OSTファシリテーターとして活動中。
エシカルを軸にソーシャルセクターでも活動し、フィリピン少数民族と作るブランド「EDAYA」やセレクトショップ「エシカルペイフォワード」、「エシカル男子の会」、参加型社会投資イベント「SOIF」などで人と社会の関わり方の変革を行う他、ソーシャルビジネスのハンズオンインキュベーションも実施。

人は、社会すべての基盤となる「資源」

サーキュラーHR編集長 稲葉氏

稲葉さん:産業革命以降、貨幣を媒介に大量生産・消費のビジネスが世界規模で展開されてきました。しかし、恵方巻の売れ残り破棄を代表とするフードロスや、衣類の大量廃棄問題、気候危機が私たちの日常生活の中で顕在化する中で、こうした従来のビジネスのやり方では有限な資源が搾取され枯れ果てることにも繋がり、2020年代には限界を迎えるとも言われています。「大量生産、大量消費、大量廃棄」から「持続可能」への転換する中で、ビジネスも変化しなければなりませんよね。

そういった中で制定されたのが「SDGs」です。2015年に国連で制定され、環境やエネルギー、貧困問題といった多岐にわたる目標が掲げられていますが、これは企業の「チェックリスト」では無く、一人一人が「ゴール」に向けて取り組んでいかなければならないものです。
一方で、企業がビジネスの中で取り組むのはなかなか難しいと感じるかと思います。具体的にどこから始めたら良いのか、という点で「サーキュラーエコノミー」の考え方が重要になります。

左からリニア(直線型)エコノミー、リユース(再利用型)エコノミー、サーキュラー(循環型)エコノミー

従来は、take, make,wasteといった直線型の大量消費社会でしたが、それが徐々に「リユースエコノミー」へと変化し、リサイクルに重点が置かれるようになりました。そして、「サーキュラーエコノミー」とは、「ゴミ」という概念がなくなり「資源」として永遠に循環するビジネスモデルを指します。フリマアプリやライドシェアといったシェアリングサービスもそれに当たります。具体的なビジネスモデルとしての組み立て方は、「再生型サプライ」「回収とリサイクル」「製品寿命の延長」「シェアリング」「サービスとしての製品(サブスクリプションなど)」といった5つのモデルがあると言われています。

このように、サーキュラーシフトの時代に突入する中で、一番大切な「資源」は何でしょうか?「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」という武田信玄の言葉にもあるように、「人的資源」が最も大切になってくると考えています。ですが、これが実際に実現されているか?というと曖昧だと感じます。

例えば、サステナビリティやCSRといった分野では「3P」と呼ばれる、People(ひと)、Planet(地球)、Profit(利益)の要素がありますが、気候危機をはじめとした環境問題など「Planet」の話は多くされるものの、「People」の話はあまり活発に議論されていないと感じます。だからこそ、もっと「ひと」に焦点を当て、人を使い捨てにする社会=「人材ロス」社会からの脱却を目指していきたいと思い、「サーキュラーHR」をローンチしました。ここでは、5つのテーマを掲げて今後活動を展開していきたいと考えています。

サーキュラーHR 5つのテーマ

「人」は、歳をとるけどスキルは増す、という面白い資源だと思います。概念が広がるだけでは解決につながらないので、そういった「資源」をメディアを通して広め、仲間を集める、そして行動につなげていきたいと思います。

”Meet the New World”で、価値観の変容を

ここからは、バングラデシュをはじめとした「途上国」でものづくりを世界規模で展開する「マザーハウス」の代表取締役副社長/マザーハウスカレッジ代表の山崎さんと共に、実際にブランドの中で取り組まれていることについてパネルディスカッションが行われた。

左から稲葉氏、山崎氏

山崎さん:「マザーハウス」は、「途上国から世界に通用するブランドを作る」をモットーに誕生し、今年15年目に突入したブランドです。ものづくりを通して「途上国」のイメージを変えたいという思いで、6か国で生産、5か国で販売しています。

もともとは、2006年当時最貧国だったバングラデシュの地で、レザーやジュート(麻の一種)でバッグ作り始めました。まさに「第2の家」のような工場を一からつくり、今では250人が働く大きな工場に。2009年からネパールへ進出し、カシミヤやシルクといった現地で取れる素材を使ってストールを展開したり、2015年からインドネシアで伝統工芸をテーマにしたアクセサリー、2016年からはスリランカ、2018年にはコルカタへ…と、途上国の伝統工芸、手仕事を残していくために活動しています。

