海を守り、地域を潤す。横浜市のサステナブルな循環型事業「横浜ブルーカーボン」

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港を中心に発展し、かつては漁業もさかんだった神奈川県、横浜。SDGs未来都市としてさまざまな気候変動対策に取り組んでいる横浜市では、海に生息する海草・海藻類によって吸収・固定される炭素「ブルーカーボン」と、海洋でのエネルギー利活用によるCO2の削減効果にあたる「ブルーリソース」を活用した独自のカーボン・オフセット認証取引制度、「横浜ブルーカーボン」事業を運営している。

ブルーカーボンを活用したカーボン・オフセット認証取引制度としては、世界でも唯一となるこの取り組み。海という地域の資源に着目して作り上げた「横浜ブルーカーボン」を通じてどのようなことを実現しようとしているのか、横浜市温暖化対策本部プロジェクト推進課にお話を伺った。

せっかくやるなら横浜で。地域資源である海の可能性に着目

世界では気候変動の影響とみられる異常気象、それに伴い毎年のように自然災害が発生している。気候変動の原因とされるCO2の大幅な削減を目指したパリ協定の発効、SDGs(国連持続可能な開発計画)の採択といったグローバルの潮流を踏まえ、横浜市でも2018年に温暖化対策実行計画を改定。CO2排出量を2030年までに30%削減(2013年比)することを目標にさまざまな対策に取り組んでいる。横浜ブルーカーボンも、その対策の一環として行われている。

事業活動や日常生活で生じるCO2を森林による吸収分(グリーンカーボン)で相殺する「カーボン・オフセット」については、皆さんも聞いたことがあるかもしれない。日本国内でも普及しており、横浜市でも当初は市の水源地のある山梨県道志村の森林をクレジット化した制度にしようとしていたという。しかし、せっかく始めるなら横浜でできないかと考え、地域の資源である海から生じるブルーカーボンに着目した。

「ブルーカーボン」と「ブルーリソース」

ブルーカーボンは、国連環境計画(UNEP)が2009年に発行した報告書で初めて取り上げられた。海洋生態系によって隔離・貯留された炭素をブルーカーボンと定義し、新たなCO2吸収源として提示した。ブルーカーボンは、海に生息する海草・海藻類にCO2が吸収し、泥になって外洋に排出されて海洋の奥底に沈むことで固定されたと見なされ、初めてクレジットとして認証対象にすることができる。

どの海草・海藻類であればクレジットとして認証可能なのかをはじめ、ブルーカーボンをめぐる研究は実はまだ発展途上だ。そのため、横浜ブルーカーボンではブルーカーボンと明確に認定できるプロジェクトから生じるクレジットを認証している。

ブルーカーボン の概念図

その一つが、海の公園(金沢区)の管理区域内に生息するアマモによるブルーカーボンクレジット(12.3トンCO2)。横浜市には、実は海岸線が140キロもある。しかし、人が立ち入りできるのは海の公園内の約1キロのみ。ここを拠点に企業や市民団体、学校、漁業者、行政がともに取り組んできたアマモ場の再生活動によって生まれたクレジットを、市内に工場や事業所を持つ企業2社が購入した。

海の様子

海の公園(金沢区)内。海に親しめるエリアとなっている。

また、横浜市漁業協同組合や八景島シーパラダイスの協力を得て取り組んでいるわかめの地産地消プロジェクトからも、クレジットが生まれている。わかめを地産地消することで、海外や国内の他地域からのわかめの輸送を削減できたことによるCO2削減分をクレジット化した。

この2つの事例からは、ブルーカーボンは生物多様性や食料生産のように生態系が私たちの暮らしにもたらすメリット(生態系サービス)との相乗効果も見込まれるため、沿岸の環境保全や地場産業の活性化などによって地域に新たな価値をもたらすことが期待されているのだ。

八景島シーパラダイスでのイベントの様子

八景島シーパラダイスでのイベントの様子。ブルーカーボンのクレジットから得られた資金は、こうした活動にも役立てられる。

ただし、ブルーカーボンだけではクレジットの量が少ないため、横浜ブルーカーボンでは海洋での省エネルギー効果によるCO2削減分を「ブルーリソース」としてクレジット化している。例えば、八景島シーパラダイス(金沢区)の水族館の空調設備で海水ヒートポンプの熱源を利用したり、港湾内で使うタグボートの燃料を重油からLNG(液化天然ガス)に切り替えたりすることで、消費エネルギー減少に伴うCO2削減分をクレジットにしている。地球温暖化対策として海で行えることはたくさんあるのだと、改めて実感できます。

東京湾のサステナブルな循環ストーリーを伝える

海の中に藻場が増えれば、CO2が吸収・削減される。藻場は窒素やリンを食べてくれるので水質がきれいになり、小さな魚たちが住み始める。例えば、アオリイカなどが住みつき、アマモに卵を産む。生命豊かな海づくりには、藻場が欠かせない。

一方、港に目を移すと漁業の世界でもご多分に漏れず高齢化が進んでおり、漁師の仕事を辞めてしまう人たちも増えている。

こうした課題の解決に向けて、カーボン・オフセット制度で得られた資金で海洋生態系の保全活動を行うことによって、海が豊かになり、漁業の再興につなげることもできるのだ。地域経済が潤い、市民の地域へのプライドも向上する。横浜ブルーカーボンとは、東京湾を舞台にそんなサステナブルな好循環を作り上げることを目指したストーリーそのものなのである。

