世界一履きやすいスニーカーブランド「Allbirds」に学ぶ、愛されるサステナビリティ

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近年、Z世代やミレニアル世代を中心に「エシカルファッション」をはじめとする、ライフスタイルに用いるアイテムを環境に配慮したものへ移行する動きが注目されている。気軽にエシカルな製品を使ってみようと検討されている方は、ぜひ足元から変えてみてはいかがだろうか。今回紹介する靴は、サステナブルでありながら、世界一快適と言われているシューズなのだ。

そのシューズの製造から販売まで手がけているのが、2016年の創業以来、世界中から注目されるブランド「Allbirds(オールバーズ)」である。同ブランドは、再生資源の専門家であるジョーイ・ズウィリンジャー氏と元サッカー選手のティム・ブラウン氏の二人で共同創業されたサンフランシスコ発のブランドだ。

2020年1月に世界で15番目となる店舗を東京(原宿)に国内1号店としてオープンしたAllbirdsのシューズは、創業当初からその品質の高さだけでなく、自然由来の原料から作られた、サステナブルな製品として注目を集めている。今回は、洗練されたデザインやこだわり抜いて選ばれた素材、そしてブランドとして取り組まれていることについて、Allbirdsのマーケティングディレクターを務める蓑輪光浩(みのわ みつひろ)さんにお話を伺った。

Allbirdsマーケティングディレクター 蓑輪光浩さん

Allbirdsマーケティングディレクター 蓑輪光浩さん

統一されたブランドコンセプトと、地域の特色を生かした内装

一歩店舗に足を踏み入れると、グリーンで覆われたディスプレイが目に留まり、その右側に続く壁にはシューズや鏡が並んでいる。細長い空間をうまく活用した店舗設計で、シリーズ(種類)ごとにエリアが分けられ、シンプルかつ解放感もある、明るい雰囲気となっている。

Allbirdsの店舗内装は全世界で統一されたコンセプトから成り、インテリアも同じものを使用している。店頭に並ぶ鏡は、雲、鳥、足、手など大小ユニークな形があり、遊び心とフレンドリーさが表現されている。また、顧客の購買体験に配慮した内装設計が施されており、細部にまでこだわりが詰まっている。

店内の鏡「鏡は靴が見える位置に配置しているのはもちろん、椅子も特注のもので靴紐が結びやすいように、座ったまま椅子が前に傾くよう設計されています。」と蓑輪さん。

また、洗練されたコンセプトや家具は統一しながらも、その地域や国のローカルなテイストも織り交ぜ、各店舗ごとに独自のストーリーを持っているのだという。例えばこのカウンターテーブルは原宿の旧駅舎の木のイメージからインスピレーションを得て、木のカウンターを使っている。

原宿の旧駅舎をコンセプトにした木のカウンター

原宿の旧駅舎をコンセプトにした木のカウンター

また、インテリアのみならず、靴紐も店舗ごとに地域の特徴を活かした限定色を揃えている。
「シューズを購入いただいた方には、靴紐をプレゼントしています。靴紐は地域ごとに色が違い、ここ原宿店の場合は鳥居のレッド、桜のピンクと葛飾北斎の富嶽三十六景をイメージしたブルーの3色を揃えています。靴や服に装着可能なバッジも各店舗限定のデザインになっていて、原宿店は桜のバッジです。」

各店舗で色が異なる靴紐

各店舗で色が異なる靴紐

このように、店舗にローカライズした要素を織り交ぜることによって、各店舗限定の特徴が出る。なかには、各店舗の靴紐やバッジなどをコレクションするAllbirdsのファンもいるのだという。

自然からインスピレーションを受けたデザインと素材

Allbirdsは現在、スニーカー、ランニングシューズ、バレーシューズ、スリッポン、撥水シューズなどを販売しており、合わせて9つのシリーズがある。Allbirdsのシューズは、自然の資源を原料として製造されていること、デザインがシンプルなこと、そして何よりもはき心地の良いことが特徴だ。

Allbirdsの靴

「Allbirdsのシューズは、ブランドロゴを前面に押し出さず、ナチュラルなデザインにこだわっています。また、できるかぎり自然由来の原料を使っているだけでなく、シューズの色も自然からインスパイアされており、これらは海藻、サンゴ、亀の甲羅などからヒントを得ています。」

