アグロフォレストリーとは・意味
アグロフォレストリーとは?
アグロフォレストリーは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語。樹木を植え、森を管理しながら、そのあいだの土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりすることを指す。主に熱帯地方で盛んで、「森林農業」とも呼ばれる。
国際アグロフォレストリー研究センター(International Centre for Research in Agroforestry、以下ICRAF)は、ウェブサイトでアグロフォレストリーについてこのように書いている。
Agroforestry is defined as ‘agriculture with trees’.
(アグロフォレストリーは、木と共にある農業です。)
アグロフォレストリーの歴史
アグロフォレストリーという言葉は1970年代、カナダの国際開発研究センター (IDRC)の林学者ジョン・ベネ氏の研究から生まれた。農業と林業を両立させるこの考えは世界中から評価され、その後1978年にICRAFが設立されるに至った。当研究センターは、現在までアグロフォレストリーの研究、発展の中心的存在となっている。
現在、アグロフォレストリーは南米や東南アジア、アフリカなどで、森にも人にもやさしい持続可能な農業の進め方の一つとして注目され、広まり続けている。
なお、アグロフォレストリーという言葉ができたのは1970年代だが、そのアイデアの源泉となる、森を維持しながら多様な果樹や野菜を育てる農業のあり方は、北米の先住民族や南米のアマゾン川沿いに住む人々などが、各地で昔から実践してきた。
アグロフォレストリー、5つの農法
アメリカの農務省は、アグロフォレストリーについて主に5つの基本的な手法を認めている。
アレイ・クロッピング(Alley cropping)
樹木が成熟するまでの間、収入を得るために樹木の列の間に作物を植えること。このシステムでは、果物、野菜、穀物、花、ハーブ、バイオエネルギー原料などを生産することができる。このシステムは、特に熱帯地域では「間作」と呼ばれることもある。
このシステムは時間の経過とともに樹木と作物の関係が変化していくのが特徴だ。木や低木の成長は、作物が得る光や水、栄養に影響を与える。樹木と作物の相互作用はアレイクロッピングならではのものであり、単作など一般的な農法システムと区別される。
アメリカ農務省は、アレイ・クロッピングの事例として、栗×ラズベリー、栗×冬小麦、松の木×綿といった樹木と作物の組み合わせを紹介している。
森林農法(Forest farming)
理想的な日陰を提供するように管理された森林の樹冠の下で、食用植物やハーブ、その他植物、装飾作物などを栽培する。森林農法で栽培される植物には高麗人参やキノコ、装飾用シダなどの高付加価値作物があげられ、これらの作物は自生地の大部分から姿を消し、多くの場所で自生しているものの採取が違法となっている。
シルボパスチャー(Silvopasture)
1つの土地で樹木の管理と放牧家畜の経営を組み合わせた農法。このようなシステムでは、林産物と飼料の両方を集中的に管理し、短期的・長期的な収入源を確保している。樹木は木材や果実、飼料やナッツといった林産物を生み出すほか、家畜や飼料作物に日陰や避難場所を提供し、夏の炎天下や冬の寒風、豪雨による家畜のストレスを軽減する。
なお、家畜は森林生態系にダメージを与えやすいため、家畜を森林に入れる代わりに、牧草地に木を植えることが支持されている。
河岸緩衝地帯(Riparian buffers)
河川や小川に沿って、樹木、低木、その他の植物を自生または植林して維持する方法を指す。浸食や栄養分の流出を防ぎ、野生生物の生息地を提供するといった重要な保全活動であり、ベリーやナッツ、装飾作物、バイオエネルギー作物を生産することができる。
防風林(Windbreaks)
防風林もまたアグロフォレストリーの1つだ。作物や動物、建物、土壌を風雨から守るために樹木やその他の植物を育てることを表す。
アグロフォレストリーのメリット
アグロフォレストリーの良い点は大きく二つ。一つは、収益の面だ。アグロフォレストリーは複数の収益源を持つため、限られた種類の野菜だけを育てる単一栽培よりも、生産者の収益が安定しやすい。これは、さまざまな種類の作物や家畜を育てることで、ある作物が不作でも他の作物や家畜、あるいは材木として樹木を販売することができるためである。
また、農家の人々が自分たちで食べるための作物も同時に育てることで、万一、現金収入が少なくなった場合も、食べものに困らない。そのため、飢餓を防ぐことができる。
