サッカーでSDGsをジブンゴトに。長野の国立公園で始まる地方創生

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Sponsored by フューチャーセッションズ

世界中で、ますます多くの人々や企業が、地球環境の保全に取り組んでいる。日本でも「SDGs」が2021年の流行語にノミネートされるなど、その認知度の高まりとともに、サステナビリティの推進に努める企業が増えた。とりわけ、炭素の排出を減らす「脱炭素」という言葉が注目を浴びる今、様々な国が化石燃料からの撤退など大きな決断に踏み切っている。

そんなグローバルな規模で見られる脱炭素の潮流だが、具体的な取り組みの多くはローカルな場で起こっているのではないだろうか。

乗鞍高原

中部山岳国立公園の乗鞍高原

現在、環境省が脱炭素社会の実現に向けて行う取り組みの一つに、2021年3月に発表された「ゼロカーボンパーク」がある。国立公園の脱炭素化、そしてサステナブルな観光地づくりを目指すエリアのことで、現時点では全国にある3か所の国立公園が、このゼロカーボンパークに認定されている。その第一号目となったのが、本記事の舞台となる中部山岳国立公園の乗鞍高原(のりくらこうげん)地域だ。

北アルプスの南端に位置し、標高約3,000メートルの乗鞍岳の裾野に広がる山岳地にある乗鞍高原。古くから人々の生活が営まれる「住むアルプス」と言われるこの場所で、近年、脱炭素化に向けた動きが活発になっている。ゼロカーボン推進に向けたワークショップ、脱炭素・脱プラの要素を取り入れたサステナブルキャンプ、マイボトルやE-バイクの推進など、観光・経済・レジリエンスの観点から、多様な活動が進められているのだ。

そんな乗鞍高原地域で、今回新たな取り組みが実施された。それが、自然体験と“スポーツの力”を掛け合わせたツアー。乗鞍高原のある長野県松本市を拠点に活動するJリーグクラブチーム「松本山雅FC」、環境省、旅行会社のクラブツーリズム、そして多様な組織をつなぐフューチャーセッションズが共同で企画した「Jリーグクラブと楽しむ秋の乗鞍高原2日間」だ。

松本山雅ツアー

「Jリーグクラブと楽しむ秋の乗鞍高原2日間」

ツアーには、長野県内から松本山雅FCのサポーターや山好きの人たちが集った。内容は、高原でのボールを使ったワークショップやライチョウについて学びを深めるレクチャー、星空観察、乗鞍高原でのハイキング、松本山雅FCの試合観戦など盛り沢山。真っ白な雪に覆われた山々と紅に染まった葉に囲まれた贅沢な空間で、参加者たちは豊かな自然体験とサッカーを満喫しながら、地域を知り、その魅力に触れた。

サッカー好き×山好き×国立公園。このコラボレーションによって見えてくるものとは一体何だろうか──。2021年11月6日~7日に長野県松本市乗鞍高原で実施されたツアーに同行した筆者が、その様子をレポートでお届けする。

始まりは喫茶店から。始まりは、常連客が結成した小さなサッカークラブ

喫茶松本山雅

喫茶松本山雅

ツアー当日の集合場所である「喫茶山雅」は、松本山雅FCのサポーターたちが集う喫茶店。もともと1965年にJR松本駅前に開店し、1978年に一度店をたたんでいた小さな喫茶店「純喫茶山雅」が復活してできたものだ。

そして、まだ純喫茶山雅の時代だった頃のお店の常連客によってゼロからつくられたのが、松本山雅フットボールクラブ──現在の松本山雅FCの前身だ。信州の地域リーグで戦っていたこの小さなクラブチームが、いまやJリーグで戦う松本山雅FCとなった。

いかにして、クラブは強くなっていったのか──。その問いの答えを探るために欠かせないのが、「地域のサポーター」の存在のようだ。

松本山雅FC

松本山雅FC

現在、ファンクラブ会員数は一万人超え、スポンサー企業数は660社。「地元で愛されるサッカークラブ」となった松本山雅FC。そんな同クラブは、地域の人々によって支えられていると同時に、地域に貢献するクラブとしても知られる。ホームタウン活動(※1)として、普段から様々な地域貢献の取り組みを行っているJリーグの各クラブチームのなかで、松本山雅FCはこれまでに2度、「ホームタウン貢献度」ランキングで57チーム中1位に輝いた。

