廃棄食材で染める服。アパレル発の食品ロス活用プロジェクト「FOOD TEXTILE」

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アパレル業界が直面する多量の廃棄物問題。SNSの普及によって一枚の写真や一つの投稿のためだけに洋服を使い捨てるような場面も見られるようになった。Global Fashion Agendaの2017年の発表によれば、全世界の年間衣料品廃棄量は9200万トンにものぼり、その量は今後も増え続けると言われている。

他方、食品業界でも廃棄物の問題、いわゆる食品ロスの問題がその深刻さを増している。政府広報オンラインによれば、2019年の日本全国の食品ロスは年間643万トンにのぼる。これは、国民一人あたりが年間50キロ以上の食品を廃棄しているのと同量だ。

この深刻な「廃棄物問題」を抱える両業界の課題を同時に解決するアイデアとしてご紹介したいのが、豊島株式会社(以下、豊島)が取り組むアパレル発の食品ロス活用プロジェクト「FOOD TEXTILE」(以下、フードテキスタイル)だ。大手繊維商社だからこそできる、独自の技術開発を生かした取り組みを見ていこう。

人にとっても地球にとってもサステナブルな素材づくり

フードテキスタイルのプロジェクトを牽引する豊島は1841年創業で、元々は綿花の卸売業者であった。現在では綿花取引のほか、羊毛などの繊維原料や原糸・生地の取り扱い、アパレル製品の生産管理や納品までの一連のプロセスなどに総合的に携わっている。また、持続可能なライフスタイル提案企業として様々なサステナブル素材の開発と提供、そしてテックベンチャーへの投資やスマートウェアの開発を推進している。

豊島のアパレル産業を通じたサステナビリティへの取り組みは、今からおよそ30年前に始まり、それ以来数多くのサステナブル素材を取り扱ったりプロジェクトを誕生させたりしてきた。ここで、それらのプロジェクトをいくつかご紹介する。

裁断くずを再利用した100%アップサイクル糸

洋服製造時の裁断くず*を再び糸として紡ぎあげるのが、「ECORICH」のプロジェクトだ。

ECORICHのアップサイクル糸と生地。多種多様な色の裁断くずを全48色の均一な色の糸に生まれ変わらせる。

ECORICHは、縫製工場で洋服を作る工程で発生した裁断くず*や、不要になった生地を使用して糸を紡ぐ100%アップサイクルの糸だ。回収する素材は主にコットンやポリエステルで、高度な技術を用いて色や素材の異なる綿を調合し、必要な色の糸に再生する。裁断くずの色をそのまま活かすため再度染色を施す必要がなく、水、染料、化学薬品も使用しない。それによって二酸化炭素排出の削減にも貢献している。
*裁断くず:生地を裁断する時に出る切れ端や余りの部分

消費者にもサステナビリティの概念を普及する

2005年に始まった「ORGABITS(以下、オーガビッツ)」の取り組みは、発足から15年を越える長期プロジェクトで、オーガニックコットンを10%以上使用している製品にオーガビッツのタグをつけることで、消費者に向けた活動の可視化を行う狙いだ。

同プロジェクトの特徴は、「100%オーガニックコットンのものを1人に使ってもらうよりも、オーガニックコットンを10%使用したものを100人に使ってもらいたい」というコンセプトである。100%オーガニックコットン使用にこだわるのではなく、みんなでちょっとずつ(bits:ビッツ)地球環境に貢献していこうという想いのもと、オーガニックコットンの混率を10%から設定できるようにしている。

また、ORGABITSの製品が購入されるたびに、製品一つにつき1円がインドのオーガニックコットン農家に寄付される仕組みも取り入れている。これにより、消費者は商品購入を通じて有機農家の健康で安全な労働の支援に間接的に貢献することができる。

人にも地球にも優しい。女性社員が手掛けるコットン吸水型ショーツ

最近では、フェムテック・フェムケアへの挑戦として、オーガニックコットンを使用した吸水型ショーツのプロジェクト「Hogara」も誕生している。

 

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市場では合繊素材を使用している場合が多い吸水型ショーツだが、オーガニックコットンを使用しているのがHogaraの特徴だ。また、豊島が扱う抗菌防臭・制菌・消臭加工「Repur®」を施すなど、社内の女性社員の抱える理想や要望を形にした環境にも人にも配慮した製品だ。

廃棄食材で染める服「FOOD TEXTILE」

フードテキスタイルは、規格外品や加工時の切れ端など、廃棄される予定の野菜や果物を染色の原料としてファッション製品に生まれ変わらせるプロジェクトだ。大手食品メーカーや飲食チェーン、農園などから引き取った食品残渣(ざんさ)を活用することで、アパレル業界の側から食料廃棄問題にアプローチする製品づくりを行っている。

フードテキスタイルの染料を使用したTabioのオーガニックコットン靴下。左から:赤カブ、ブルーベリー、ルイボス、抹茶。 (プレスリリースより)

