「発酵」と「地熱」の視点から、異なる個人の共生を学ぶ【秋田・湯沢ツアーレポ】

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「異なる業種、分野の人たちが混じり合うことで、化学反応が生まれる」ビジネスの文脈でよく聞くような言葉だが、最近それを痛烈に実感する機会があった。秋田県・湯沢市の文化と自然を体験するツアー合宿『You→ZAWA2023』に参加したときのことだ。

湯沢市は、全国的に知られる稲庭うどん発祥の地であり、ものづくりの地場産業もあり、寒い気候のなかで温泉も充実している。合宿では、そんなさまざまな資源を持つ湯沢市を、東北大学の准教授である鈴木杏奈氏や、科学技術コミュニケーターグループ「ACADEMIJAN(アカデミジャン)」のメンバー、そしてさまざまな研究のバックグラウンドを持つ参加者と共に巡った。

多様な視点からの学びに溢れていた3日間。今回の記事ではそのツアーで得られた学びを、「発酵」「地熱」そして「個人」の視点からお届けする。

「発酵」の視点から違いを考える

味噌と醤油で作る、二つの世界観

1日目のテーマは、湯沢市が持つ強力な地域資源としての「発酵」。地元で古くから商売を営む石孫本店と、ヤマモ味噌醤油醸造元を訪れた。どちらも江戸時代に創業し、150年以上の歴史を持つ味噌と醤油づくりの老舗だが、そのアプローチは大きく異なっている。

醤油の良い香りに誘われて入った石孫本店の中には、東日本大震災でも壊れなかった石造りの麹室がある。合宿当日は、木桶などの古道具を使った味噌づくり・醤油づくりの様子を見ることができた。平成10年に国の登録有形文化財に指定された5つの土蔵があり、素朴で昔ながらの製法を大切にしている様子が伺える。

伝統的な製法で作る味噌

次に訪れたヤマモ味噌醤油醸造元は、建物に入った瞬間から都会のヴィンテージカフェのような雰囲気が漂っていた。

ヤマモ

参加者は、洋楽がかかった不思議な空間で二礼二拍手一礼の儀式を終え、カフェの奥にある蔵を見学していく。古くから続く味噌・醤油づくりの場でありながら、海外進出を目指して店舗デザインなどのリブランディングも行っているヤマモ味噌醤油醸造元。こうした姿勢から、不確定な時代にも変化し続ける柔軟性を感じた。

醤油を手の甲に垂らして試食

醤油を手の甲に垂らして試食

伝統の石孫本店と、革新のヤマモ味噌醤油醸造元。初日は、同じ地域、同じ「発酵」というテーマを扱っているなかでも、各社の見せ方の違いが目立った。

訪問を終え、夕食の場で1日の締めくくりとして行われたのは、芸術人類学者の石倉敏明氏の講談。「自然とヒトとのちょうどいい関係性」を探る話のなかで一つ、印象的な言葉が出てきた。

私たちは共同体ではなく“共異体”?

「私は、人類や他の生命は共同体ではなく“共異体”だと思っています。同一性が担保された社会モデルではなく、そもそもお互いが違った存在、異種であることを前提としています。そして、個々の差異を解消しないままに、ゆるやかに繋がっていくような概念ですね」

石倉氏の口から出た、“共異体”という言葉。聞き慣れないこの言葉を、どう捉えたらいいのか。ツアーの主催者の一人である鈴木杏奈氏にも、解釈を聞いてみた。

「石倉先生の話を聞いてから、共同体(英語でコミュニティ)を考えると、そのコミュニティの内側にいる人同士は大切にし合うものの、外部の人たちのことは無視したり、排除したりしているように感じました。外は外、と線引きするだけじゃなくて、中と外を行き来する境界層のようなものがあると思えたら、少しやさしい世界に近づいていくのかなと」

共異体という言葉が指すもの

「私たちの体の中には、100兆個ともいわれる微生物が暮らしているそうです。そして同じ窯の飯を食べることで、微生物も色々な人の口の中と外を行き来しています。極論ですが、そう考えたとき、一体どこまでが“自分”であり、どこからが“他者”なのか。東洋思想では自分と他人をはっきりと区切らないように、異なる存在だと認識しながらも、互いに尊重することが大切だと思いました」と続ける鈴木氏。

普段は接しないアカデミアの人々の議論に圧倒されながら、とにかくさまざまな「違い」を認識した1日目。文脈を共有しない者同士が、自分らしさを抱えたまま、共に生きていくことはできるのだろうか。モヤモヤした気持ちを抱えたまま、2日目に移っていく。

「地熱」の視点から共生を考える

貴重な地域資源を、熱に変えていくことの是非

2日目のテーマは「地熱」。日本の地熱エネルギーは世界第3位のポテンシャルを有するにも関わらず、諸外国に比べて十分に利活用できていないという見方がある(※1)そんな中、湯沢市はそのポテンシャルを有効に活かしている地域の一つであり、アカデミアや産業界から注目を浴びている(※2)

地熱発電は、地下のマグマの熱エネルギーを使って発電を行うもので、CO2排出量がほぼゼロ、そして持続的に熱を出し続けることができる再生可能エネルギーである。温泉地である湯沢市では特にこの地熱発電が注目されており、現在複数の発電プロジェクトが進行中だ。