※1 地域に愛されるクラブとなるために、Jクラブはホームタウン(クラブチームの本拠地)の人々と心を通わせるための様々な活動を実践。地域社会と一体となったクラブづくりを行いながらサッカーの普及、振興に努めている。

その取り組み内容は、小学校や幼稚園を訪れる巡回指導やブラインドサッカー、福祉施設での健康運動教室、精神障害を抱える人たちと外に出てアクティビティを行うソーシャルフットボールなど、本業とつながる取り組みはもちろん、地域のお祭り参加や農業体験、地域の耕作放棄地への働きかけなど幅広い。コロナ禍前は年間1,000回ほどにわたって活動を行い、地域の人たちと交流してきた。

そんな地域と共に生きるクラブ・松本山雅FCは、2020年12月に中部山岳国立公園とパートナーシップを締結。地元の国立公園の活性化を目指し、今回、ツアーの一翼を担う。

ライチョウから考える生物多様性や自然とのつながり

最初のアクティビティは、松本山雅FCのスタッフを招いて行われたボールを使ったワークショップ。標高1500メートルに位置する乗鞍BASEにて、チーム対抗のボール回しや輪投げなどが行われた。年齢を問わずに楽しめる遊びを通して、大人も子どもも頭と身体全身を使い、広大な公園のなかを走り回った。チーム内での協力も生まれ、初めて会う参加者たちが自然と打ち解けていく。

ボールゲーム

ボールを使ったワークショップの様子

それから向かった宿泊場所である休暇村は、乗鞍岳の美しい景観を臨むことができる豊かな林に囲まれた場所。ここで、地元の食材をふんだんに使った夕食を味わった後は、中部山岳エリアに生息し、松本山雅FCのマスコットキャラクターにもなっている特別天然記念物「ライチョウ」について学ぶレクチャーが開かれた。

30~40年ほど前まで4,000~5,000羽ほどいたライチョウ。その個体数は次第に減少し、現在では全国におよそ2,000~3,000羽程度だという。近い将来、野生での絶滅の危険性が高い「絶滅危惧IB類」に分類されており、保護の対象になっている。そんなライチョウの生態や現状ついて、山岳ガイドの原口剣太郎さんから教えてもらう。

原口さん

山岳ガイド・原口剣太郎さんからライチョウについて学ぶ

「主に標高2,200~2,400m以上の高山帯、すなわち厳しい環境に生息するライチョウは、日本では北アルプスや南アルプス、乗鞍岳などの地域で見られます。神聖な存在とされる『山』に生きるライチョウは、神聖な生き物とされてきましたが、近年の地球温暖化や異常気象の影響を受け、人間の保護がなければ生き残れない状態になりつつあります。」

「というのも、地球温暖化によって、本来はいないはずの二ホンジカやニホンザルなどの動物が、ライチョウのいる高い場所まで上がってきていて、それによって生息地が狭くなるなどの問題が起こっているからです。また、ライチョウは梅雨の時期、6月頃に雛をかえすのですが、近年は豪雨などが頻発しており、異常気象の影響を大きく受けています。」

ライチョウの生態や直面する課題を聞いた子どもからは、「ライチョウの天敵となる動物は何ですか?」と質問が出た。さらに大人たちからも、「地球温暖化とライチョウの絶滅の関係を詳しく知りたい」「私たちが個人としてできることはありますか?」といった声が上がっていた。

ライチョウという生き物について知ったことで、参加者たちは人間の行動と自然のつながりを感じたり、生物多様性について考えたりしたようだ。

手つかずの自然が残された「中部山岳エリア」

息をのむほどの景色を臨むことができ、ライチョウたちの生息地にもなっている中部山岳エリア。この辺りには、古くから人が入り込んでいながらも、手つかずの自然が多く残されている。ゆえに、昔から“自然と人間が共存してきた”とも言われ、「人と自然の共生の、そして世の中を持続可能にしていくモデルケースとなりうる」と期待されている場所でもある。

乗鞍高原

乗鞍高原からの乗鞍岳の景色

ツアー二日目は、そんな乗鞍高原内の美しい白樺が生い茂る一ノ瀬園地でハイキングが行われた。ツキノワグマも生息するという場所で、参加者たちは道中、クマが食べているブナなどの植物を観察したり、珍しい木の実や動物の足跡を見つけてガイドの方に質問をしたりと高山ならではの自然の仕組みについて学びを深める。約3時間弱、参加者たちは共に談笑し合いながら、真っ赤に色づく紅葉のなかでの散策を楽しんでいた。

