「食べたことない」「知らない」”地元メシ”が消える前に。子供向け絵本で日本の伝統食材を遺そう

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和食と聞くと、あなたは何を思い浮かべるだろうか。ご飯にみそ汁、煮物に漬物。親や祖父母が昔作ってくれたものを、とっさに思い出した人もいるかもしれない。

そんな典型的な「日本のごはん」のことを、私たちは思っている以上に知らない。動物に絶滅危惧種があるように、和食のなかにも消えてなくなってしまいそうな素材や、加工方法があるのだ。たとえば、静岡の潮かつお、山形の甚五右ヱ門芋、栃木の水かけ菜。どれも、各地方の固有の食材で昔から食べられてきたが、現在はわずかな生産者しか残っていない。

高齢化によって生産の担い手が不足し、子どもを持つ親でも「食べたことがない」「調理法がわからない」といった理由で、だんだんと人々の口に入る機会もなくなってきた。このまま何もしなければ、日本の各地で、その土地の風土や歴史とともに脈々と受け継がれてきた食文化が消えてしまう。

そんな課題に対し、「子ども向けの絵本」を使って取り組む人たちがいる。日本スローフード協会だ。食に関するさまざまなイベント開催のほか、次の世代に伝統食材を残すことを目的としたプロジェクト「味の箱船」を行っている。

「味の箱船」とは?

イタリアに本拠のあるスローフード協会が1996年から続けてきたプロジェクト。消えてしまいそうな地域特有の食材を、世界共通のガイドラインで選定して記録するものだ。2021年1月現在、6,000近くの動物、果物、野菜の品種と加工食品などが登録されている。

気になった食材をクリックすると、それぞれ「食材の特徴」「歴史的、食文化的位置づけ」「生産を取り巻く状況」などが書かれたページが出てくる。

うご

このように、各地域の伝統的で固有の食材や食品をデジタル上に記録しておくことで、ただ見て学ぶだけでなく、良質な食材の調達や、販売促進に興味のある人への情報提供につながっているのだ。

日本スローフード協会の代表理事を務める渡邉めぐみさんも、イタリアで始まったこのプロジェクトに共感したうちの一人である。彼女は海外と接点を持ち、徐々にイタリア料理やフランス料理に詳しくなっていった。しかしあるとき、「そういえば日本の味噌や醤油は自分で作れないな」と思った渡邉さんは、その後秋田で開かれたスローフードの総会に初めて参加したときに、足元にあった豊かな文化、つまり国内の食の多様性に驚き、スローフードの道へと進んだという。

日本スローフード協会 代表理事 渡邉めぐみさん

日本スローフード協会 代表理事 渡邉めぐみさん

スローフードとは、決して「お金や時間に余裕がある人がする、丁寧な暮らし」ではなく、この地球上のすべての人に向けられた「食」の活動だ。シンプルに美味しく健康的に、環境に負荷を与えず、生産者が正当に評価を受ける社会を目指すことは、誰もが心地いいと思える社会を目指すことである。

渡邉さんは、絵本を作るためのクラウドファンディングのページでこのように語る。

おじいちゃん、おばあちゃんたちが、大事に守ってきたふるさとの味、地元に帰ったら食べたいあの味、地域に愛されるあの店が、今、何もしなければ、本当になくなってしまうかもしれない瀬戸際。

自分たちの子どもや孫たちに、生まれ育った地域の「おいしい」を、どうしたら受け継いでいくことができるのでしょう。どうしたら生産者の方々の思いを伝え、次世代の担い手を育てていくことができるのでしょう。

そこで、Slow Food Nipponの子育て世代メンバーから「絵本」をつくるアイデアが生まれました。

(Good Morning 地球上から消えてしまうかもしれない日本の伝統食材を伝え残すための絵本をつくりたい より)

4冊の絵本で魅せる、4つの地域・4つの食材のこと

絵本作りは、「味の箱船」で食材をただ登録するだけでなく、地域の子どもたちや、更にその次の世代に直接伝え残していくためのアクションだ。今回は「味の箱船」に登録されている日本の74食材のうち、4つの地域にある4食材をモチーフとした4冊の絵本を制作中である。

絵本作家やイラストレーター、画家などクリエイティブ陣も、それぞれの土地(あるいは近郊)の人たちだ。他にも、各地域の生産者や、保存活動に取り組む人、料理人、子育て中のお母さん・お父さんなど地域のさまざまな人を巻き込んだ取り組みとなっている。

