主役は市民。シェアリングエコノミーで地域の魅力をリデザインする千葉市の挑戦

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「千葉市」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。千葉市は幕張メッセ、マリンスタジアムといった集中的に人が集まる施設を持ち、都心部からも近い。一方で自然が豊かな地区もある。2020年の東京オリンピックではレスリングやフェンシング、パラリンピックのゴールボールなど千葉市内で7競技の開催が決まっている。

しかし他の地域と同じように人口減少と少子高齢化の問題を抱えており、若者の人口流出の傾向が見られるという。世界中の人が集まるオリンピック・パラリンピックを目前として、千葉市は地域の課題を解決し、世界中から注目される地域になるための施策を検討している。

その施策のひとつとして、2017年11月に千葉市は所定の条件を満たし、一般社団法人シェアリングエコノミー協会により「シェアリングシティ」としての認定を受けた。シェアリングシティとは、住まいやオフィスなどのスペースをはじめ、モノ・スキル・時間など様々なシェアを街のインフラとして浸透させることで街全体の経済効果と活性化を生み出す都市を指す。

今回はそんな千葉市の取り組みと、2019年2月に千葉市美浜区にある幕張BASEで開催された、市民と考える「千葉市のシェアエコを考えるワークショップ」で出た意見を紹介する。

千葉市が掲げるシェアリングエコノミー推進事業

千葉市が掲げるシェアリングエコノミー推進事業

シェアリングシティとしての取り組み

まずは、シェアリングエコノミーの活用を目指す千葉市の3つの取り組みを見ていこう。

「特区民泊」で集客の分散化

千葉市にある若葉区と緑区は加曾利貝塚や自然公園などのレジャー施設に恵まれ、イチゴや米などの収穫体験も楽しめる。幕張メッセなど人が集まる美浜区だけでなく、これら若葉区と緑区の地域経済活性化に向けてほぼ全域を特区民泊エリアとして、「緑」「里」「農」の3つをキーワードとする農業体験や観光資源を活用する。

特区民泊第1号認定施設であるZOO HOUSEは2018年4月にオープン以降、半年間で約500名の宿泊者を迎え入れることができた。

新たな交通インフラ「シェアサイクル」

都市部における新たな交通サービスとしてのシェアサイクルの有効性や課題を検証するため、2018年3月より実証実験を開始した。

実証実験の開始当時は、千葉駅とJR海浜幕張駅を中心とする半径2.0kmの範囲で自転車台数を110台設置した。サービスを徐々に拡大させ、2018年末現在の利用回数は月15,000回を超える。2019年3月までには自転車数1000台規模の拡大を目指している。

千葉市民の声を届ける「ちばレポ(ちば市民協働レポート)」

千葉市内の道路が傷んでいる、公園の遊具が壊れているといったさまざまな課題に対して、ICTを使って市民がレポートする。市民と行政、市民と市民の間でそれらの課題を共有し、合理的、効率的に解決することを目指す仕組みだ。

2019年2月現在、レポーター数は5,500名を超え、道路・公園・ごみなどに関する6000件ものレポートを受けた。すでに90%以上の課題を対応済みとしている。

千葉市のシェアエコを考えるワークショップ

上記のようなシェアリングエコノミーを推進する一環として、2019年2月に「千葉市のシェアエコを考えるワークショップ」が開催された。当日は、千葉市よりシェアリングエコノミー推進事業を受託している株式会社パソナの社員らによるファシリテートのもと、千葉市の魅力と千葉市が抱える課題、そしてその解決策について、異なるステークホルダーの視点から話し合いが行われた。

参加したのは地元の主婦、企業、宿泊施設事業者、地銀、保険会社、学生など年齢も仕事もさまざまな人々だ。ここでは、そこで出た意見を紹介する。

たくさんのアイデアを集め、「いいね!」をし合った

たくさんのアイデアを集め、「いいね!」をし合った

1. 千葉ロック

1つ目は6区ある千葉市をもじった「千葉ロック」という音楽イベントの提案だ。農地や古民家、遊休農地も多く存在し、民泊の特区に指定された若葉区と緑区でロックフェスを開催する。千葉市の総力を結集したイベントにすることが目的だ。

幕張メッセなどがある美浜区に集まる人の集客として、具体的には、千葉市の市長がボーカルを務め、6区のそれぞれの区長からなるバンドの結成や、米を収穫した後の若葉区や緑区の水田を会場として活用することだ。ロックを聞きながら飲み歩くイベントにしていきたいという。「千葉ロック」という新しいブランド名ができるかもしれない。

2. シェアリングエコノミーセンター

2つ目は「シェアリングエコノミーセンター」という拠点の提案である。SNSの発信が得意な若者や、外国語が得意な通訳ができる学生、生活の知恵を沢山持っている高齢者、廃棄前の食品を譲ることができる農家など、市民の悩みや相談に対して行政だけでなく市民同士で繋がることができるハブとなる場所をつくる。

千葉市内に住み、距離が遠くて集まることができない人がいても、テレビ電話やSNSなどで情報を集めて共有できるようになれば、行政に問い合わせるほどでもない小さな「あったらいいのに」が解決できるかもしれない。市民の生活が豊かになれば、地域外からの注目も集まる。

千葉市に関わる参加者がアイデアを出しあう

千葉市に関わる参加者がアイデアを出しあう

イベント終了後、参加者の千葉市内でゲストハウスを経営する村田氏と千葉市職員の濤岡氏のお2人にお話を伺った。

Q:イベントに参加していかがでしたか?

村田氏:千葉市内のシェアリングエコノミーだけでなく、2020年に向けて世界とのシェアにつなげたいです。海外から来る人に向けて、先進的な千葉新都心のPRではなくディープな日本体験、古典的で落ち着く雰囲気のある日本の文化を伝えていきたいんですよね。幕張メッセのある美浜区に人が集まる傾向にありますが、緑区や若葉区は日本の古い部分がつまっているので、こういった地域こそ、発信すべきだと思っています。

参加者の株式会社DeLife 村田氏

参加者の株式会社DeLife 村田氏

Q:今回のワークショップを受けていかがでしたか?

濤岡氏:千葉市に限ったことではないですが、人と人とのつながりが少ないことが地域の課題です。だからこそ、ネットやICTを使ってつながっていくチャンスだと思っています。シェアリングエコノミーとは、新しいように見せかけて「今あるものを大切にしよう」という昔からある古い概念です。眠っている資産を効率的に役立てていきたいです。今回のワークショップでは面白い意見が出たので、これからは私たちがプロとしてそれらの意見を生かしていく出番です。皆さんの力を借りながら頑張りたいです。

千葉市 総合政策局 総合政策部 国家戦略特区推進課 濤岡氏

千葉市 総合政策局 総合政策部 国家戦略特区推進課 濤岡氏

イベント後記

ワークショップでは、老若男女集まった市民が活発に議論を重ねていたことが印象的だった。千葉市の発展についてユニークな意見が集まり、それぞれの市民が前向きに考えていた。「市民」という人財こそが、今後活用すべき千葉市の財産なのかもしれない。こういった場を設けることで市職員と市民がつながりあい、市政に対する信頼度も増すだろう。

リモートワークが進み、都心から一歩離れた地域の人気が今後伸びることが予想される中、都心も自然も近くにある、千葉市ならではの新しい発展の仕方がありそうだ。

老若男女さまざまな参加者

老若男女さまざまな参加者

【参照サイト】千葉市 シェアリングエコノミー

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