「尿や生活排水などの下水をアップサイクルして作られたビールがある」と聞いたら、皆さんはどう思うだろうか。恐らく、飲むのをためらってしまう方も多いだろう。しかしシンガポールでは、そうしたアップサイクルビールが美味しいと評判の存在になっている。
100%再生水を使用したビール「NEWbrew(ニューブリュー)」を製造しているのは、シンガポールで最も歴史あるクラフトビール醸造所・Brewerkz(ブリューワークス)だ。
NEWbrewで使用されているのは、下水をリサイクルした再生水「NEWater(ニューウォーター)」。NEWaterは飲料水の国際基準を満たす高品質な水で、NEWbrewの味の質を上げるのに大きな役割を担っているという。
シンガポールは国土が非常に狭く、東京23区と同等ほどの面積しかない。そのため天然の水資源や貯水施設用の土地が不足しがちで、水の確保が兼ねてから大きな国家課題だった。それゆえに、下水の高度処理や海水の淡水化技術の実用化に力を入れて取り組んできた歴史がある。
2003年から実用化がスタートした下水再生水・NEWaterは、「シンガポールにおける水の持続可能性の柱」とも呼ばれ、現在は国内で5ヶ所の工場が稼働し、国内の水需要の約40%を賄っているという。家庭などから排水された使用済みの水は、水道局の水再生プラントで処理された後、NEWaterの工場で高度な膜技術と紫外線消毒によってさらに浄化される。その末に、清潔で安全な水ができあがるのだ。
そんなNEWaterを使って作られたNEWbrewは、水をテーマにした大型の展示会・シンガポール国際水週間(SIWW)2018で初めて発表され、その美味しさが参加者の間で高い評判を得た。今年のSIWWでは、一段と味に磨きをかけた新作が発表されたという。
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ドイツ産のプレミアム大麦麦芽や、フルーティな香りが特徴的なシトラホップとカリプソホップ、ホップの香りをよく引き立たせるノルウェー産酵母など、最高品質の素材を使用し、シンガポールの暑い気候にマッチした、なめらか且つ蜂蜜のような後味のある、非常に飲みやすい味わいに仕上がっているそうだ。
NEWBrewの登場以降、再生水を使ったビールは世界的な注目を集め、ドイツ、カナダ、米国などでも商品開発が進んでいる。
こうした商品が世に出ることは、世界の淡水供給に関する課題にスポットライトを当てる良い機会でもある。シンガポールに限らず、干ばつや洪水などの気候変動の影響で淡水供給に課題を抱える国は多い。
水資源に恵まれた日本に住んでいると見落としてしまいがちだが、こうしたニュースをきっかけに、世界の水問題に目を向けてみるのもいいかもしれない。
【参照サイト】Brewing beer from sewage water; Find out if this sustainable practice is worth a try
【参照サイト】NEWBrew 2022 – Brewerkz
【参照サイト】PUB, Singapore’s National Water Agency
Edited by Kimika