日本発・海に浮かぶ未来型農場「Green Ocean」

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土でも、ただの水でもなく「海水」で野菜を育てる。しかも、海の上で。

そんな未曾有のアイデアを実現しようとしているのが、建築テックのスタートアップN-ARK(ナーク)。海に浮かぶ施設農園「グリーンオーシャン」では、海上では食料農作物、海面下では海中環境改善のための土壌改善技術の導入と養殖技術の導入を計画中だ。

海水農業は、海水に元々含まれている栄養を失わせず、海水に雨水を混ぜることで植物の成長に必須な窒素、リン酸、カリウムを揃え、ph調整し、湿気中根という特殊な根を育成し、吸収させることによって成り立つ。すると植物は海水中の栄養素までも活用する機能性野菜へと育つのだ。実際、海水を利用した海水農業は葉物野菜の栽培に成功しており、近々トマトの栽培の技術を確立させるという(※1)

グリーンオーシャンの海上と海面下の様子

Image via N-ARK

モイスカルチャーの特殊繊維

Image via N-ARK

湿気中根が発達した野菜は、環境に適応できる幅が広く、温度の変化に対して強い耐性を持つことが複数の研究によって示されている。今回の農法の研究・開発をおこなったCULTIVERA(カルティベラ)のCEOである豊永翔平氏によると、10℃から15℃の温度変化にも耐えられるという。近年、異常気象による野菜の品質低下や収穫量の減少などの被害が増加している中、環境の変化に強いとされる今回の農法は、レジリエントな栽培方法として期待されるだろう(※2)

農業技術に加えて、N-ARKは海に浮かぶ施設型農園を実現するため、建築の苦手分野である耐塩性技術の研究開発も進めている。グリーンオーシャンの建材には間伐材、接合部には耐塩性のあるカーボンジョイントなどを使用する予定だ浮体技術に関してはパートナー企業との実証実験を今年中旬に浜名湖で実施予定で進めている。

国際連合の報告によると、農業は世界で最も淡水を消費する分野であり、全取水量の72%を占めているという(※3)。世界人口の増加に伴い淡水の需要は増加し、2030年までに淡水資源が40%不足すると予測されている(※4)。こうした淡水資源の枯渇問題を解決するためには、水使用量の削減や海水を利用した栽培が鍵となるだろう。

また、世界の土地の16億ヘクタールが農業(作物栽培)に使われている中で、土地に縛られない農業を確立することは、気候変動や食糧危機、さらには政治的問題を解決する上で、とても大きな意義がある(※5)。考古学をバックグラウンドに持つCULTIVERAの豊永氏も、古代文明が滅びた理由として、土地に依存した農業による食料供給システムの崩壊を指摘し、再び衝突が起きないよう土地に依存しない農業の確立が必要と捉えている(※6)

現在、世界の食料システムは、人口増加や異常気象、戦争による穀物価格上昇などによって脅かされている。グリーンオーシャンは、技術を活かして、土地に依存しない新しい農業のあり方を提案する。持続可能な素材を活用し環境負荷を最小限に抑えた栽培方法がスタンダードになることは、安定供給の確保、ひいてはレジリエントな社会の構築につながるだろう。

失われつつある資源を確保するために争いを繰り返してしまうのか、それとも未来のために現状を見極め、技術を駆使して改善に努めるのか。私たちは今、判断を迫られているのではないだろうか。

※1 施設園芸のニューノーマル モイスカルチャーで気候変動に負けない! 取材先:三重県多気町 ㈱ポモナファーム
※2 海上農業も…食料危機の克服に技術で挑むスタートアップの正体
※3 Water, Food and Energy | UN WATER | United Nations
Summary Progress Update 2021: SDG 6 — water and sanitation for all
※4 Goal 6: Ensure access to water and sanitation for all
持続可能なスパイスやハーブの調達を目指す 超省資源型栽培の実証実験を開始
※5 Land use statistics and indicators: Global, regional and country trends 1990–2019
※6 海上農業も…食料危機の克服に技術で挑むスタートアップの正体

【参照サイト】N-ARK
Edited by Natsuki Nakahara

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