※ 台湾の先住民族の人々を表す言葉として、現地での呼称にあわせて「原住民」という表記を使っています。
動物に「絶滅危惧種」があるように、文化にも消えそうなものが多くある。昔ながらの服装や食べ物、習慣、方言。時代が変わるなかで、私たちは色々なものを知らず、体験せずに過ごしてきた。
2022年には、山形の甚五右ヱ門芋、栃木の水かけ菜など、「食べたことない」「知らない」日本の”地元メシ”についてオリジナルの絵本を作り、子供たちに読み聞かせをすることで文化を保全していく「味の箱船」プロジェクトをご紹介したが、世界にはもっと色々な文化継承の方法がある。
たとえば、日本から3時間ほどで行ける台湾には、原住民の文化を体験できるビレッジ「台湾原住民族文化園区」がある。台湾南部の屏東県に位置するこのビレッジでは、公式に認められた16の民族の昔ながらの暮らしや、服装・武器・家の展示、そして歌と踊りのショーが楽しめる。
このビレッジ設立の背景にあるのは、やはりそれぞれの民族文化の継承の難しさだった。中国大陸からの移民が盛んになる17世紀以前から台湾に居住し、それぞれの言語とルールで文化を築いていた彼らは、陽気で歌や踊りが上手く、漢民族というよりは東南アジアの人々に近い存在だと見られている。
現在、台湾の全人口のうち原住民は2%のみ。台湾全土に広く分布しているが、台北などの都市に移住し祖父母は民族独自の言語を話せても、その孫はもう中国語しか話せない、というケースもある。
そこで、この「台湾原住民族文化園区」ではアミ族やパイワン族など16の民族の集落を再現し、原住民のガイドを雇用した上で、それぞれの文化を楽しく体験できるようにした。
狩りのための矢を射る体験、タトゥー体験、アクセサリー作り体験、伝統的な食事の体験。歌と踊りの体験。原住民のもとに生まれた子供だけでなく、市外に住む人々や、筆者のような海外からの旅行者にも開けている。
文化継承の方法に、正解はない。実際にこのビレッジで伝統工芸のアクセサリーを作っている方は「こういう仕事はお金が稼げなくて、後継者がいない」とぼやいていた。それでも、文化を観光資源にすることで少しでも裾野を広げられたら、という思いだそう。筆者も実際にここを訪れて人々と触れ合うまでは、台湾原住民のことを深く知ることはできなかった。
82ヘクタールの広大な敷地を持つ「台湾原住民族文化園区」。主要な都市からは離れており、アクセスも難しい。それでも他民族の共生と、「継承すべき文化」を学ぶのであれば、十分行く価値のある場所だ。
【参照サイト】Indigenous People Cultural Development center
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