美容師が「DV被害者」を適切な支援につなぐことができる理由

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ドメスティック・バイオレンス(DV)には身体的なもの、精神的なもの、性的なものがあるが、その被害を受けている人はどのくらいいるのだろうか。

オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)の2016年の調査によると、同国では女性の6人に1人、男性の16人に1人が15歳以降に、現在または以前のパートナーから、身体的もしくは性的な暴力を受けたことがあるという。また、女性の4人に1人、男性の6人に1人が、現在または以前のパートナーから精神的な暴力を受けたと答えており、DVは誰にでも起こりうる身近な問題であることがわかる。DV被害者の早期発見のために、地域でできることはないだろうか。

オーストラリアで美容師として働くソニア・コルビン氏は、美容師がお客さんからDVの相談を受けたときに、適切なアドバイスを行い、被害者を支援する機関につなげられるように、美容師を訓練する取り組みを行っている。同氏は「Hairdressers with Hearts」という非営利団体を立ち上げ、オーストラリア中の55,000人を超える美容師が持つお客さんとの信頼関係を生かして、 DVの解決への一歩を踏み出すことを目指している。

「なぜ美容師なのか」と疑問に思う人もいるかもしれないが、コルビン氏によると支援機関に相談したがらないDV被害者が、定期的に会う美容師に被害を打ち明けることは、しばしばあるのだという。また、メルボルン大学で上級講師を務めるハンナ・マッカン氏が行った調査によると、ヘアサロンやビューティーサロンで働く人の81.3%がコロナ禍以前に、お客さんにメンタルヘルスの問題を打ち明けられたことがあるという。「新しい自分に出会いたい」という理由でヘアサロンに行くことがあるように、こういった場所には何かしら私たちの感情を揺さぶる力があることがわかる。

とはいえ、DV被害者に寄り添うための訓練を受けることは、美容師にとって負担になるのではないかという心配もあるだろう。マッカン氏が、過去に類似の訓練プログラムを受けた複数のサロンワーカーに話を聞いたところ、意外にも「相談を受けたときの対応の仕方を学べて良かった」という答えが返ってきたという。今までお客さんから相談を受けたときに、どう言葉を返したらいいかわからなかったり、適切な支援機関につなげられず自分の問題として受け止めてしまったりしていた人が多いようだ。美容師に対応の仕方を教えることは、彼ら自身のメンタルサポートにもつながるだろう。

コルビン氏はABC Newsによる取材で、Hairdressers with Heartsを立ち上げてから3年間で、約140人のお客さんを助けることができたと話している。小さな町や村にもあるヘアサロンのネットワークを駆使すれば、家庭内の問題として見過ごされがちなDV被害を発見しやすくなるのではないだろうか。

【参照サイト】 Say No More to Domestic Violence | Hairdressers with Hearts

Edited by Erika Tomiyama

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