さらに、シューズのインソールにはヒマシ油、ミッドソールにはサトウキビを活用している。サトウキビで作られているミッドソールは素材調達と製造工程で排出する温室効果ガスがサトウキビが吸収する二酸化炭素量を下回っているため、カーボンネガティブを実現している。そして靴紐は、全てリサイクルされたペットボトルから製造されているのだ。

「自然の資源を活用して製造しながらも、はき心地の良さを追求しました。そして特にユーザーから評価を得ている特徴は、気軽に靴を洗えることです。洗濯機で丸洗いできる手軽さも魅力の一つです。」

こだわり抜いた自然由来の素材

共同創業者のジョーイ氏がマテリアルの研究者であったことから、自社で素材開発から手がけることのできるAllbirds。社内の専門チームが再生素材の開発に携わっており、素材の選定、そして製造方法までを徹底的にこだわっている。蓑輪さんは代表的な3つのシリーズの特徴を説明してくれた。

「Wool Runners(ウールランナー)」

Allbirdsが一番はじめに開発したシューズが「Wool Runners(ウールランナー)」だ。このシューズの特徴はニュージーランド産メリノウールと呼ばれる羊毛から作られており、快適性と履き心地を追求して開発された。

Wool シリーズ

「ウールから作られているため、冬場は靴の中を暖かく保つことができる一方、夏場では涼しく履くことができる通気性も兼ね揃えていて、さらには匂いもつきにくいよう設計されています。」

実際に触ってみると、羊毛から作られただけあり、とても軽く柔らかい。薄く作られたシューズのボディは、確かに通気性がよくはき心地もとても良い。

「Tree(ツリー)シリーズ」

「Wool Runners」に続いて開発されたのは、ユーカリの木が主原料の「Tree(ツリー)」だ。ユーカリの木が採用された理由の一つは、灌漑施設を使用せずに自生するため、手間をかけずに育つからだ。また、羊毛に比べて強い繊維を作ることができるため、耐久性もより強化されたシューズとなっている。

Tree シリーズ

「『Tree』シリーズでも様々な種類のシューズがありますが、最近新たに加わったのが、ランニングシューズとしての機能性が加わった、『Tree Dashers(ツリーダッシャー)』です。Woolに比べてより通気性を良くし、フィット感があるため、スポーツシーンにおすすめのシューズです。」

「Mizzle(ミズル)シリーズ」

雨が多い地域で履くことができる靴が欲しいというヨーロッパのユーザーからのニーズに応え、製造に至った「Mizzle(ミズル)シリーズ」。シューズの内側に薄い膜を貼り、撥水効果を持たせたものだ。また、他の靴に比べて靴底に凹凸があるアウトソール(クラッシュパット)を入れ、雨でも滑りにくくなっている。

Mizzleシリーズ

「撥水効果を持たせるために、他のシューズよりも多くの素材を使い、加工過程も多くなっています。そのため、一番カーボンフットプリントの多いシューズとなってしまっているのが課題ですね。今後はさらに製造過程や素材の検討を重ね、CO2排出を減らしていきたいと考えています。」

機能性が高い製品は使用する素材や製造過程が複雑になる分、カーボンフットプリントが多くなってしまう。Allbirdsは自社の製品それぞれの二酸化炭素排出量を把握し、可能な限り減らすことにも率先して取り組んでいるのだ。

目標はカーボンフットプリントゼロ製品の開発

シューズのラインナップの横に、視界に入るポスターがある。それが、各シューズのCO2排出量が表示されたものだ。バージン素材、工場製造、洗濯、廃棄、それぞれの過程で排出される総二酸化炭素量が印字されている。

カーボンフットプリント(CO2排出量)が書かれたボード

「昔はカロリーが表示されていても、その数字の意味がわからなかったのと同じように、今からCO2排出量も表示して行くことができれば、一般的に認識し、その意味を理解する人が徐々に増えてていくと考えています。そしてただ認知してもらうだけでなく、CO2排出量を明確に提示することで、以前の商品よりも排出量を少なくすることを我々が宣言する役割も果たしています。」

アパレル・靴業界の企業とともサステナブル商品の開発を目指しているAllbirdsは、自らが明示することによって他の業者もCO2排出量を含め、環境に配慮した開発や製造をするよう意識してほしいと願っているのだという。

「店舗にくるお客さまも、環境に配慮した製造方法に興味を持ってくれる方が多くいます。我々の取り組みを説明することで、お客さま自身も環境問題を意識した購買行動を行うようになってくれていると思います。」

