近年ビジネスシーンでも注目を集める、Well-being(ウェルビーイング)。ウェルビーイングとは、「幸福」のことで、心身と社会的な健康を意味する概念だ。定訳はなく、満足した生活を送れている状態、幸福な状態、充実した状態などの多面的な幸せを表す言葉である。瞬間的な幸せを表す英語Happinessとは異なり、「持続的な」幸せを意味するのが特徴だ。
ウェルビーイングが注目を集める背景には、2019年4月1日から部分的に施行されている「働き方改革関連法案」による多様な働き方への容認や意識改革、それに伴い「働くことにおける幸福」が目指されるようになったことがあるだろう。さらに、経済産業省によるウェルビーイング経営の促進、新型コロナウイルス感染症のまん延に伴い、自分らしい働き方を追求する人が増えていることもきっかけだと考えられる。
社員の心身のヘルスケアはもちろん、各々がやりがいを感じながら自分らしく働ける環境の整備は、今後企業がますます力を入れるべきポイントとなるだろう。「もっと働きやすい職場が作れないか?」「社員にとって心地よい環境を整備できないか?」──今回の記事では、そんな疑問のヒントになるような、ウェルビーイングな職場づくりのアイデアをお届け。「働き方」「コミュニケーション」「ヘルスケア」の3つのカテゴリに分けてご紹介していこう。
働き方
稼働日と休日のバランスを見直す
選択式週休3日制を導入する
まずは、稼働日と休日のバランスを見直すことから始めてはいかがだろうか。例えば、「選択式週休3日制」の導入を検討するのも一つの方法だ。「選択的週休3日制」は、希望する労働者に1週間のうち3日の休日を付与する制度のことで、2021年6月に閣議決定された、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)に盛り込まれたことから、大きな注目を集めた。
また、「週休3日制」を導入する企業は世界でも増加している。例えば、スペインでは「週4日労働制」を試験導入する国家プロジェクトが実施された。
一口に週休3日といっても、その実態は様々。例えば、労働時間を削り、基本給も減少させるタイプ、1日の労働時間を増やすことで、給与を変えずに休日を増やすタイプ、労働時間は減らすが、給与はそのままにするタイプなどが存在している。
導入にあたっては、「1日の業務量が膨大になってしまうのでは」「週に5日働きたい人が働けなくなるのでは」といった懸念が上がる可能性もある。実際に取り入れる際には、自分の会社や従業員たちのニーズに合った方法を模索する必要があるだろう。
平日/休日にこだわらず、働きやすい日に働けるようにする
また、「平日/土日」という区切りを見直すのも一つの手である。Sansan株式会社が導入している「どにーちょ」という制度がその好例だ。これは、休日の静かな環境で業務を行う方が生産性や効率を上げられる場合に、平日と休日の勤務日を入れ替えられるというもの。
集中できる環境は、個々人の特性や置かれている環境により全く異なる。平日/休日の区切りに合わせるのではなく、個人の事情に応じて勤務日を変えられるようになれば、個々の生産性も高まるはずだ。
まとまった日数の休暇を導入する
次に紹介するのは、数日単位ではなく「数十日」「数週間」などまとまった単位での休暇を導入するという方法だ。これを実践しているのが、ワヴデザイン株式会社である。ワヴデザイン株式会社では、2012年より、11ヶ月働いて1ヶ月休む、という30日休暇制度を導入している。
社員たちは、1ヶ月の休みを使って普段はできないことに挑戦しているとのこと。新しいインスピレーションを得ながら、リフレッシュする機会は、私生活にも仕事面にも良い影響を与えてくれるだろう。
キャリアアップの支援を見直す
社内副業制度を導入する
「社内副業制度」は、事業所や部署など、社内における自分自身の所属するポジションに籍を置きながら、別の事業部や部署の業務に携わることを指す。2020年6月、KDDIが導入したことで話題を集めた。
社内副業制度を利用することは、個々人のスキルアップにつながるだけでなく、部署間を超えた交流によるイノベーションの創出にもつながる可能性がある。
▶KDDI
交換留職制度を導入する
また、交換留職制度も個々人のスキルアップやモチベーションアップにつながる可能性がある。交換留職とは、学校間の交換留学のように、会社間で社員を交換する仕組みだ。自社の社員と他社の社員を一定期間入れ替え、交換先企業での業務を実際に経験させる人事研修制度である。
交換留職は、スープ専門店「スープストックトーキョー」や、リサイクルショップなどを運営する「スマイルズ(東京・目黒)」が導入・実施しており、個人と組織の成長を促し、企業間交流を深める試みとして注目を集めている。
リモートワークのルールを見直す
