「安全な水」のための建築アイデア。ケニア発、竹とプラスチックの水道センター

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赤道直下に位置する国、ケニアの人口は4,500万人。そのうち40%の人が清潔な水の確保が困難な状態だ。ケニアの首都ナイロビには120万人が住むアフリカ最大のスラム地区・キベラがある。キベラには水道管が敷かれているが、老朽化が進んでおり水道管から漏れた水がコレラなどの病気を引き起こす。川への水汲みに毎日2時間ほどかける人もいるが、その川の水は清潔だとは言い難い。

そんなケニアを含む多くの途上国で見られる、清潔な水へのアクセスの問題にアプローチする、ユニークなデザインの施設を紹介しよう。ケニアに本拠を置くデザイン事務所BellTowerは、水の確保が不安定な地域の生活水準を改善するべく、水資源センターユニット『Open Source Communities』を設計した。オープンソースのソフトウェアを用いて設計されたこの施設は、レクサスが主催する「LEXUS DESIGN AWARD 2020」で、世界各国からの応募2,042点の中からグランプリに選ばれた。

水道センターの設計を行ったBellTowerのメンバー

設計を行ったBellTowerのメンバー (c) LEXUS

水配給やトレーニングセンターとして使用できるOpen Source Communitiesの外壁は、地元で調達できる竹と、丈夫でリサイクル可能なプラスチックからつくられ、防水性と断熱性に優れている。屋根は二重の円でできており、ソーラーパネルが設置された外側の屋根は日射しを最大限に活用し、雨水を効率的に集めるために30度の傾斜で固定されている。内側の屋根は傾きを調整でき、光や風を建物内にうまく取り込める。

ケニアの年間降水量は1,000ミリリットルで、土砂降りが30分続くと地下タンクに1万リットルの水を貯められる。タンクに貯められた雨水の水質は常に検査され、汚水はバイオ・サンド・フィルター(砂を入れて容器で水をろ過する浄水装置)を使用すると、ウイルスを86%死滅させ、バクテリアを99%除去できる。

水資源センターユニット

(c) LEXUS

この施設のユニット価格は約1万ドル(約104万円)で、人口1,000人の街の各住民が毎月1ドル(約104円)支払うと10カ月で支払いが終了する。2万リットルのタンクは400人に50リットルの水を供給でき、20リットルを10セント(約10円)で売ると、1万リットルで100ドル(約1万円)の売上になる。1カ月に10日雨が降ると、毎月1,000ドル(約10万4,000円)の売上となる。

現在ケニアの65%の人々は1日3ドル(約310円)未満で生活しており、20リットルの水が40円程度で高く販売されていることを考えると、水資源センターユニットは経済的効果ももたらすことがわかる。そして1,000ユニットがキベラ地区に設置された場合、住民は水汲みにかける時間を約90%、病気を10%、子供と妊婦の死亡率を50%ほど減らすことができるとされており、重い水を運ぶ際にかかる体への負担も減る。さらに、ユニット1体は作業員5人で10日で簡単につくれるのも大きな利点だ。

LEXUS DESIGN AWARD 2020のグランプリ受賞にあたっては、Open Source Communitiesが社会や個人のニーズを「予見」し、「革新的」なソリューションで人々の心を「魅了」する作品であることが評価された。審査員のジーン・ギャング氏は以下のようにコメントしている。

「今回のグランプリ受賞作品はデザインの影響を、地域の経済構造を変えるところまで広げ、さらに安全な飲料水の確保という人々の生活改善において重要な問題にも取り組むものだった。デザインとは何か、デザインに何ができるのかという命題への答えのひとつを提示してくれた。」

地域で調達できる材料で安全な水資源の確保を実現する『Open Source Communities』。サステナビリティに主眼をおきながら経済的効果ももたらす。まさにデザインが社会を変える力を持つことが実感できるプロジェクトだ。

【参照サイト】LEXUS DESIGN AWARD 2020 グランプリ作品を発表
【参照サイト】2020 GRAND PRIX WINNER

Edited by Tomoko Ito

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