“メイド・イン・わたしたち”。岡山生まれの回収デニムプロジェクト「FUKKOKU」

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衣服の大量廃棄の問題に注目が集まっている。環境省によると、日本の家庭で廃棄される服は年間約48万トン。1日あたり大型トラック約130台分の服が焼却・埋め立て処理されているという。

そうした衣服の大量廃棄問題の解決に向けて大きな鍵となるのが、使い古された素材を新たに使用できるようにする循環型の取り組みだ。今回は、岡山県倉敷市を拠点にデニムブランドやホテルを展開する「ITONAMI」の共同代表・山脇耀平さんに、今春スタートした回収デニムプロジェクト「FUKKOKU」について取材した。

岡山から全国に広がる、ものづくりの繋がり

江戸時代、離島であった倉敷市の土地には塩分が多く含まれ、農業に向かない土地であったため、早くから土壌の塩分を吸収するためのコットン栽培が行われていた。その後は工業化の波を受け、学生服の製造など、様々なアプローチでものづくりがされてきた。学生服の需要が下がった際には、また新しいものづくりが模索され、産地の職人がジーンズの製造を始めるようになったという。

ITONAMIの共同代表であり、兄弟でもある山脇耀平さんと島田舜介さんは、2015年に「ITONAMI」の前身となる「EVERY DENIM(エブリデニム)」というデニムブランドを立ち上げた。

山脇耀平さん・島田舜介さん

左から、山脇耀平さん・島田舜介さん

大学生時代、岡山のデニムの職人と出会ったことをきっかけに、ものづくりの魅力に惹かれていった山脇さんと島田さんは、岡山県内の工場で働く職人を取材し、ウェブサイトで発信し続けた。そうした経験から、岡山のものづくりを盛り上げたいという気持ちが強くなり、ブランドを立ち上げるに至ったのだ。

活動を展開する中で、自分たちの活動をより楽しく広げていきたいと思った山脇さんと島田さんは、キャンピングカーで2018年から2019年の1年3ヶ月をかけて、全国47都道府県を巡る旅に出た。その旅を通して出会った、異業種の人々や各地の名産品に刺激を受け、実際に現地での暮らしやものづくりの文化を体験してもらえるような拠点を岡山に作りたいという気持ちが芽生えたという。2019年秋には、デニム産地・岡山の魅力を発信すべく、岡山県倉敷市に宿泊施設「DENIM HOSTEL float」を設立した。

DENIM HOSTEL float

2020年には心機一転し、デニムのブランド名を「ITONAMI」に変更。新たなものづくりを探求している山脇さんと島田さんは、今年新たな挑戦として、個人から回収したデニムを新しくデニム製品に作り替える「FUKKOKU」というプロジェクトを開始した。

産地のものづくりの「復刻」を目指して

FUKKOKUのプロジェクトでは、デニム製品を回収し、粉砕して綿状に反毛する(天然繊維で作られた繊維製品を、針状の機具で織りを崩すことによって毛羽立たせ、もとの綿または毛状の単繊維に戻すこと)ことで糸を作り、生地を織り上げる。反毛の技術は、これまでウール素材やアパレル以外の資材業界では存在したが、日本のデニム業界にはなかったそうだ。今回、この反毛の技術を使っている倉敷紡績に依頼し、FUKKOKUのプロジェクトを通して回収したデニムから糸を作り直す。

FUKKOKUプロジェクトの背景には、大量廃棄問題といったアパレル業界における課題に対する山脇さんたちの問題意識がある。加えて、100年以上の歴史を持ち、サステナブルなものづくりを展開する倉敷紡績に感化されたことが、このプロジェクトを企画するきっかけになったという。

今回のFUKKOKUプロジェクトでは個人から1000本のデニム製品を回収し、その半数はITONAMIで商品化、残りの半数は回収拠点の飲食店やブランドとともに新たな製品作りに使用する予定だ。そこには、一つのブランドとして素材全てを使い切るのではなく、プロジェクトに関わってくれる人たちと共に地域に密着したものづくりを展開していきたいという山脇さんたちの想いが込められている。

デニム工房

山脇さん:回収拠点のほとんどの店舗が、キャンピングカーで全国を巡っていたときの出会いや、SNSでのご縁なんです。現時点で回収場所は全国30拠点に広がっていて、その背景にはITONAMIの活動への共感や、店のユニフォームなどをこだわりのある素材から作りたいという、回収拠点の人たちの想いがあります。

今回のプロジェクトを通して、回収拠点の協力者や消費者とコミュニケーションを取るきっかけを作り、コミュニティの活性化に繋げたいと山脇さんは話した。

山脇さん:関わってくれる人たちが服を大切にするきっかけにしてもらいたいという思いを込め、『メイド・イン・わたしたち』というキャッチコピーをつけました。自分にとっては必要ではない服を提供することで、自分にとって大切にしたいものへと生まれ変わる。このプロジェクトを通して、皆さんの日常生活の中でそういった実感が湧くものにしたいと思っています。

共感の輪を広げ、産地の担い手を増やしたい

岡山という土地でデニムの職人に出会ったことで、ものづくりの魅力を感じ、今まで活動を展開してきた山脇さんと島田さん。しかし、デニム産業は、高齢化や後継者不足など、なかなか次世代の人材が見つからないのが現状だという。山脇さんは、ITONAMIを通して実際にものづくりに触れてもらい、様々なアプローチでデニム産業の担い手を増やしていきたいと話した。

山脇さん:今回のプロジェクトの名前である「FUKKOKU(復刻)」には、「服を刻む」という意味と、「思い出を刻む」という意味を重ねています。プロジェクトに参加する人が、自分の持ち物を大切にするきっかけになってほしいです。まさに、『メイド・イン・わたしたち』のコンセプトが示すように、私たち自身が純粋にものづくりを楽しめるようなプロジェクトにしていきたいと思います。

編集後記

サステナビリティやエシカルファッションといった領域では、欧米を中心とした国外の取り組みが有名だ。しかし、海外の事例をそのまま日本に適用できるかというと、そこには人々の意識や経済状況など、多くの障壁があるように感じる。

以前レポート記事の中で、土に還るおむつを展開するDYCLEの共同創設者・松坂さんが話していたように、今後は一ヶ所で作られる同質のものを多方面に展開するのではなく、その地域だからこそできる取り組みに焦点を当てる「分散型モデル」が重要になってくるだろう。そして、今回取材したITONAMIのFUKKOKUプロジェクトは、地域に根付くものづくりに焦点を当てた、まさに分散型の循環モデルであると言える。

全国各地には、多くの年月と人々によって継承されてきたものづくりの技術が存在する。そうした各産地におけるものづくりは、日本発のサステナビリティを探求する上で今後大きな鍵となるはずだ。

FUKKOKUプロジェクトは、2021年6月30日まで回収を行っている。全国約30箇所に回収拠点があり、郵送も受け付けているので、興味のある人はぜひFUKKOKUプロジェクトのサイトで詳細をチェックしてもらいたい。

【参照サイト】“メイド・イン・わたしたち”。みんなでつくる回収デニムプロジェクト「FUKKOKU」
Edited by Megumi

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