「あなたは、ぼんやりしている」と言われて、褒め言葉として受け取る人は少ないだろう。何かしらに熱心に取り組むことが求められがちな世の中。もし、ぼんやりすることに力を注いだら、誰からも褒められないのだろうか。
2022年9月、韓国・ソウルの街中で、90分間いかに何もしないでいられるかを競う「Space-out competition(ぼんやりする選手権)」が開催された。
おしゃべりも、スマートフォンを見ることも禁止。チャンピオンに輝いた人は、トロフィーをもらって表彰されるという、私たちの価値観を揺さぶるイベントだ。
選手権では、参加者の心拍数を測定。チャンピオンを決める際には、どれだけ安定した心拍数を保てたかが、重要なチェックポイントとなる。そのため、参加者はパジャマのような楽な服を着たり、おもちゃを持ち込んだりして、リラックスした状態でいられるよう努めた。
ぼんやりする選手権は、「何もしないことにも価値がある」というメッセージを伝えている。いつも時間に追われて気が休まらない人や、何かしていないと不安になる人は、あえてぼんやりする時間を設けることが大切ではないだろうか。
同選手権の醍醐味は、のんびりした街より、忙しい街で開催することにあるという。街中をせわしなく行き来する人と、何もしない人を対比する、市民参加型のアートパフォーマンスだ。
たまたま通りかかった人は、イベントの参加者を見て、「奇妙なことをやっている」と思うだろうか。それとも、参加者の静かなエネルギーを感じ取るだろうか。
韓国は、世界的に見て自殺率が高い国だ。個別の事情を知ることはできないが、多くの人が、心の余白を奪われている可能性はないだろうか。ぼんやりする選手権は、そんな暴力的な環境に対して抵抗しているようにも見える。
より良い社会をつくるには、誰かの抵抗を受け止めることから始めないといけないのかもしれない。
【参照サイト】HOME | spaceoutcompetition
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