東京湾大感謝祭でのイベントの様子

このように、横浜ブルーカーボンによってサステナブルな循環が広域で広がるストーリーを伝えることで、横浜市内だけでなく東京都内の企業からも横浜ブルーカーボンのクレジットを購入する動きが出ているそう。横浜ブルーカーボン事業を担当する温暖化対策本部プロジェクト推進課の村井豪太さんは、こう話してくれた。

「クレジットを買っていただきたい企業には、企業価値の向上につながるということだけではなく『ヨコハマの海を良くする一員になっていただけませんか?』いう言い方で、横浜ブルーカーボンのことをお伝えしています。私たちは、クレジットを売るよりも循環するストーリーをお伝えした上で買っていただくことが大切だと思っています」

サステナブル志向の企業やイベント、個人もクレジットを購入

では、実際に横浜ブルーカーボンでクレジット認証を受けたり、クレジットを購入したりするにはどのようにすればよいのだろうか。

まず、横浜ブルーカーボンのクレジットとなるプロジェクトを実施している主体が、横浜市に対してプロジェクト登録を申請する。登録されたプロジェクトは有識者の検証等を得ながら横浜市が直接審査、クレジットとして認証。その認証されたクレジットはウェブサイトで登録され、クレジットを購入したい企業や個人は、このウェブサイトから特定のプロジェクトを選んで0.1トン単位から購入できるようになる。2019年度はアマモ場やコンブ、わかめの養殖など、7者による11プロジェクトで合計約260トンCO2のクレジットを創出できた。(ブルーカーボンのプロジェクト登録申請、クレジット購入に際しては、こちらのサイトをご確認下さい。)

創出されたクレジットは、横浜市内などで開かれたスポーツイベントや、同市内などでの事業活動で生じたCO2のオフセット分として購入された。2019年度に最も多くクレジットを購入したのは、世界トライアスロンシリーズ横浜大会組織委員会だ。同大会では、2015年から参加選手による環境協力金でCO2をオフセットしている。

トライアスロン大会の写真

©satoshi TAKASAKI

横浜ブルーカーボンのクレジットによるCO2削減分は、現状ではNDC(パリ協定に基づき各国が国連に提出する温室効果ガス削減に対する貢献案)には算入できないが、横浜市への温暖化対策実施状況報告の際には盛り込むことができる。

2019年度には環境配慮印刷で知られる大川印刷など、サステナビリティを重視する横浜市内の企業が横浜ブルーカーボンを通じてオフセットを行った。また、横浜市役所新市庁舎の施工主である竹中工務店と西松建設は、新市庁舎を建てる際の掘削後の汚泥の輸送で生じたCO2をオフセットした。

このほか、海外のサーフィン大会に参加するための航空機移動分をオフセットした個人の方もいた。自家用車で出かけた家族旅行での移動分をオフセットするなど、個人でも横浜ブルーカーボンを利用できる。

海に県境なし。海を守る志を同じくする全国の自治体とも連携

今、横浜ブルーカーボンは横浜を超えて全国に広がっている。横浜市は「自治体ブルーカーボン推進連絡会議」を主催し、他の自治体にも横浜ブルーカーボンのノウハウを提供しているのだ。この結果、宮崎県日向市や大阪府阪南市など、横浜市と同じように海洋生態系の保全活動や地場産業の活性化に熱心な自治体で生じたブルーカーボンもクレジットとして認証した。

国内の他の地域がブルーカーボンに取り組む意義について、プロジェクト推進課の村井さんは次のように説明した。

「まず、それぞれの地域の特産品や重点事業のPRにつながることに期待する地域が多いです。例えば、日向市にはサーフィンで有名な海岸があり、サーフィンで町おこしをしようとしています。ブルーカーボンを行うことで、横浜とのつながりをアピールしながら地元の海をPRできるのです」

「また、阪南市はアマモサミットを開催するほど藻場の保護に関心を持っているものの、藻場再生の資金をどう捻出するかを考えていたそうです。日向市も藻場の保護には関心を持ちつつも、資金がない点は阪南市と同じでした。ブルーカーボンに参加して藻場再生への資金を得ることで、地域への波及効果が期待できます」

2020年7月現在で全国5つの自治体がブルーカーボン連携自治体となっており、横浜ブルーカーボンをきっかけに地域内外でのつながりの輪が広がろうとしている。

2020年度で8年目を迎える横浜ブルーカーボン。今後はどのようなことに取り組んでいくのでしょうか。再びプロジェクト推進課の村井さんに聞いてみた。

「今はまだ購入されたクレジットよりも認証したクレジットのほうが多い状態なので、まずは購入していただける量を増やしたいですね。また、認証できる海藻の種類を増やすことも働きかけたいです。自治体連携もさらに拡大させたい。こうしたことを通じて、今はNDCの中には含められないブルーカーボンを、J-クレジットやグリーン電力証書のようにNDCでも利用できるようになることにつなげていきたいです」

横浜市温暖化対策本部プロジェクト推進課にて。左・村井豪太さん、右・村井佑貴さん

日本の沿岸域に限ると、グリーンカーボンは今後減少していくが、ブルーカーボンは逆に増えていくとの試算もあり、ブルーカーボンは今後の温暖化対策の選択肢の一つとしてさらに期待されている。横浜ブルーカーボンを通じて、横浜で、さらには地域をつないで海からサステナブルな循環の輪が一層広がることを楽しみにしたい。

【参照サイト】横浜ブルーカーボン
【参照サイト】横浜ブルーカーボン・オフセット制度
【参照サイト】「ブルーカーボンについて」ブルーカーボン研究会

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事となります。

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