地震や台風など、自然災害に見舞われることの多い日本。東日本大震災を機に多くの自治体で災害に関する条例が定められ、企業に災害備蓄用品を備える努力義務が課されている。しかしその陰では、使用されずに賞味期限の近づいた水や食品が、大量に廃棄されてしまっていることをご存じだろうか。
それを課題として目を向け、期限が迫った備蓄品を有効活用したい企業とそれを必要としている団体をマッチングすることで災害備蓄用品を有効活用し、地域の循環をつくり出そうと立ち上がったのが株式会社StockBase(以下、StockBase)だ。同社は、横浜市立大学の学生のアイデアから生まれ、2021年4月に正式に会社として事業をスタートした。同年8月には、横浜市のスタートアップの成⻑・発展を⽀援する「YOXOアクセラレータープログラム2021」の支援企業にも採択され、今後の成長も期待されている。
若い力で地域や社会に貢献するStockBase。代表の関芳実さんと菊原美里さんに、会社立ち上げの経緯や事業内容について、お話を伺った。
きっかけは、企業の廃棄問題との出会い
──事業立ち上げの経緯を教えてください。
関さん:StockBaseの事業アイデアは、ビジネスプランを考え、それをビジネスプランコンテストに出すまでがカリキュラムの『起業プランニング論』という大学の授業のプロジェクトから生まれました。
チームでコンテストに向けてアイデアを練っているなか、企業の販売促進用の余ったカレンダーを毎年高齢者施設に届けている方に出会いました。カレンダーを施設に運ぶのを手伝わせていただいたときに、企業内で不要となり廃棄されていたカレンダーが、別の場所では必要とされていることを知りました。
菊原さん:それをきっかけにいくつかの企業にヒアリングを重ねるうちに、災害備蓄用品も企業の廃棄問題のひとつであることに気づきました。カレンダーのような販促物であれば、余るのであれば作る量を減らすことができます。一方、災害備蓄用品は従業員の人数分ストックしておかなければならず、数を減らすことができません。さらに、食品や水には賞味期限があるため、期限になると必ず入れ替えを行う必要があり、その度に大量に廃棄されている現実があります。そうしたことから、カレンダーのように備蓄品を必要としている人たちの所へ届けられないかと考えました。
関さん:最終的にいくつかのコンテストに出場した結果、『第1回よこはまアイデアチャレンジ』で『最優秀賞』、『ちばぎん・はまぎん学生ビジコン2020』で『はまぎんアイデア賞』を受賞しました。
目の前に課題があって、それを解決するアイデアも持っている。ならば今はこれに取り掛かるべきなのではと思い、大学を休学して事業の正式な立ち上げを決めました。
必要な場所に、必要な分だけ届ける
──企業から団体への備蓄品の受け渡しの流れを教えてください。
菊原さん:まず、企業が備蓄品を入れ替えるタイミングで、何をどのくらい出したいのかを記載したリストをもらいます。それをStockBase公式サイトの『Stockパントリー』に掲載し、パントリーの登録団体が受け取りたい品目と数量を自由に選べるようにしています。その後、企業が備蓄品を入れ替える日程に合わせて配送手配を行い、団体へ届けます。その際、企業の所在地からなるべく近くにある団体に配送し、企業の負担する配送コストを抑えるようにしています。」
──企業の備蓄品には、たとえばどのようなものがあるのでしょうか。
菊原さん:食品だと、お米、カンパン、レトルト食品、おかゆ、カロリーメイトなどです。なかでも、レンジで温めてすぐに食べられるレトルト食品はとても人気です。また、お子さんがいる家庭が支援を求めていることが多いので、子どもがひとりで簡単に調理できるものも喜ばれますね。
──事業を行うなかで、新たに見えてきた課題はありましたか?
菊原さん:私たちの扱う災害備蓄品は大きく分けて食品と水があり、それぞれにとって最適な行き場は異なります。たとえば、こども食堂や食支援のNPO団体などは、基本的には食品を必要としています。一方で水は、熱中症対策を行いたい建築会社や、マラソン大会を運営する企業が必要としています。
しかし、企業が独自に備蓄品を寄付しようとした場合、そういった受け取り側の細かい事情は把握していないことが多いため、水も食品も全て支援団体に寄付しようとしてしまいます。団体側は、水は水道を使えるので正直必要ないけれど、食品は受け取りたいので仕方なく全て一緒に受け取る、もしくはせっかくの寄付をお断りする……。そんなケースが多々あるそうなのです。
──なるほど。そこは盲点ですね。
関さん:そういった“寄付の押しつけ”が存在することには早い段階から気づいており、一番の課題だと感じていました。ですから、“必要な場所に必要な分だけ”寄付を届けられるStockBaseの方法には、備蓄品を必要としている団体からとても共感をいただいています。また企業としても、独自に寄付先を探して電話をかける手間や、せっかくコンタクトを取った団体から寄付を断られてしまうリスクを回避することができます。
水は水、食品は食品で最適な行き場がある。そんなふうに、まだ見えていない潜在ニーズを開拓していくのも、今後の大切な仕事だと思っています。
「出口」まで考えた災害への備えで、備蓄品の循環を当たり前に
──今後、備蓄品の有効活用を推進していくためには、どのような意識が必要だと思いますか?
菊原さん:先ほどもお話したように、備蓄品には人気のものもあれば、味や食感が一般的に受け入れられにくく、もらっていただけないものもあります。そういったものは、たらい回しにされたり、生活に困っている方が我慢して食べることになってしまいます。
これを解決するためには、“とりあえず何か備えておけばよい”という考え方をやめ、使わなかったときにそれを食べたい人がいるかどうかということまで考慮して備える仕組みをつくっていく必要があると思っています。そのためにも私たちは今後、企業の災害備蓄用品の購入や管理の部分からお手伝いしていきたいと考えています。そうすることで、より備蓄品の循環を推進できますし、企業の備蓄品管理の業務負担を減らすこともできます。
──循環させることを前提にして、備蓄品を備えるということですね。
関さん:現時点では、備蓄品は廃棄をするか買取業者に買い取ってもらう、もしくは社内配布がまだまだ一般的です。その理由は、そのほうが寄付をするよりもコストをかけなくて済むからです。
また、私たちは備蓄品を必要としている団体の方々と直接お話をしているので、その人たちが寄付によってどれだけ助かるのかを知っています。一方、企業の方はそのリアルな状況や声を知る機会を確保することが難しいため、期限が迫った備蓄品を必要としている人がいることをイメージしにくく、寄付するに至らないのかもしれないと感じました。ですから今後は、コスト面で企業に寄り添ったサービスをつくりつつ、備蓄品の寄付を必要としている人がどれだけいるのかを企業の方にもっと伝えていきたいです。
地域で資源を循環させることで、地域の課題を解決していく。そんな私たちの方法を企業の方々に見せることで、備蓄品の『寄付』が当たり前の世の中になっていくといいなと思っています。
編集後記
「私たちは、ただ目の前の困っている人たちを助けたいという想いでStockBaseを始めましたが、それが結果的に環境問題を解決することにもつながれば、うれしいです。」
取材の途中でそう語ってくれたお二方が目指すのは、まさに人を軸にした「循環共生社会」だと、取材を終えて感じた。地域で資源を循環させることで、地域の困っている人を助ける今後の事業の広がりに、大きく期待したい。
【参照サイト】StockBase(公式)
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事となります。