次にご紹介するのは、「リモートワークのルールを見直す」ことだ。リモートワーク下では、勤務時間とプライベートの時間の境目がなく、気持ちの切り替えが難しくなりがちである。また、Zoomに代表されるWeb会議ツールを使うことで感じる疲れ(Zoom疲れ)に悩まされる人も少なくない。
勤務時間以外連絡を禁止にする
それでは、いっそ勤務時間以外の業務連絡を禁止するルールを定めてしまってはどうだろうか。ポルトガル政府は、コロナ禍において、働く人のウェルビーイングを確保するため、勤務時間外に社員に連絡を取った企業には罰則を科すという新たな労働法規則を定めている。
バーチャル通勤時間を設ける
あるいは、「バーチャル通勤時間」を設けるのも一つの手である。こちらは、リモートワーカーが仕事とプライベートの境界を明確にできるよう、2021年からMicrosoft Teamsに追加された機能だ。
まず、スタッフが就業開始時に「通勤」をスケジュールする。そうすることで他のスタッフから見たときに、その人が今「通勤中」であることがわかる仕様になっている。通勤時間の朝には、散歩をしたり、コーヒーを飲んで1日の計画を立てたりするための時間を意識的に確保し、仕事に向けて気分を整える。仕事を終える時間になったら、タスクをToDoリストに加えたり、1日の調子を振り返ったり、瞑想をしたりして、徐々に仕事から自分を切り離す。このように、通勤時の「気持ちの切り替え効果」をバーチャルで再現することで、リモートワーカーのウェルビーイングの向上につなげるのが狙いだ。
ビデオ会議をしない日をつくる
今、世界では働く人のZoom疲れを軽減するため、従業員がビデオ通話に参加しなくてもいい曜日を設ける企業が増えてきている。たとえば米金融大手シティグループは、2021年3月に「ズーム・フリー・フライデー」の導入を発表し、金曜日には社内のビデオ会議を行わない方針を示した。また、英金融大手HSBCも、金曜日の午後にビデオ会議を行わないというトライアルプログラムを実施している。
コミュニケーション
普段話せない人と話せる機会を作る
ランチ会を設ける
業務でかかわる人はおのずと限られてきてしまう。そこで、業務のつながりを問わず、いろんな人がざっくばらんに話せる機会を作ってみてはどうだろうか。例えば、会社がランチの費用を負担し、社員同士のコミュニケーションを促進する「ランチ会」の開催は一つの手だ。
株式会社アカツキでは、月に1回、誰でも、役員を直々に指名してランチを設定する事ができる「役員ランチ」を実施しているという。カジュアルに役員と直接意見交換できる機会を設けるグッドアイデアである。
コミュニケーションのためのスペースを設ける
また、オフィスにコミュニケーションを促進するためのスペースを設ける方法もある。
例えば、乃村工藝社のオフィスにある「ユニーク・ピーポー・セレクション」というスペース。こちらは、社員を紹介しあうことで人財をつなげる目的で設計されたものだ。ユニーク・ピーポー・セレクションには、「人」が展示されている。展示されている社員がこのエリアで仕事をすることにより、立ち寄った人とのコミュニケーションが生まれることを狙っているのだ。「自分よりもユニークな人」を次の人に指名することで、社員を数珠つなぎに紹介していく仕組みとなっている。
ピアボーナス制度を導入する
ピアボーナスとは、文字通りピア(仲間・同僚)同士で日ごろの行動を評価し、チャットツールを使ったメッセージと共に少額の成果給を送りあえるシステムのことを指す。先駆けとなったのは、東京のFringe81社が提供する「Unipos(ユニポス)」というサービスだ。
「このアドバイス、とてもタメになったよ」「プレゼン資料を見やすくつくってくれてありがとう」「社内をキレイに保ってくれて助かってるよ」などのメッセージを添えてボーナスを送り合うことで、画一化された査定や、給与体系で見落とされがちな日々の努力を労い、お互いの信頼関係をより強いものにする効果がある。
また、ピアボーナスの評価の内容が社内で可視化されるため、会社がどうあるべきかといった企業文化や、倫理規範が自然と醸成されるのも利点だ。
ヘルスケア
食を見直す
オフィスに社員食堂がある場合は、メニューを見直してみるのも良いだろう。健康のために、糖質を制限したヘルシーなメニューやオーガニック野菜を使ったメニュー、ベジタリアン・ヴィーガン対応のメニューなど、様々な選択肢を用意することは、社員の健康に、そして満足感につながるはずだ。
または、置き型の社食を導入するのも良いだろう。置き型社食「オフィスおかん」は、管理栄養士が監修した、健康的な美味しいお惣菜を、1品100円で食べられるサービスだ。
ランチに限らず、欠食しがちな朝食に、ヘルシーなおやつに、持ち帰って夕食に……と多様なシーンで活躍する。また、自宅に届ける「オフィスおかん仕送り便」でテレワーク補助も可能だ。
あるいは、福利厚生として、オフィスに健康的なおやつを常備してみてはいかがだろうか?
