ふとした拍子に道路で見かける動物の亡骸。野生動物と自動車が衝突する悲惨な事故は「ロードキル」と呼ばれ、特定の種によっては絶滅の原因になると危惧されるほどの被害が出ている。
そこで、近年では「野生動物専用の横断路」が注目されている。道路の上下に陸橋や地下道を建設するこの取り組みは世界中で広がっており、その効果も確認されている。カナダのバンフ国立公園には40以上の専用路が建設され、実際にロードキルの件数が90%も減少した。
そうしたなか、今、野生動物の横断路として世界最大の陸橋「ウォリス・アネンバーグ野生動物横断路」が、カリフォルニア州ロサンゼルスに建設されようとしている。
この野生動物横断路の規模は全長64メートル、幅53メートルに及び、10車線ものハイウェイで分断されたサンタモニカ山脈をつなげている。横断路が建設されるハイウェイ101は、州内で最も交通量の多い道路であり、一日に約30万台もの車が通過している。
山脈を分断する形で敷かれたハイウェイは、ロードキルはもちろんのこと、自然環境の保護や生物多様性の観点からも改善の声が上がっていた。そこで、同プロジェクトによって、山脈に生息するマウンテンライオンをはじめとした様々な野生動物の移動が保障され、生態系が回復することが期待されているのだ。
この横断路は、2022年4月22日のアースデイに建設を開始し、約3年の工期を経て2025年初頭の完成を予定している。建設費は約9000万ドルと高額だが、驚くべきことに、その60%が民間の寄付によって賄われている。同プロジェクトを推進してきたベス・プラット氏によると、これにはあるマウンテンライオンの存在が欠かせなかったという。
ロサンゼルスの街中で、野生のマウンテンライオンが発見されたのは2012年のこと。生まれ故郷のサンタモニカ山脈から膨大な車と人目を避けて約80キロメートルにも及ぶ旅路を終えたそのライオンは、その後「P22」と名付けられ、自然と人間が共存するLAのアイコン的な存在となった。P22が実際にこの横断路を渡ることはないが、「彼の仲間の助けになるならば」という人々の思いがこのプロジェクトを成功へと導いたことは間違いないだろう。
建設を担当するロバート・ロック氏は、このプロジェクトを「つながり」の象徴として捉えている。一つは、ハイウェイによって分断されていた野生動物たちのつながり。そしてもう一つが、自然と人間のつながりである。ラッシュアワーで渋滞するなか、頭上を行き交う多様な生物を想像する時間は、自然と共存する未来の実現に向けた極めて重要なものとなるだろう。
専門家によると、警戒心の強い野生動物たちが横断路を利用するには5年ほどかかることもあるという。一つでも多くの命を守るため、こうした取り組みが早急に広がっていくことを願う。
【参照サイト】Save LA Cougars
【参照サイト】Animal crossing: world’s biggest wildlife bridge comes to California highway – The Guardian
【参照サイト】The Brad Pitt of mountain lions : how P22 became Los Angeles’ wildest celebrity – The Guardian
【参照サイト】Construction starts on world’s largest wildlife crossing to let animals roam over 10 lanes of L.A. highway – CNN
Edited by Tomoko Ito