たしかにこういったものづくりの世界では、ものを「売っている人」が圧倒的に強く、実際ものを「作る人」は「使い捨てされている」と思われがちですが、私たちのブランドではそうではなく、工場を宗教や文化、価値観を超えてものづくりができる「第2の家」のような居場所を作りたいと考えています。

具体的に、マザーハウスが大事にしていることは3つあります。まず、「第2の家」のような会社と工場を作ること。一緒に仕事をしているスリランカや香港でもそうですし、世界では日々デモやテロなどリスクで溢れています。その中で、セーフティーネット機能を持った場所を作りたい。それは場作りだけでなく、最低賃金をしっかり確保する、子どもが生まれた働く人に対して無利子で貸付をする、といった金銭的な面でもそうです。

2つ目は、経済活動で心を「復権」するということ。経済活動は心の交換です。世の中は効率性を重視しているし、AIが話題になるなどますます機械化される中で「心」はあるのか?と思います。そういった意味でも、一人一人にしっかり対価を払えるようにしていきたい。

最後は、”Meet the new world”、つまり新しい世界との出会いです。「多様性」は正しい、と簡単に頭では理解できるけれど、現状は思想の分断や宗教対立など「異なるもの」同士ががぶつかり合っていると感じます。その中でも、新しい世界や文化と触れることってハッピーに繋がることだと思います。少しでも魅力的な人や文化に触れることで、見方が変わりますからね。


動画:MOTHERHOUSE Promotion Movie

稲葉さん:以前、「サーキュラーHR」で山崎さんにインタビューさせていただきましたが、証券会社で働かれていた時は「Profit(利益)」重視の仕事をされていましたよね。それが、マザーハウスを始めて「Planet(地球)」にまで広がって、結果として「People(働く人)」に意識がいっているな、と感じます。

山崎さん:前職の経験から、自分の中に資本主義への懐疑心がありました。そこからマザーハウスを開始し展開する中で、当初はこの価値観が分かる人にだけ分かれば良いって思いが強かったのですが、後々マザーハウスで働く人たちに社会的なことを押し付けていた、と気づいたことがあって。実際に、数年前にそのことについて社員から糾弾されましたし、働き方の未来が見えないのに、理念のために働き続けていたと気づかされたきっかけにもなりました。そもそも働く人たちがハッピーでないと、と。賃金面で、最低年収300万を変えることも必要だと感じました。

稲葉さん:実際に山崎さん自身が年収300万で生活する経験をされたそうですね。

山崎さん:その生活を2か月やってみたのですが、無理だと感じました。自分の生活が満たされていないと、他のことも考えられないですよね。自分は経営者なので「数字」も大事だけど、社会的な価値を持つと「予算」の達成との繋がりが見出せないことも。社会のためになることは、結果的に自分のためにもなるということを理解しないと、と思うようになりました。社員も、「予算の押し付け」だと思われていたけど、実際にやってみると、社会に対してのアウトプットと金銭的なサイクルがリンクしている、と感じてもらえるようになったな、と。

稲葉さん:たしかに、「企業」と「働く人」が対立構造にありますよね。両者の「対話」が重要に感じますが、いかがでしょうか?

山崎さん:数字と働き方の意義について毎月発表していたのですが、最初は反発されたものの、根気よく対話を続けていくと理解してもらえるようになりましたね。

もともと、「お客様」と「働く人」など様々なことが対立構造にあると思っています。何のためにこの会社が存在しているかをみんなが理解できてからこそ、対立がなくなると思うので、会社の存在意義を語り続けることが大事ですよね。

これから先、確実に「価値観」の時代になると感じます。多くの人が「経済成長が善」という考え方を持っていたけれど、今後はもっと多様な価値観の中でみんな生きるようになる。その中で大切なのが、コミュニケーションだと思います。マザーハウスが実施している「ファクトリービジット(工場訪問)」も、実際にお客様が生産地へ訪問し対話の機会を増やしていくために大切なことです。こういった経験の中で価値観が変わったり、共感し合う仲間を作ることにも繋がるので。