Snaq me Officeは、「食べても罪悪感を感じない」Guilt Free®(ギルトフリー)スナックのサブスクリプションサービスだ。人工添加物不使用、上白糖不使用、栄養豊富でカラダに優しいおやつが毎月職場に届き、社員は50円でおやつを楽しむことができる。グルテンフリー、ヴィーガン対応も可能なのは嬉しいポイントだ。
女性特有の悩みをケアする
次に、サイバーエージェントの女性活躍促進制度「macalonパッケージ」をご紹介しよう。「macalonパッケージ」は、女性が出産・育児を経ても働き続けられる職場環境の向上を目指して8つの制度をパッケージ化した独自制度だ。「macalon」には「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」という意味が込められている。
中でも、特徴的なのが「エフ休」と呼ばれる休暇だ(エフ=FemaleのF)。これは、女性特有の体調不良の際に、月1回取得できる特別休暇である。通常の有給休暇も含め、女性社員が取得する休暇の呼び方を「エフ休」とすることで、利用用途がわからないようにし、取得理由の言いづらさ、取得しづらさを排除するねらいがある。
従業員のメンタルをケアする
続いては、テクノロジーの力を借りて、従業員のメンタルをケアするというアイデアだ。
まずご紹介するのは、Carelyというサービスである。Carelyは、健康診断・ストレスチェック・労働時間などの健康データを一元化し、可視化するツール。煩雑で複雑な健康管理業務を効率化してくれる。
またCarelyでは、保健師や臨床心理士など、専門家によるチャット相談を実施している。気軽な質問から専門的な相談まで受け付けており、休職者の復職プランの策定や、緊急時のホットラインとしても活用することが可能だ。
他に、AIの力でメンタルヘルスに関する課題を解決しようというサービスも登場している。それが、メンタルヘルスケアアプリ「emol」だ。
emolは、サポートAIとチャットで会話をすることで、認知行動療法に基づいた簡易カンセリングやコーチングを行えるアプリである。感情記録や睡眠時間記録などのライフログ機能もあり、メンタルヘルスのケアを総合的にサポートしてくれるのが特徴だ。アプリを使用することで、ストレスを抱えにくい心のあり方を身につけたり、レジリエンス向上の方法を学ぶことができる。
▶emol
従業員の運動習慣づくりをサポートする
最後にご紹介するのは、アプリなどを利用して、社員の運動習慣づくりをサポートするアイデア2つだ。
1つ目は、オランダのユトレヒトに拠点を置くスタートアップのByCyclingが開発した、従業員の健康を促進したい中規模から大規模企業向けのインセンティブ付与アプリ。このアプリを活用することで、企業は従業員の自転車走行距離をトラッキングし、その距離に応じて現金ボーナスや有給休暇など自ら設定した報酬を与えることができる。
2つ目は、ドイツの暖房・冷凍・産業システムのメーカーであるViessmannによる「従業員が運動すればするほど木を植える」という取り組みである。これは、従業員のウェルビーイングと環境問題の両方にアプローチするためのもの。
取り組みの内容は、従業員一人がウォーキングやランニング、ピラティスなどの短時間の運動を行うたびに、1本の木が植えられるというものである。それぞれが専用のアプリ「ViMove」を使って自分の運動量を申告することで、気軽に森林の再生に取り組むことができるのだ。
環境問題の解決と、個人のウェルビーイングを掛け合わせるというアイデアには、他にも様々な可能性が眠っていそうである。
まとめ
いかがだっただろうか?様々なアイデアがあったが、重要なのは、単に他社の制度を真似したり、キャッチーでユニークな自社制度を作ろうとしたりすることではない。本当に大切なのは「自分の会社、社員にとってのウェルビーイングとは何か」をきちんと考えたうえで、何に取り組むべきかを決めることである。
自分は何を大事にしているのか?隣にいる社員は何を大事にしているのか?そんなことに想いを馳せたり、周囲と言葉を交わしたりしながら、自社らしいウェルビーイングをつくるアイデアについて考えてみてほしい。
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