ドイツのオーガニック食品見本市で見た、世界の「農」と「廃棄ゼロ」のいま

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独ニュルンベルク市で2023年2月14~17日、オーガニック食品の世界有数の見本市「BIOFACH」が開催された。同見本市は、1990年以来開催されている。今年はBIOFACHと自然化粧品部門のVIVANESS2023に、95カ国から2765組織が出展し、135カ国から約3万6,000人が訪問した。

今回筆者は同見本市を訪問し、オーガニック食品・飲料、加工食品、菓子、技術設備、サービスなどに関するドイツおよび世界の動向を体感した。本記事では、3つのテーマ「持続可能な農業・アグロフォレストリー」「リユース・生分解性容器」「エネルギー抑制・廃棄ゼロの製品設計」における最先端の取り組みについてお届けする。

持続可能な農業・アグロフォレストリー

私たちが生きていくうえで、食料確保は必須だ。しかしながら、食料システムの温室効果ガス(GHG)排出量は、人為的なGHG排出量の33%を占めており、高い環境負荷が指摘されている。加えて、世界の生物多様性喪失への取り組みにおいて「食料と農業」は貢献度が高いことが報告されており、持続可能な農業が必要とされている。

カンボジアIBIS Rice:絶滅危惧種と森林を保護し、農家を支援

カンボジアに本拠を置くIBIS Riceは、カンボジアの農家と持続可能なソリューションを構築して生態系を保護しながら米を有機栽培している。絶滅危惧種と森林を保護し農家を支援しつつ、高品質の米を栽培することを使命に定め、人・野生生物・自然が共存し、繁栄できる世界をビジョンに掲げる。同社は有機認証などのほかに、野生地と野生地の間の農地に生息する野生生物を保護することを目的として、人と自然が共存し繁栄することを保証する企業認証「Wildlife-Friendly Enterprise」を受けている。

森林伐採ゼロ・密猟ゼロ・化学物質ゼロを通じて環境保護に取り組む認証済み森林農家と提携。同社の取り組みを通じて、約600の提携農家は50万ヘクタールの国立公園と、50以上の絶滅危惧種の保護に貢献している。

スイスHALBA:エクアドルでアグロフォレストリーを展開

スイスに本拠を置くチョコレート会社のHalbaは、エクアドルで小規模農家の統合組織「UNOCACE」とアグロフォレストリーを通じた持続可能なカカオ栽培プロジェクトを2015年から展開している。同プロジェクトでは、熱帯雨林におけるカカオ本来の習性を再現し、カカオの木・果物の木・木を混植している。

これまでに600人以上の農業従事者と提携し、632ヘクタールの単一栽培の耕地が混合林に生まれ変わった。2018年、スイスのエシカル賞を受賞。同社従業員は、「カカオは日陰が必要ですが、バナナの木を隣に植えることでそれが実現します。農家は単一栽培に比べて、収穫と収入の機会が増えます。当プロジェクトを拡大していきたいと思っています」と述べた。同プロジェクトでは、地元のカカオ生産者をアグロフォレストリーの研修者として訓練している。


リユース・生分解性容器

欧州委員会は2022年11月、「包装と包装廃棄物に関する指令案」を公表した。同案は、容器包装のリユース・詰め替えを促進するべく、企業は一定の割合の自社製品をリユースまたは詰め替え可能な容器包装で消費者に提供しなくてはならないとしている。

ドイツでは、2023年1月に容器包装廃棄物法が改正・施行され、持ち帰り用の食料・飲料品を販売する一定規模以上のレストラン・カフェ・ケータリングなどに対して、リユースカップ・容器を顧客に提供する選択肢を設けることが義務付けられた。今後、こうした規制により、リユース・詰め替えに関するソリューションが多く提供されていくと予想される。

BIOFACHでも、リユース容器や生分解性容器を展示している企業が多くみられた。現在、ドイツの店舗で提供されているリユース容器の形状は簡素なものが多いが、さまざまな形状の容器が展示されていた。

生分解性容器提供の伊BIOPAPのブース

BIOFACHに出展していた生分解性・リユース容器提供の独greenboxの容器(出典:greenbox

独TareTag:詰め替え容器のデジタルラベル

詰め替え容器に関する新技術も紹介されていた。独スタートアップのTareTagは、使い捨て容器包装を排除し、従来の印刷・接着されたラベルに代わり、すべての小売業者・充填業者・最終消費者が同システムを使用して、製品フローをデジタル化してリユース容器が製品に関する全情報を提供することを目指す。

同システムは、次のように機能する。

  1. 空の容器に製品を充填する
  2. QRコードをスキャンして、容器を天秤に置く
  3. 充填した製品を選択する(発声、もしくはキーボードで入力)
  4. 購入場所・賞味期限・栄養価・レシピなど、すべての情報はデジタルラベルを介して常時入手できる

TareTagの創設者のMichael Albert 氏(左)とSonja Schelbach 氏(右)(出典:TareTag)

