LUSHのSNS停止から考える、デジタル社会での「自分時間」の作り方

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「1日にSNSを何時間使っていますか」

そう聞かれて、ドキッとしてしまう人は多いのではないだろうか。朝、目が覚めたらまずスマートフォンを開いて、通知をチェック。通勤中は、電車の中で知り合いの投稿に「いいね!」を付ける。メッセージや通知は来ていないとわかっていても、ついついSNSを開いてしまう。気がつけば、朝から晩までスマートフォンを握っている――。

総務省の令和元年版情報通信白書によると、2000年から2015年までの15年間で、特に10代~20代のテレビの視聴時間が緩やかに減少する一方、インターネットの利用時間は増加傾向にあるという(※1)。YouTubeやTikTok、Instagramなどが若者の日常に溶け込んだ近ごろでは、さらに利用時間が拡大していることが容易に想像できるだろう。

暮らしに欠かせなくなった便利なSNSには、陰もある。世界48の国と地域で展開する、自然派化粧品メーカーコスメブランドLUSH(ラッシュ)は2021年11月26日、公式SNSの更新をストップし、「より安全な環境をユーザーに提供できるようになるまで利用を止め、サインアウトする」と宣言した。

ラッシュが更新をストップしたのは、Facebook、Instagram、TikTok、Snapchat、WhatsAppの5つ。元Facebook社の従業員によって2021年10月に暴露された「SNSを使い続けたくなるアルゴリズム(※2)」に対し、世界規模の規制を求めるためだ。

LUSHインスタ

更新が止まったLUSHのSNS(Image via LUSH公式Instagramアカウント

ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサー兼商品開発者であるジャック・コンスタンティン氏は公式ホームページで、 「一部のSNSプラットフォームは、人々にスクロールさせ続け、スイッチオフやリラックスができなくなるよう設計されたアルゴリズムを使っており、これはラッシュの理念とは真逆の考え方です」と、決断の理由を語っている。 

ネバダ大学の研究報告では、1つ以上のSNSアカウントを持っている人のうち、20%は不安解消のために少なくとも3時間に1回はチェックしなければならないと感じていることがわかった(※3)。この心情は「“Fear of missing out” (見逃してしまうことの恐れ)」とされ、1日の利用が6時間を超えたり、禁断症状などが出たりするようになると「ソーシャルメディア不安障害」に分類される。

さらに、SNSが私たちに与える悪影響はほかにも、フェイクニュース(デマ情報)の蔓延や、思想の異なる人々の分断、長時間利用による健康の影響など挙げればきりがない。さまざまな事実を目の当たりにした私たちは、SNSとどう付き合っていくべきなのだろうか。

無意識にスマートフォンを開いてしまう人は、何時間使っているか自覚することが第一歩だ。ラッシュのようにSNSからサインアウトするのもいい。アプリを削除するか、通知をストップしてみれば、自分の時間をいかにSNSに費やしているか気づくきっかけになる。ただ、長時間使っていた人にとっては難易度が高く、SNSから得られるメリットを遮断することにもなりかねない。

それでは、期間を決めてデジタル機器から離れる「デジタルデトックス」や「SNS断ち」はどうだろう。最初こそ辛いかもしれないが、旅行や週末に合わせれば、気軽に始められそうだ。まだちょっとハードルが高いと感じる人は、1日にスマートフォンの電源を1時間オフにしてみるだけでも効果を感じられる。

デジタルデトックス

ラッシュの思い切った決断は、ウェルビーイングな暮らしを提供する企業として、どう消費者に寄り添うかを体現した。そして、SNSに人生をコントロールされるのではなく、どう付き合っていくか自分で物差しを設ける重要性を私たちに問いかけているのではないだろうか。

※1 令和元年版情報通信白書
※2 元Facebook従業員のフランシス・ハウゲン氏によるワシントン・ポスト紙への告発文「The Facebook Files
※3 Impact of Social Media on Youth Mental Health: Statistics, Tips & Resources
【参照サイト】ラッシュは一部のSNSからサインアウトします|LUSH
【関連ページ】FOMO(Fear of missing out)とは・意味
Edited by Kimika

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