同社は5月にAdidas社との提携を発表したように、今後はカーボンフットプリントを排出しない、アスリートが履くことができるようなパフォーマンス型のシューズの製造にも本腰を入れている。

「例えば、カーボンフットプリント排出を極限まで抑えたサンダルを製造することはさほど難しくはないでしょう。しかし、スポーツの場面でも利用できる、パフォーマンスを重視した、トップアスリートが履く靴でカーボンフットプリントゼロを追求するのは大きな挑戦です。そのような高性能な靴を作ることができることを証明すると、他業種や他企業が追随して、より一般消費者向けな商品をサステナブルな素材やカーボンフットプリント排出を抑えた製造方法で提供することが可能になるのです。」

そして驚くべきことに、Allbirdsは独自開発したこの資源活用技術をすべて無償で情報公開しているのだ。オープンソース化することで誰もが閲覧でき、製造をすることができる。このように技術や知識を共有することで社会に同じような環境に配慮した製品が普及することを率先しているのだ。

オンラインを主軸にしながらもローカルコミュニティを重視

D2C(Direct to Consumers)企業としても名高いAllbirdsにおいて、ECよりも先に店舗から進出した国は日本のみである。日本に進出するタイミングも、顧客の購買体験を意識した判断だった。

「親日家である共同創業者のジョーイ氏が、日本人は商品を見たり触ったりすることで信頼をしやすく、質や完璧なものを求める日本人の性格を知っていました。ですので、初代の靴では日本人には売れないと思い、時期を待ちました。Allbirdsの商品は常にお客さんからのフィードバックを元に修正しており、数ヶ月に1度は改善(アップデート)をしています。『Wool Runners』は日本進出までにすでに数十回も改良を重ね、満を辞して日本へやってきたという訳です。」

日本文化や日本人の属性を知っている経営陣がいることで、正しいタイミングを見計らった進出であった。今後は、ここ原宿の店舗を拠点に、ランニングやヨガなどのコミュニティの拠点としてのハブの役割も目指している。また、パフォーマンス寄りの商品も増えてきたので、オリンピック会場や外苑前とかで走る場所も多く、原宿店を拠点にスポーツアクティビティやカルチャーを提供したいと考えているという。

環境を大切にするDNAを持つ仲間を増やしたい

日本に進出したばかりだが、Allbirdsは日本で環境問題という大きな課題に立ち向かう仲間を探している。一例を挙げると、日本由来の原料から素材を採取し、いずれは国内で製造から販売までを完結するようなサプライチェーンも展開したいと考えている。日本で地産地消できるような原材料やそれを製造するための技術などを提供してくれるパートナーを探している。

「一緒に儲けるとか目立つとかではなく、環境問題のような大きな課題は一社では解決できないので、横断的に取り組める企業や団体、コミュニティとつながり、一緒に社会を変えていくポジティブなアクションがしたいと考えています。まだ日本に進出したばかりですので、これから積極的にパートナーを探し、様々なチャレンジをしていきたいです。日本はもともと自然を大切にするDNAがあるので弊社のビジョンや取り組みに共感する人は自然と増えていくのではないかと期待しています。」

また、先ほど述べたようにAllbirdsにとって消費者のコミュニティも非常に大きな柱となっているので、企業や団体同士のパートナーシップのみならず、スポーツやサステナビリティをテーマにしたイベントを消費者を巻き込んで開催していきたいのだという。

蓑輪さん

取材後記

Allbirdsのメンバーは女性スタッフが多く、コミュニケーションが活発で家族のようにフラットな企業カルチャーだという。

「アパレル出身の人が多く、社会の流れで地球規模の課題を解決したい人たちが集まっている印象です。メンバーは当たり前のようにサステナビリティなどの活動がライフスタイルになっている人がほとんどで、感受性が豊かでインターナショナルのマインドセットがあります。みな、お互い自主性を重んじており、お客さまへの気遣いや接客もピカイチです。」

また、最近ではAllbirdsからシューズ以外の商品、アンダーウェアの販売を開始した。Allbirdsは肌に近いセンシティブな製品からスタートしようという考えがあり、すでにシューズの次に合わせて使えるソックスを開発し、必然的に下着の開発に至ったのだという。

Allbirdsの日本進出をきっかけにより多くの環境負荷の低く、長く大切に使えるサステナブル商品を開発する企業が増え、輸入に頼らずに地域の資源を活かした地産地消の製造が普及する、社会に変化することを期待したい。

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