2050年には97億人に達すると言われる世界人口(※1)。これだけの人を養うタンパク質を、どのように確保するのか。これは人々にとっての大きな課題だ。にもかかわらず、生産段階(スーパーマーケットなどに並ぶ前)で廃棄物になってしまう、いわゆるフードロスは毎日発生している。
FAO(国際連合食糧農業機関)によると、重要なタンパク源の一つである水産物の35%はフードロスになっており、そのうち65%は冷蔵設備不足によるという。特に、冷蔵・冷凍インフラの整っていない国々では深刻な問題だ。たとえばナイジェリアの場合、水産物の廃棄の割合は4割にものぼるという。
この問題を解決しようとナイジェリアで立ちあがった人々がいる。スタートアップ企業のイジャアイス(Eja-Ice)だ。彼らは魚を保管するための冷蔵庫を、魚を販売する女性たちに低価格で貸し出すサービスをはじめ、これによって魚の廃棄量を大きく減らすことに成功した。2020年には、11個の冷蔵庫を利用して33万4,400匹の魚が販売されているが、通常ならこのうち4割が廃棄されるので、この前提に基づいて計算すると13万3,760匹の廃棄を防いだことになるという。
イジャアイスの利点は廃棄物削減だけではない。通常使われる冷蔵庫は、ガソリンを燃料とするフロンを使用しているため、オゾン層の破壊や、気候変動をの促進、大気汚染などを引き起こす。一方、イジャアイスが貸し出す冷蔵庫は太陽光を使用しているため、一般的な冷蔵庫と比べ、環境負荷が低い。彼らの報告書によると、2020年に利用された11個の冷蔵庫によって2万4,139.5kgのCO2を削減することができたという。
さらに、現地の女性たちの収入増加にも貢献している。ナイジェリアの漁村で働く女性たちの多くは担保を持っておらず、通常の冷蔵庫を購入するために銀行からお金を借りることはできない。イジャアイスの場合は低価格でリースしているため、担保のない女性でも利用でき、収入を増やしていくことができるというわけだ。
イジャアイスを利用している一人、アジェグル・ラゴスさんは「自分のビジネスを成長させるために、インフラである冷蔵庫、そしてリソースとなる資金に平等にアクセスしたい」と利用への想いを語っている。
2021年9月、イジャアイスの取り組みは、地域に栄養的、経済的利益を最大化する水産食品の生産と加工を行う革新的な取り組みを表彰する「ブルーフードチャレンジ」にも選ばれた。
また、イジャアイスはコロナ禍特有の問題に対しても活躍している。低温での保管が必要なワクチンの輸送、休校によって収入を失った学校の先生がはじめたヨーグルト販売のための冷蔵手段としても活用され、収入の安定確保につながっているという。
フードロスを減らしながら、同時に気候変動や大気汚染への負荷の削減、女性の経済的地位向上もはかり、さらにコロナ禍を乗り越える力にもなっているイジャアイス。環境問題と貧困を同時に解決する取り組みが今後どう進展していくのか、世界の注目が高まっている。
※1 United Nations, World Population Prospects 2019, p5
【参照サイト】Eja-iCe
【参照サイト】Eja-iCe 2020 IMPACT REPORT
【参照サイト】The Blue Food Challenge
【参照サイト】Innovations shaping global food systems from the water
Edited by Kimika