稲葉さん:「価値の変容」を提供し、その機会からそれぞれが学んでアップデートされる印象です。まさに、”Meet the new world” をされていますね。

Image via ShutterStock

山崎さん:学び直しって、今後もっと重要になると思います。大学卒業後に40年以上働くと考えると、その中で価値観の変容が大事になりますよね。スキルの変容や穴埋めばかり企業は提供しているけど、価値観自体にはアプローチしていないし、本当の意味で人を育てている企業は無いのではと感じることが多いので、私たちはもっとそういった機会を作っていきたいと思っています。どんなに大きな企業でも、人を大切にできないところはダメになるし、経営トップがしっかり人の成長する機会にコミットするべきところだと思います。

加えて、「良いものを作れるか」という主観や自分が大切だと思うことを貫くのも大事だけど、それって独りよがりになりやすいということでもあるので、みんなで一緒に作っていくことが大事ですね。ソーシャルグッドな製品やサービスで競争力があるものも出てきているし、ある意味で。淘汰されるような時代に来た気もする。「ソーシャルグッド」にプラスした価値観が問われている気がするな、と。

稲葉さん:確かに、エシカルファッションの文脈でも、商品自体が魅力的で一人歩きするようなものじゃないと選ばれないですよね。

山崎さん:私たちが大切にしている想いに共感してくれる方と一緒に作る、というのがポイントだと感じます。

稲葉さん:「ダイバーシティ」の面については、どうやって新しい世界へつなげていこうとお考えですか?

山崎さん:ダイバーシティだけだとめちゃくちゃコミュニケーションコストがかかると感じていて。女性活躍といった言葉もよく聞かれますが、正直一人一人個性があるという点においては「男性100%」であってもダイバーシティですよね。同じ目標の元で進んで行けるかが大切ですし、ただダイバーシティに取り組めば良いのではなくお互いが「見える化」されるだけでだいぶ進むと思います。

ダイバーシティを企業の力に

最後は、前半の稲葉さんと山崎さんに加えて、ラッシュジャパン人事部長の安田さん、「パレットーク」編集長のAYAさんと株式会社Waris代表取締役/共同創業者の田中さんによるパネルディスカッションが行われた。

左から、稲葉氏、安田氏、AYA氏、山崎氏、田中氏

稲葉さん:「ダイバーシティ」って、社員のためにやる「良いこと」と思われがちですよね。先ほどの山崎さんの話を聞いて、それぞれ感じたことを教えていただきたいです。

AYAさん:私は特に「LGBTQ+」にスポットを当てたメディアを運営しているのですが、企業が従業員ひとりひとりが心理的安全性を確保された場所で働けるようにすることは、どちらにとっても良いことだということについても発信しています。同時に、経営している会社でもメンバーが「らしく生きる」をもっと選びやすくしたいと考えています。

稲葉さん:実際に、「働き方」の意識として就職や退職のように「入り口」と「出口」が注目されやすいですが、今後より流動的な社会になるに伴って「中」の人にどう活躍してもらえるかが重要になると思います。「ダイバーシティ」を企業の力にしていく意識を持つこともそうですよね。

山崎さん:そうですね。私たちも、トランスジェンダーの社員自らセクシュアリティに関する研修をやっていたりして、そういった機会が社員それぞれの気づきに繋がっていると感じます。社内での対話や発話がしっかりとできる環境を、中の人がいかに作れるかが鍵だと思います。

安田さん:良い会社は、その会社が今までしてきた「経験」がベースにあると感じますね。自分も5社を経験する中で分かるようになったし、そういう会社にしたいと思います。成長の機会を求めて、そういった場所に人が集まってきますよね。

稲葉さん:私自身、昨年ラッシュジャパンの研修へ伺ったのですが、全国から200名もの社員さんが来て、死刑制度や動物実験などたくさんの社会課題をデイスカッションしていたのが印象的でした。

安田さん:ラッシュジャパンは、「社会的倫理観」という価値基準を持って社会に対して声を上げていく、というポリシーがあります。例えば、セクシュアリティに関しても、ロシアのある店頭で社員がLGBTライツを訴えたのが契機となって全社でそういった取り組みに繋がっていき、内発的に起こったんです。だからこそジェンダーに関する社内での障壁はないですね。ジェンダーだけでなく、こういう対応にすべきというディレクションより、インスピレーション自体が大事だと思います。ラッシュは広告を打たないので、店員自らオーナーシップを持って魅力を訴えないと人が来ないですし。こういった発想はシンプルで、「みんなハッピーでいよう」というのが根本にあります。