合宿では、地元の温泉に使える熱気が吹き出している様子を見たあとに、地熱発電も含めた地域の資源について学べる「ジオスタ☆ゆざわ(湯沢市郷土学習資料展示施設)」、そして地熱を使ってリンゴや大根などの農産物を加工している工場を訪れた。実際に地熱が活用されている現場を見に行ったことで、その恩恵を受けている人たちの存在を感じることができる。

ジオスタ☆ゆざわ

一方で、湯沢市のような温泉が盛んな地域で地熱発電を積極的にすすめていくことに対しては、地元の人からの反対の声もあるという。科学的なデータで見たら地熱利用に向く地域だとしても、住んでいる人からしたら長年親しんできた地の恵みを資源利用することに前向きになれない感情もあるというのだ。

地元の人の生活への還元の少なさや、温泉への影響の懸念(地熱開発が地下に含まれる熱を採取することから、温泉を枯渇させたり泉温を低下させたりするのではないかというものなど)などもあり「進めていくのが難しいこともある」と地元の小安地熱株式会社の伊藤所長は述べる。

机上の空論になってしまう前に

地元の人との対話が難しい現状を、比較的前向きな姿勢で捉えていたのは、ツアー主催者の鈴木氏だ。

「私たち研究者は、データや地図を見て合理的に判断しようとする癖がついていて、社会や人々の感情の視点を置き去りにしがちです。私自身も、大学の研究で数値のシミュレーションばかりしていた時期がありました。しかし実践のために現地に行ってみると、当日のコンディションなどで現実的に不可能だったり、制限があったりすることに気付かされます。限られた視点を持つ人だけで議論をしていたら、そこを見落としてしまうんです」

ツアー主催者の鈴木杏奈氏

ツアー主催者の鈴木杏奈氏

「だからこそ、研究者たちは自分の持つテーマの枠を超えて人と出会い、社会の側から考える視点を持つことが大切」だと続ける鈴木氏。自身の研究を通して、一部の人たちが得をするような最適化ではなく、社会全体が少し良くなるような最適化を目指していきたいという。

地熱のポテンシャルを学びながらも、かなり現実的な話を聞くことができた2日目。違った立場、違った視点の人たちのことを慮ることの大切さと難しさを学ぶ日だった。

「個人」の視点から地域を考える

高校生たちが見ている地元・湯沢市

3日目は、地元の高校生たちと共に作るワークショップ。合宿の参加者がファシリテーターとなり、複数の高校から参加した生徒それぞれの「個人」の視点から湯沢市の魅力や課題を話し合うものだ。最終的には、個人個人が思い描く世界について文章や絵で表現し、発表を行った。

高校生が目指す社会

高校生から見た湯沢市の魅力は、たとえば「安全なこと」や「のどかで自然が多いこと」、「人が優しいこと」などが挙げられた。一方で課題として最も多く出たのは「遊ぶ場所(娯楽)やお店が少ないこと」と「電車やバスの本数が少なく、アクセスが限られること」だ。どれも、湯沢市に限らず同じ規模の地方部には共通する項目である。地域の課題は日本の課題、という言葉があるが、その通りだなと思いながらワークショップに参加していた。

当日参加した学校の先生たちによると、普段の授業のなかではこういったディスカッションの機会は多くないという。知らない大人が集まる場所に行き、他校の生徒と真剣に話し合うこと自体が、地元を捉え直す良いきっかけとなる。そんなことを思えたワークショップだった。

高校生ワークショップ

異なる業種・分野の人々が混じり合うこと

「異分野の人とか異業種の人って、そもそも会話をするのが難しいじゃないですか」

合宿を終えて、主催者の鈴木氏はこう言っていた。湯沢市の地元の人と、科学者コミュニティでは使っている言語が違う。米国スタンフォード大学内で創刊された「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」の記事でも、以下のようなことが書かれている。

専門分野における研究と情報交換に閉じがちなアカデミックな世界では、そこで使用される言語は意図せずとも外部の人間にとって複雑でわかりづらいものとなる。そしてときに「外の人がわからなくても仕方がない」というスタンスをとってしまう。

一方で現場側も、そもそもアカデミックな言語がわからないし、それをわかろうとする人も少ないという問題がある。こうした双方向のスタンスが、両者の分断を深く広いものにしてきたという側面はあるだろう。

引用元:サイエンスと現場の「言語の壁」をどう乗り越えるか

今回筆者の手元で書いていたメモを見返すと、地熱については先述の「言語の壁」に苦しんだことが伺えた。文系出身で民間企業に勤める筆者と、科学者のなかでも普段は互いに交わることのない分野の人々。そして地域で出会った多様な人々。互いにとても違う存在である状態に対し、鈴木氏は最後にこんなことを言っていた。

「違った存在と一緒にいることって、みんなが少しずつ居心地が悪い状態だったと思うんです。今回の合宿は、実はそういったことも意図していました。みんなが少しずつマイノリティであることが、逆に良いというか。誰も取り残さない社会とか、共異体って、もしかしてそういうのじゃないかって」

違った人と何かのきっかけで触れ合うことで、違う価値観の存在を知ったり、時に衝突したりして、自分の枠組みをアップデートしていく。そんなことの大切さを、3日間で学んだ旅だった。

※1 資源エネルギー庁 – もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電
※2 湯沢市 – 1回湯沢市木地山・下の岱地域地熱資源活用協議会 

【参照サイト】ACADEMIJAN
【参照サイト】waku2 as life – ワク湧く生きよう!

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