秋田県 ハタハタのしょっつる
ハタハタのしょっつるを題材にした絵本「ハタハタ、け」導入部(予定)

ハタハタのしょっつるを題材にした絵本「ハタハタ、け」導入部(予定)

静岡県 西伊豆町の潮かつお
潮鰹を題材とした絵本の制作途中の一頁(予定)

潮かつおを題材とした絵本の制作途中の一頁(予定)

長崎県 エタリの塩辛
エタリの塩辛を題材にした「エタリ トッタリ ツクッタリ」の一幕(予定)

エタリの塩辛を題材にした「エタリ トッタリ ツクッタリ」の一幕(予定)

沖縄県 国頭村宜名真(くにがみそんぎなま)のフーヌイユ
フーヌイユ(回遊魚の天日干し)を題材にした絵本の一頁(予定)

フーヌイユを題材にした絵本の一頁(予定)

もちろん、今回絵本を作ったからといって、すぐにハタハタの漁獲量が回復したり、地域でしょっつるの消費量が増えたりするわけではない。

しかし、この絵本を読んだ秋田の子どもたちがハタハタと地元の結びつきを知り、しょっつるの存在を知り、スーパーでみかけたときに「ハタハタだ!」と気づいたり、大人になって「あのときの……!」とふと思い出したりしてくれたら。沖縄の子どもたちが「うみんちゅ(漁師)ってかっこいい」と憧れを持ってくれたら。そんな願いを抱きながら、渡邉さんは制作を進めている。

絵本完成後には、子どもたちへの読み聞かせや食育ワークショップをしながら、自分と地域と地球につながる「おいしい」を学んだり味わったりするイベントを企画している。また、その食材に関わる生産者だけでなく、地域に住む人や教育機関、自治体など、より多くの人たちと共に食材の保護を目指すという。描いて終わりではなく、その先まで継承するためのつながりを作っていこうとしているのだ。

渡邉さんは、今回の取り組みに関しての想いをこう語った。

「灯台もと暗し、という諺があるように、自分の足下にあるもの=当たり前にそこにあるもの、昔から受け継がれてきたものの大切さは、いろいろな視点でみないと実感できないものだと思います。また、隣の芝生は青い、という諺もありますが、自分たちにはないものを優れていると思ったり、羨んだりするという心理もあると思います。

なので、さまざまな立場の人がさまざまな視点でスポットライトを当て続け、話題にすることが大切なのだと思います。今回は絵本という手段ですが、これをきっかけに、いろいろな視点でそれぞれの食材について発見が生まれると嬉しいです」

クラウドファンディングでの支援は以下から(2022年2月23日まで)。

地球上から消えてしまうかもしれない日本の伝統食材を伝え残すための絵本をつくりたい

クラウドファンディング

絵本のお披露目イベント情報

日本スローフード協会が主催する食のイベント「We Feed the Planet Japan 2022~みんなでつくる、おいしい食の交換会~」が、2022年2月26日(土)、27日(日)に開催されます。

このイベントは2020年にも開催し、全国から地球を想う生産者や料理人、食の専門家たち、そしてスローフードの理念に共感する人々が集いました。「おいしい」を入口に、地球の抱える課題に気づき、日常から起こせるアクションにつなげていく時間です。

2022年開催のこのイベントでは、4冊の絵本プロジェクトのコーナーが設けられます。絵本の制作過程のドキュメント映像を観られたり、題材となった4食材をおいしく食べられる機会があったり、4地域にまつわるワークショップがあったりと、多様な楽しみ方がありそうです!

プログラム内容
  • みんなで作る円卓会議
  • ​ライブステージ
  • ​海の絵本の展示や読み聞かせ
  • 生産者や料理人の出店マーケット
  • テイスト ワークショップ
  • あそべるまなべる展示
イベント詳細
開催日時 2022年2月26日(土)、2月27日(日) 10:00〜17:00
参加費 入場無料(プログラムにより一部予約制・有料)
開催場所 デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO 1階
住所 兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4
参加方法 予約不要で、自由に参加いただけます
主催 神戸市 / 日本スローフード協会​

プログラム内容などの詳細が知りたい方はイベント特設サイト「We Feed The Planet 2022」まで。

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