松本山雅ツアー

乗鞍高原の一ノ瀬園地コースでの散策。自然の豊かさとその神秘に触れる

散策を通して、自然の息や地域の歴史に触れた後は、美しい山々を臨むスタジアムでの試合観戦。若者だけでなく、地域のおじいちゃんおばあちゃんたちも熱心に応援するなど、サポーターが老若男女問わないことで有名な松本山雅FC。地元サポーターたちの熱い声援を含め、最後まで地域の魅力を感じながらツアーが締めくくられた。

今回のツアーでは、事前に二度のサポーターズミーティング(オンラインでのミーティング)が設けられ、参加者とスタッフが一緒になって、当日をより良く、より楽しくするアイデアを出し合った。たとえば、松本山雅FCのチームカラーが緑であることを受け、小学生の子どもたちからは、「緑色限定のお菓子交換会」や、「みんなで緑色の服を着てくる」といったことが発案された。さらには、「ごみを減らすためにマイボトルを持参する」といった提案もあり、当日は参加者の多くがそれらの案を取り入れた服装や持ち物で参加していた。

このように、一人一人が“企画者”となって一緒につくりあげていくという「共創のプロセス」も、ツアーで大事にされていたポイントの一つであった。

「自分たちだけが良ければいい」ではなく、「地域とともに大きくなっていきたい」

そんな今回のツアーについて、松本山雅FCのスタッフ・柄澤深さんにお話を伺った。地域の人たちによって結成され、地域の人たちによって大きくなってきたクラブとして、取り組みへの想いをこう語る。

「私たち松本山雅FCは、“地域に支えてもらっている”という意識が高いクラブです。松本は都会でなければ、人口を多く抱えているわけでもありません。でも、熱いファンやサポーターの方がたくさんいて、試合には約7,000人(※2)もの人たちが足を運んでくれました。」

※2 ツアー当日の試合の動員観客数。コロナ禍前の2019年は、平均でおよそ17,000人の観客数だった。

松本山雅FCツアー

松本山雅FCスタジアムでの解散式

「なぜ、多くの人が足を運んでくれたのだろうか……?と考えたとき、答えの一つに、『身近な存在となっている選手たちの頑張る姿を応援したい』という地域の人たちの想いがあると思いました。なので、自分たちが身近な存在であり続けることは心がけていますし、地域全体に支えてもらっているからこそ、『地域を大事に、地域のためにやれることを探す』という気持ちを常に持っています。」

「自分たちだけが良ければいいではなく、“地域と共に”大きくなっていきたい──それが松本山雅らしさだと思いますし、それを実現するための一つとして、今回のツアーを実施できて良かったなと感じています。」

柄澤さんは最後に、今後は県外の人たちに向けたツアーの企画や、“松本山雅FCらしさ”を盛り込んだ環境教育、自然保護活動にも挑戦したいと話してくださった。地域に支えられ、支える。地域に根差したクラブは、これからもサッカー以外の多様な取り組みにも挑んでいく。

編集後記

昨今、環境省は、各地域にある資源を活用しながら、環境・経済・社会の統合的な循環、地域の活力を最大限に生かすこと──すなわち、地域でのSDGsの実践(ローカルSDGs)を目指す「地域循環共生圏」の取り組みに力を入れている。そんな地域資源の一つが国立公園であり、ゼロカーボンパークの取り組みなどが進められてきた。だが、国や地域が一生懸命に取り組んでいても、そこに生きる私たち一人一人が、環境問題をジブンゴト化し、積極的に行動できるわけではない。

そんな自分とは関係ないと感じてしまいがちなSDGsやサステナビリティに「感覚」として触れ、ぐっと身近に感じられる。今回のツアーは、そんな時間になったように感じている。

松本山雅FC

松本山雅FC

国立公園を盛り上げたり、環境保全や自然保護の活動を行ったりするために、必ずしもスポーツの力は必要ではないのかもしれない。しかし、「スポーツ」を入り口に、自らの足で山に入り、仲間たちと共に自然について学んだことは、単なる環境意識の啓発を超えて、一人一人の根っこにある「地域や自然を大事にする」という感情をも揺れ動かしたのではないだろうか。

スポーツの力が合わさることで、より多くの人たちが地球と人を守る活動に巻き込まれていく。その力はきっと、大きな原動力となり、地域を、そして社会をより良い方向へと導いていくのだろう。

【参照サイト】松本山雅FC ホームページ

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