猛烈な暑さの夏がやってきた。強烈な紫外線が私たちの肌に降り注ぐ。日焼けや皮膚のトラブルにお悩みの方も多いのではないだろうか。紫外線による皮膚のトラブルのなかでも最も怖いのが、皮膚がんだ。
日本でも、がん全体の罹患率からみると割合は多くないとはいえ、皮膚がんは近年増加傾向にあるがんの1つである。
ベルギーやドイツ、フランスに囲まれたヨーロッパの小国・ルクセンブルクでは、国内のがん患者のうち、乳がんや肺がんなどに次いで多くを占めるのが、皮膚がんの患者だ。いかに強い日光から身を守り、皮膚がんのリスクを低減させるかは、大きな社会課題になっているのである。
そんなルクセンブルクに、人々の意識を向上させ、自発的な行動変容を促すユニークな取り組みが現れた。ルクセンブルクのNPO法人「がん財団」(Fondation Cancer)は、全国の小学校で4万3,000人の子どもたちに、かわいらしいゾウのイラストのテンポラリー・UVタトゥーを配布したのである。
このUVタトゥーは、紫外線に当たると色が紫色に変化する。外で遊んでいる子どもたちが紫色に変わったゾウを見て「日光に当たり過ぎた」と、一目でわかる、紫外線の「見える化」といえるだろう。そして、肌を守るために日陰に入ったり、日焼け止めクリームを塗り直したりするなどの正しい行動を身につけてもらおうというわけだ。このように、ゾウのUVタトゥーが自分から行動を起こす「しかけ」になっているのだ。
がん財団は、子どもの日焼けは皮膚がんのリスクを2~3倍高めるとし、これまでさまざまな子どもへの啓発・教育に取り組んできた。UVタトゥーもそうした教育の一環である。
さらにこの夏、がん財団は、プールや公園、湖など人々が日光浴をしそうな場所、全国19か所に「日焼け止めステーション」を設置している。ステーションには日焼け止めクリームのディスペンサーがあり、無料で日焼け止めクリームを塗ることができる。また、紫外線測定端末で現在の紫外線量を確認することも可能だ。
日光の当たり過ぎが皮膚によくないとわかってはいる。しかし、日焼け止めクリームを塗ったり、日差しを避けたりといった行動にはなかなか移せない。これらは、そんな人々の背中をちょっと押すような「しかけ」である。
実のところ啓発活動は、人々に知識を与えるだけでは十分ではない。人々がどうすれば自発的に行動を変えるようになるのかを考え、それを助けることがカギとなる。ルクセンブルクの紫外線対策の啓発活動は、そんなことを改めて考えさせてくれる。これからの、社会をよくする活動のヒントになる取り組みではないだろうか。
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【参照サイト】Fondation Cancer 公式ホームページ
【参照サイト】がん種別統計情報 皮膚
【参照サイト】GLOBAL CANCER OBSERVATORY, Luxembourg
【参照サイト】Luxembourg will fight skin cancer with UV-sensitive tattoos and free sunscreen dispensers
Edited by Erika Tomiyama