AYAさん:私の会社も、社名(株式会社TIEWA)の由来は「対話」にあります。社員一人一人にカスタマイズされたコミュニケーションをすべきだと思っているし、本来不要なところにストレスためるのはおかしいですよね。

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稲葉さん:Warisでは、逆に女性が多いですね。

田中さん:もともと発起した3人とも女性です。Warisには「もっと働き方って多様であって良い」というのが根本にあるので、世の中の画一的で硬直した働き方を変えたいと思っています。どの企業よりも自由に仕事をして欲しいから、Warisの30名のメンバーはリモートが中心ですし、フレックスタイムを実施したりもしています。もともと3名で始めた会社ですが、結果的に3人の拠点はホーチミン、福岡、東京、とバラバラです。こういった働き方を実際に人事制度としても実現しています。

企業のあいまいな「家族感」

安田さん:なんとなくハッピーであることがエンゲージメントであり、キードライバー(推進力)になるってことに企業全体も気付き始めていますよね。ラッシュだと、どんなプロジェクトをやるにせよ「それでみんなハッピーなの?」って聞かれることが多いです。ハッピーを追求して、「普通」を疑うことを日常的にやっていますね。個人の利益より団体の利益とか、労働=苦痛みたいに考えられてきたけれど、間違いなく最近は変わってきています。

山崎さん:一方で、そういった「自由」を勝ち取るためには、同等の「責任」も発生しますよね。

安田さん:「ハッピー」である結果は何か?が問われますよね。

田中さん:フリーランスの文脈だと、みんながみんなフリーになれば良いというわけでもないですね。様々な雇用のバリエーションの中で、自分にあった選択をするのが大事。自律的にキャリアの主導権を自分で掴んだうえで、自分はどうしたいのか?という問い持つのがとても大切だと思います。

山崎さん:自分が主導権を持つって、すごく大切なポイントですよね。自分が就職した16年前と比べて、企業と個人のパワーバランスが変わったと感じます。そもそも人が足りないし、そのプレッシャーから企業が変化している面もありますよね。

稲葉さん:その繋がりでいくと、「家族」にも言えますよね。新しい家族像である「企業」。働く人の「ライフ」にどこまで寄り添えるのか、が大事かなと。セクシュアリティーや妊活などのプライベートなことを企業に対してどこまで伝えられるのか?そういったプライベートと企業の線引きが曖昧になっていますよね。

安田さん:私自身は、社員は家族ではなく大切な他人だと思っています。こういった関係性のズレがハラスメントを起こしていると思っていて。実際に社員から「いつもラッシュファミリーって言っていますよね」と指摘されたのですが(笑)。その「ファミリー」というのは「価値観の共有」を意味していて、同じ価値観で繋がっていることをファミリーと称しています。大事な物事の優先順位や、有りか無しかの判断基準で繋がっているものだと思う。プライベートなことに関してはケースバイケースですよね。

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AYAさん:私も、社員は「家族」というより、互いに干渉しあうのではなく同じ方向を向いているものだと思います。そう考えていることもあって、「軽視しない」ことを大切にしていますね。そういうトーンが社内でできているので、プライベートな相談もできています。「寄り添う」というより、「開いておく」のが大事ですよね。

安田さん:家族のあり方自体も変わっていますからね。

田中さん:「寄り添う」というか、「パートナー」という対等な関係性な気がします。

山崎さん:とはいえ、寄り添っているなと思うことはありますね。社員個人の事情も考慮しているし、話をしっかり聴くようにしていますが、やり過ぎているとも感じているので「フェアネス(公平性)」は常に問われているな、と。苦しい時は助け合うのは大事ですし、もはや「居場所」に近いですね。それが「家族」かはわからないけど、その一つになれたらな、と。「家族」という価値観を押し付けること自体はダメだと思いますが。

安田さん:ヒエラルキー型の企業は「家族」と言いやすい印象があります。「うちの子」といったらパワハラの始まり、みたいな。社員を被支配相手として見ちゃってる感じがしますね。

「新しい成功体験」がカギ

稲葉さん:では最後に、今後展開する「サーキュラーHR」を促進するためにできそうなことを教えてください!

