家庭内暴力から逃れる「無料列車チケット」イギリスで広がる

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新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で、世界のあちこちでロックダウンが行われ、人々が自宅で過ごす時間も長くなった。その結果、イギリスでは家庭の問題でヘルプライン利用が急増。特に感染者数が増えた2020年3月から7月の家庭内暴力(DV)の件数は、前年比7%増加したという報告もある。

被害者が一緒に生活しているパートナーから支配を受けていて、なかなか逃れられない場合もある。DVは、肉体的・性的な暴行以外にも、家庭内で精神的・感情的・経済的な虐待を繰り返すことも含まれる。たとえばパートナーから生活費を渡してもらえないなど、金銭的な自由を奪われる「経済的DV」を受けている人も多く、遠くに逃れたくても移動費用を払うことができないこともあるのだ。

そこで、イギリスの鉄道会社SoutheasternのDarren O’Brien駅長は、DVの被害者が安全な場所に移動するための運賃を無料にすることを思いついた。そして発足したイニシアチブ「Rail to Refuge」は、DVに苦しむ女性や子供を支援する慈善団体Women’s Aidや鉄道各社が共同で運営している。

家庭内暴力を受ける女性、男性、子供が「Women’s Aid」や「Men’s Advice Line UK」といった団体に助けを求めると、空きのある避難所に行くための列車のチケットが携帯に送られてくる。移動後は、助けを求める人の属性や状況にあわせた支援先につながれ、避難所(宿泊施設)も確保されており、着いた先で路頭に迷うこともない。

道中で「手持ちのお金がないこと」や「DVを受けているから移動の緊急性があること」を誰かに説明する必要もない。DVは、被害者と加害者が身内同士のため通報されないこともしばしばで、表面化したときには深刻な事態にまで発展している場合もある。「Rail to Refuge」では、DVを公にすることなくプライバシーを維持しながら、支援を受けることができるのだ。

実際の利用者の62%が「Rail to Refuge」がなければ、他に逃れる方法はなかったと述べている。利用者は今のところ、女性のほか、4分の1を子供が占める。

金銭面を心配することなく、DVから逃れられるシステム。これは、小さな配慮が大きな支援につながる好例ではないだろうか。

【参照サイト】Rail to Refuge. Free train travel for those fleeing domestic abuse.
【参照サイト】Domestic abuse during the coronavirus (COVID-19) pandemic, England and Wales: November 2020
Edited by Kimika

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