フードテキスタイルの技術を用いた製品の特徴は、食品由来の染料特有のその優しい色合いである。

天然染料を90%以上使用した独自開発の染料は、染色された製品の色合いの耐久性を評価する基準である染色堅牢度(けんろうど)の試験をクリアしており、色落ちしにくいという特性を持つ。そのため、製品をより長く使用することができ、衣服の廃棄量削減にもつながっている点がサステナブルだ。

また一つの食品から複数の染料を抽出することも可能で、これまでにおよそ50の食品から500の色合いを生み出すことに成功している。

ガーゼ素材のトップス。手前から:ブルーベリー、コーヒー、ルイボス

世の中を変えたい。フードテキスタイルを持続可能なプロジェクトへ

今回IDEAS FOR GOODでは、豊島でフードテキスタイルのプロジェクトリーダーを務める谷村佳宏(たにむら・よしひろ)さんに、同プロジェクト誕生のきっかけやその思いについて伺った。

豊島株式会社 谷村佳宏さん

Q. フードテキスタイル誕生のきっかけを教えてください。

プロジェクトを立ち上げた当時、社会はデフレ状態にあり、繊維業界でも仲介業の限界と大量生産大量消費型社会の未来に疑問を感じていました。そんなときに参加した異業種交流会で某食品メーカーのCSR部門の方と出会ったのがきっかけでした。業界は違えど、従来の経済システムや廃棄物の問題に対して同じような悩みを抱えていることがわかりました。そして話をするうちに、食品残渣をアパレル繊維の製造に活用できるのではないかというアイデアを思いつき、早速テストを申し出ました。

Q. 実際に豊島としてプロジェクトを立ち上げる際には、どのような困難がありましたか。

はじめは、染料の原料となる食品残渣を仕入れたり加工したりするための協力を得るため、それまで関わりのなかった食品メーカーや農家、小売店、加工工場に一つひとつ足を運びました。馴染みのない繊維商社の唐突な提案を理解していただくことは簡単ではありませんでしたが、それでも世の中を変えたいという強い想いを持って、地道に取り組みを続けました。

Q. 食品残渣を用いた染色技術の開発において、苦労した点はありましたか。

それぞれの食品が染料として使用できるに値するかどうか、何度もテストを繰り返しました。特に、残渣によっては食品と同じ色の染料が得られるわけではないことは懸念材料でした。例えば、赤いトマトの残渣から抽出した染料の色は赤色ではなく黄色です。人々がその食品からイメージする色と染料の色が異なるとき、消費者にそれをどのように理解してもらえるのか、苦心しました。

さらに、やっと製品が出来上がっても、キャベツ由来のTシャツや玉ねぎ由来のエプロンに果たして需要はあるのだろうか、使いやすさや価格の面で満足してもらえるのだろうか、など考えるべき課題が多く浮かび上がってきました。プロジェクト発足当初は社内の有志数名による活動でしたが、それらの課題を一つずつ乗り越えていくことで次第に大きなプロジェクトとなっていきました。

converse e.c.labとフードテキスタイルのコラボスニーカー。左から:ドリップコーヒー、マロウブルー(ハーブ)

Q. フードテキスタイルの技術開発を通して得られた新たな発見はありますか。

食品残渣の種類によっては、天然由来の抗菌や消臭効果機能が製品に付着することがわかりました。その上、それらの機能は洗濯をすればするほど効果が増すという付加価値を持っています。

Q. フードテキスタイルの今後の展望を教えてください。

地球環境に配慮した製品づくりに携わるようになってから、アパレル業界全体が少しづつサステナビリティの実現に向けて舵をきり始めていると感じています。しかし、様々な取り組みが生まれても、単発で終わりがちなのがアパレル業界の課題だと思っています。フードテキスタイルの価値を永続的に社会で活かし続けるために、ブランド化することで消費者にもその重要性を伝えていきたいです。

さらに、アパレル業界だけではなくインテリア業界などともコラボレーションをして、フードテキスタイルの技術で人々の衣食住をより良いものにしていきたいと考えています。

編集後記

ここ最近、デパートやショッピングモール内の洋服店で「サステナブル」や「オーガニック」といった環境や社会への配慮を表す表示を見かけることは、もはや珍しくない。谷村さんが述べたように、アパレル業界のサステナビリティへの関心は近年著しい高まりを見せており、アパレルブランド各社がより環境や社会に配慮したモノづくりへとシフトする姿勢を示し始めていることは、消費者にも日々伝わってきているように思う。

しかし、今回フードテキスタイルのプロジェクトを通して豊島の取り組みに触れてみると、アパレル業界全体のサステナブル化は、消費者に製品を届けるブランドだけではなく、それを支える繊維商社の存在があってこそなのだと気づく。

消費者として、よりサステナブルな衣服を選択しようと考えるとき、私たちはそれぞれのアパレルブランドの取り組みに注目しがちだが、サステナブルな素材づくりの技術を磨きながらブランドや消費者への情報の周知にも力を注いでいる人々がいることを忘れずにいたい。

【参照サイト】豊島株式会社
【参照サイト】MY WILL – 豊島が提供する上質なサステナブル素材
【参照サイト】FOOD TEXTILE オンラインストア
【参照記事】政府広報オンライン
【参照記事】アップサイクルとは・意味
【参照記事】フェムテックとは・意味

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