最近ではアグロフォレストリーの知名度が徐々に高まっており、環境に優しい農法で作られた商品として売り出されはじめた。商品の付加価値が上がることで、生産者の収入向上につながっているという良い循環もできている。
次に、自然保護の面である。アグロフォレストリーは、木を植え続けながら農業を続けるので、森が守られる。それが温室効果ガスを吸収し、気候変動の対策にもなる。また、樹木が強い雨風を遮ることで、雨水や風による土壌侵食が軽減される。劣化した土壌に樹木を植えれば、地下や地上部のバイオマス(再生可能な生物由来の有機性資源)が増加し、土壌構造の改善にもつながる。土壌侵食の軽減、土壌構造が改善されて保水力が向上するといった土壌保全の効果によって、植物が土壌に定着すれば、さらに土壌が安定する効果も期待できる。
もちろん、森が維持されることにより生物多様性が守られることも大きな利点だ。
アグロフォレストリーのデメリット
メリットもあれば、デメリットもある。
たとえば、アグロフォレストリーのメリットにも登場した収益の面が主な欠点の1つとなることがある。アグロフォレストリーは農業と林業を組み合わせる。樹木を植えることによって単純に農作物の生産が減少するため、耕地のすべての面積を利用した農業と比較すると収益が低下する可能性があるのだ。生産者が生計を、即時的で安定した農作物の収量に依存している場合、このことは大きなデメリットとなってしまう。そのため、アグロフォレストリーを実践しようとする生産者は、農業と林業を組み合わせたシステムの維持に関連する運用コストも考慮しなければならない。
場合によっては、木が畑の作物の収量に悪影響を与える可能性がある。樹木と作物の種類によっては共生が困難な場合があったり、樹木が作り出す日陰が農作物が利用できる太陽光の量を制限してしまったり、樹木と農作物の間で栄養素と水をめぐる競争が激化してしまったり、といった可能性が考えられる。さらに、樹木は植物害虫の生息地を誤って作り出す可能性もある。
樹木ならではのデメリットには、市場状況の変化に応じて対応を変えるといった柔軟性の低下があげられる。樹木は成長に時間を要するため、アグロフォレストリーの取り組みには長期的な視点が必要だ。そのため、市場状況の変化に応じて農業経営や栽培管理を迅速に適応させることが困難になる。
また、アグロフォレストリーを導入するにあたり、林業と農業に関する特定の知識やツールが必要になってくる。それらの専門知識を扱うことは単作などの一般的な農業に比べるとより複雑なものとなるため、農業教育や普及サービスへのアクセスが限られている小規模農家にとっては重大な課題となる可能性がある。
アグロフォレストリーの実践例
アグロフォレストリーは、アフリカ、南米、アジアなどの開発途上国の熱帯地域で、持続可能な方法として、多くの村で実践され、現地の人々の生活向上や環境保全につながっている。ブラジル・トメアス市では、日系移民が病害で単一栽培していたコショウが大打撃を受けた反省から、1950年ごろから現在のアグロフォレストリー的な農業を実践している。
ドミニカのサバナ・イェグァ・ダム上流域では、農地では焼き畑が、放牧地では草の新芽を促すための火入れが繰り返し行われた結果、土壌の劣化と侵食が進んだため、農地の土壌浸食の防止と住民生活の向上を目的にアグロフォレストリーが導入されている。アグロフォレストリーの導入により、地域住民の多くは生産性向上、土壌保全、生産物の多様化、収入の増加などを効果としてあげた。アグロフォレストリーのプロジェクト実施中に予期せぬハリケーンなどに見舞われ、自然災害による被害が及び、収入金額についての正確な回答が得られなかったり、自己資金が少ないことや生産物の販売先がないなどといった経営面での課題も当然ながらあげられているが、アグロフォレストリーの導入後、多くの住民が年に1度行っていた焼畑を放棄し、やめるべきだと考えるに至っている。
日本ではアグロフォレストリーにより栽培されたカカオ豆を使った『アグロフォレストリーチョコレート』が、明治製菓株式会社から発売された。また、アサイーを販売しているフルッタフルッタ株式会社は、おもにアグロフォレストリーで生産されたフルーツ原料やその他多種類の原料を、ブラジル・トメアス市の農協CAMTA(トメアス総合農業協同組合)直接輸入し、販売している。
アグロフォレストリーの今後
気候変動への危機感が高まる中、洪水などの災害を防ぐ森を維持でき、地球温暖化対策にもなるアグロフォレストリーへの期待が今まで以上に高まっている。ICRAFは、2018年からASEANからの要望で東南アジア諸国の合計6億5,000万人が住む地域でアグロフォレスリーを展開するサポートをおこなっている、とのことだ。また、ペルーでは国連環境計画(UNEP)も協力しながら、アグロフォレストリーによるコーヒー栽培を進めている。
