自宅近くのスーパーやコンビニに行けば、いつでも新鮮な野菜や肉が手に入る。これは当たり前の光景だと感じられるかもしれない。しかし、もし歩いて行ける距離にスーパーや商店がなく、使用できる車もなかったら......?そんな風に考えたことはあるだろうか。
アメリカのロサンゼルス近隣には、食料品店がほとんどなく生鮮食品などの健康的な食品を手に入れづらい「フードデザート(食の砂漠)」と呼ばれる地域が多く存在する。このフードデザートは低所得で社会的に弱い人が暮らす貧困地域に相対的に多い。こういった地域では栄養の偏りによる長期的な健康被害が認められており、アメリカの大きな社会問題となっている。
さらに、2020年に入ってからは新型コロナウイルス感染症の影響で職を失ったり収入が減少したりしたことで、家計が厳しくなってしまった人が著しく増加した。活力のある人生を送るためにも感染症から身を守るためにも、健康的な食品を手に入れられる事は不可欠だが、それが可能ではない人たちが多数存在することは早急に解決すべき課題と言える。
そんなロサンゼルス発の、食に関する問題を解消するための取り組みを紹介したい。
『tangelo』というアプリは、ロサンゼルスの低所得者が新鮮な食料品の無料宅配サービスを受けられるプラットフォームだ。
まず、小児病院などの団体が地域の低所得の人々を特定し、tangeloのダウンロードを促す。そして所得審査により受給資格が認められると、1人あたり月額40ドルがアプリ内に電子マネーで支給され、6ヶ月間無料で野菜配送サービスを利用することができる。利用者は希望する野菜やフルーツの詰め合わせを自由に選択し、クリックするだけで注文完了だ。さらに、アプリ内の食品クイズに利用者が答えると、より多くの果物や野菜を得る特典が与えらる。アプリの運営側は、クイズのデータを栄養プログラム改善に使用している。利用者がアプリで自分の健康記録をつけられる機能も今後追加する予定だ。
このアプリは、アメリカ人の健康的な食生活を推進する非営利団体Wholesome Waveなどがtangeloと協力し、開発を進めた。利用者に提供される食料の費用は、この活動に協力する企業が負担している。なお、tangeloはロサンゼルスだけでなく他の地域でも非営利団体の協力を得て運用されている。
食べることは生きることの基本であり、最重要とされる課題である。フードデザートという慢性的な課題や、感染症によって生活が苦しくなった人々への継続的な支援をするためには、社会的に弱い立場の人々を助けるテクノロジーを用いたネットワークの構築と運用が鍵となる。このようなプラットフォームが活用されることでより多くの人に健康的な食品が提供され、「誰一人取り残さない社会」になっていくことを期待したい。
Edited by Motomi Souma
【参照サイト】tangelo
【参照サイト】Wholesome Wave