山崎さん:モデルケースかな。日本ではこれが大きく広がる要因になると感じますね。憧れの存在が見えると良いな。

AYAさん:たしかに、日本の企業って、「あっちがやったらしいから、こっちもやろう」ということが多い気がします。そういう取り組みをした方がよりハッピーになる、というのは自由度も上がることですし、対話も生まれるということにも繋がりますよね。こういったことが派生してムーブメントになりそう。

安田さん:個人的に思うことが2つあって、1つ目は「定年のない会社」みたいなナレッジシェア。ラッシュジャパンでは一昨年「定年」の制度をなくしていて。年齢がきたら職務能力が落ちるわけないのに「定年退職」があるのは「使い捨て」の他ならないですよね。
2つ目は、「おっさん」の活躍。意欲的に働かない「おっさん」、リストラになった「おっさん」をいかに「使い捨て」にさせないか、がポイントだと思います。地道に成功例とかを積み重ねて大きな波を作るしかないのかな。

安田さん:社会の影になっている人材層にスポットライト当てるべきですよね。

山崎さん:働かない「おっさん」へのアプローチは大企業もしていますよね。これって、見える化されている社会課題でもあると思います。どの企業も苦しんでいる問題なので、この課題に取り組むといろんな人に興味を持ってもらえそう。そもそも、オリジナリティのある人事制度をやらないと生き残れないですし、給与競争では勝てない時代にもなっていますよね。

安田さん:給料が高くなくてもこの会社が良い、と思われたいですね。Great place to workに繋げたい。

AYAさん:今って、家父長制のカルチャーに紐づいた社会になっているように感じていて。忖度せず対話が大事。一人ひとり、評価基準やキャリア形成が違いますもんね。

安田さん:共感するアプローチから地道に続けて、35年働いてきた人のコンピテンシーを掘り出していくことが大事かと思います。

山崎さん:まさに、人材プロデューサーが必要ですよね。

田中さん:加えて、会社以外の場でバリューを発揮する機会も大事になるかと思います。

AYAさん:時代とともに常識は変わっていくのでアップデートは必要ですが、今まで正義だと思っていたことをやってきた方をバッシングして終わってしまうのはもったいないですよね。社会構造自体に問題があるときは、個人を攻撃しないようにしたいです。

山崎さん:新しい成功体験を周りの人が作ってあげることがプロデューサーにできることだと思います。

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稲葉さん:最後に一言ずついただけますか?

安田さん:サーキュラーHR、人材ロスに向けて、全ての世代がやりがいを持って働き生きる社会を一緒に作りましょう!

AYAさん:仕組みを作れるのが会社にいるみなさんなので、それを一緒に考えていけたらと思います。

山崎さん:一つ間違えると悲観しちゃう社会ですが、楽観的にやる必要もあると思います。ポジティブな明るい未来を作ることが大事。optimisticの語源は、最善を尽くすという意味なので、それをやっていきましょう!

田中さん:Warisは「Live your life」を掲げていて、何より「誰一人取り残さない」ことが大事だと考えています。そのビジョンは一人ではできないので、同じ思いを持っている方と一緒に作っていきたいです。

稲葉さん:サーキュラーHRでは、2030年までに「もったいない離職ゼロ」「見落とし評価ゼロ」「苦虫勤務ゼロ」に取り組みたいと思います。今後はリモートワーク活用セミナーを行いますし、IDEAS FOR GOODさん提携していくので、今後もご覧いただけたらと思います。

編集後記

「サーキュラーエコノミー」自体、「ゴミ」を「資源」と捉え活用しているという概念であるが、それを”Human Reorce(人材)”の視点で見るのがとても面白いと思った。以前IDEAS FOR GOODに掲載された

「サーキュラーエコノミー」に関する対談(欧州CE特集#19)
のなかで、「人間の能力も同じで、自分は何の役にも立てないと思っている人でも、多様性の中では必ず活かされる場所がある。」「ただ『Being yourself(自分らしくあること)』であることが全体に多様性をもたらし、それによって循環のつながりが生まれ、持続可能なシステムが作られる。」という言葉に繋がる取り組みだと感じた。

モノやサービスを超えて、自分らしい働き方を考えることは本質的にサーキュラーエコノミーつまりは「循環型社会」に関わることの一つ。「外側」だけでなく、自分自身の「内側」を見つめてみるのはいかがだろうか。

今後WarisはIDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社と業務提携し、サーキュラーエコノミーに取り組む企業や地方プロジェクトへのビジネス系フリーランスのシェアリングを開始する

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