世界中で食べられているバナナを脅かす土壌病害に対するアグロフォレストリーの効果にも注目だ。国立研究開発法人森林研究・整備機構(FFPRI)はウェブサイトにて、『(アグロフォレストリーはバナナの土壌伝染病を軽減できるか)』という共同研究について情報を公開している。パナマ病や赤枯病といったリスクを抱えるバナナに対し、マメ科の木を用いるアグロフォレストリーによって、土壌の肥沃度と病気に対するバナナの抵抗力を向上させることができるとのこと。関連する論文では、バナナの耐病性を高める重要な元素の1つであるケイ素は、土壌中のケイ素の利用可能量によって摂取量が制限されてしまう。マメ科の木によって、バナナのケイ素の摂取量が増加する可能性が示唆されている。
厳しい視点から見たアグロフォレストリーのあり方についても紹介する。世界的な環境団体 Nature Conservancy によれば、すべてのアグロフォレストリーが気候変動への取り組みに役立つわけではないという。同団体は、農作物を栽培するために天然林を間伐する方法では大気中に炭素が排出されることになり、草原に多くの木を植える方法では生物多様性が損なわれると指摘する。同団体は、気候変動への取り組みに重点を置いたシステムは、農業用に転用された土地に在来の樹種を戻すことだと述べている。
同団体は先で紹介した、林業と放牧家畜の経営を組み合わせたシルボパスチャー(Silvopasture)は、その形態が畑に1本または数本の樹木を植林したものから完全な森林林冠となっているものまでさまざまであるために、気候に及ぼす影響を測るための平均炭素値は決して正確ではないことを示す。そしてアグロフォレストリーが気候に及ぼす可能性をより深く理解するためには測定とレポートを改善する必要性があることや、すでに存在する膨大な情報、アグロフォレストリーの仕組みが木や土壌にどれだけの炭素を貯蔵できるかについての情報をアクセスしやすく統合することも必要だとする。
また、アグロフォレストリーを成功させるには、樹木と作物のバランスに配慮した計画を立てることが重要となるため、専門知識をもった人材の育成が急務となっている。アグロフォレストリーの認知度の低さのために、実践に至っていないケースも多い。さまざまな課題があるものの、環境と調和するアグロフォレストリーが農業の生計と持続可能性を改善しながら、気候変動を緩和する可能性が期待されているのは確かだ。
食料や燃料など、需要の増大によって世界中の土地への圧力が高まる中、私たちは気候変動の悪化による影響を避けるために排出量を削減しながら、これらの需要を満たす方法について賢明に対応する必要がある。アグロフォレストリーは両方の解決策だ。気候変動対策にもなり、多くの人々を飢餓から救い、生活を向上させるアグロフォレストリーが進展していくことは未来にとって重要といえよう。
【関連ページ】マダガスカルとアマゾンの森のなかで共生する農業「アグロフォレストリー」がグッドな二つの理由
【参照サイト】What is Agroforestry?
【参照サイト】Agroforestry | USDA
【参照サイト】The Five Types of Agroforestry | Conservation and Renewable Energy News | lancasterfarming.com
【参照サイト】Alley Cropping: An Agroforestry Practice
【参照サイト】Silvopasture
【参照サイト】アグロフォレストリーマニュアル
【参照サイト】Advantages and disadvantages of agroforestry
【参照サイト】コラム「アマゾンのアグロフォレストリ」 | ブラジル移民の100年
【参照サイト】ドミニカ共和国サバナ・イェグァ・ダム上流域における アグロフォレストリー技術とその普及に関する活動計画
【参照サイト】アグロフォレストリーミルクチョコレートができるまで
【参照サイト】Forestry and Forest Products Research Institute/Can Agroforestry Mitigate Soil-borne Disease of Banana?
【参照サイト】Effects of soil types and fertility management practices on soil silicon availability and banana silicon uptake
【参照サイト】Agroforestry as a Natural Climate Solution | TNC
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