TareTagの共同創設者Michael Albert 氏によると、TareTagは同システムの実証を今夏に開始する予定だ。

上述のドイツの容器包装廃棄物法の施行により、日常生活でも変化が感じられる。今回、筆者は見本市が開催されたニュルンベルクまでの道中、フランクフルト中央駅で電車を乗り換え、乗り換え時にコーヒーをリユース容器で購入した。フランクフルト中央駅の多くの店舗がリユース容器を導入しており、リユース容器で購入すると使い捨て容器での購入より20セント(約30円)安価だった。


フランクフルトの街並みが描かれたカップ

到着したニュルンベルク駅のカフェでフランクフルトで購入したリユース容器を返却し、デポジット代1ユーロを返却してもらった。返却した店でリユース容器の利用状況を質問したところ、リユース容器を利用する顧客は多く、好評だとのこと。同リユース容器(独スタートアップのRecup)のシステムはアプリなども不要なため、とても簡単で、提携店も多く利用しやすいことが特長だ。

エネルギー抑制・廃棄ゼロの製品設計

BIOFACHでは、エネルギーを抑制し廃棄ゼロを目指して設計された製品がいくつか紹介されていた。ここでは、そのうちの1社「Lamazuna」の取り組みをご紹介する。

仏Lamazuna:フランスの固形化粧品の草分け

この製品は何だと思われるだろうか。

これは、歯磨き粉だ。1袋で120回分。

Lamazunaの創設者Laëtitia Van de Walle氏によると、同氏が2010年に設立したLamazunaは、フランス初の固形化粧品メーカーだ。同社が提供するシャンプー・歯磨き粉・デオドラントなど20種類以上の固形化粧品の多くがオーガニック、100%天然由来かつ100%ビーガンで、フランスで製造している。シャンプーやコンディショナーなどの容器包装もプラスチックボトルではなく紙製のため、廃棄ゼロを達成。従来のシャンプーに多く含まれている水を含まないため、輸送に必要なエネルギーも削減できる。

環境や倫理に配慮して事業展開するLamazunaは、製品販売のほかに以下のような取り組みも実施している。

同社はフランス国立科学研究センターと提携し、固形化粧品への使用に適した、硫酸塩を含まないオーガニック認証を受けた界面活性剤の研究に資金を提供した。2010年の設立以来、同社は植林活動にも取り組んでいる。2013年に、仏の社会的企業PUR Projetのプロジェクトにおいて植林を開始。PUR Projetは世界の小規模農家と協働し、アグロフォレストリー・土地の再生・持続可能な農業慣行を通じて、社会的・環境的に好影響を与える長期プロジェクトを実施しており、これまでに1,100万本以上の木を植林している。

2020年、Lamazunaは自社施設「エコサイト」の建設を開始した。同施設は、オフィス・菜園・パーマカルチャーガーデン・託児所を備える。食品廃棄物のよりよい管理を目指し、社員食堂では従業員に敷地内の菜園で採れた野菜を提供するとしている。

固形化粧品(特に固形シャンプー)は、市場拡大が予測されている。市場調査およびコンサルティング会社の米Grand View Researchは、世界の固形シャンプーの市場規模は2025年までに1700万ドルに達し、2019年から2025年まで年平均成長率(CAGR)7.6%で成長すると予想。成長の理由として、プラスチック廃棄物削減への消費者意識の高まりを挙げている。有害な化学物質などへの衛生と安全性への懸念から、オーガニックや天然成分に由来するシャンプーの需要が促進されることも予測している。

粒状洗剤を製造販売している独スタートアップooohneのブース

編集後記

BIOFACHでは、さまざまな規模の企業が集まり、活発に情報交換していることが印象的だった。1779年創業のリンゴ農家「DR.HÖHL´S」は有機農園の運営について、「化学肥料は使用しないので、害虫には薬草を燃やすなどして対応しています。わたしたちの農園は自然の形に近く、たくさんの動物がやってきます。年ごとにリンゴの大きさや収穫に違いはありますが、それが自然と共存することです」と笑顔で話した。

こうした話を聞くなかで、生物多様性保全や農業従事者の権利に重きを置いた農場運営、環境負荷削減など、多くの課題解決に向けて取り組む企業が、取り組むこと自体を楽しんでいる側面もあるように感じた。

近年、欧州では環境負荷削減・生物多様性保全・人権尊重に向けた規制強化が迅速に進められている。こうした持続可能性向上への取り組みが実施されるなか、多くの組織が自らの生き残りをかけて、消費者をはじめとするステークホルダーを巻き込み、熱意をもって取り組んでいる姿勢とその強みを間近に感じることができた。

【参照サイト】BIOFACH
【参照サイト】IBIS Rice
【参照サイト】Es braucht Veränderung.
*冒頭の画像の出典:NürnbergMesse
*文中の注釈がない写真はすべて筆者撮影

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」の記事を一部編集して転載したものです。

Presented by ハーチ欧州

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ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

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