ヨーロッパで広がる「修理する権利」いま注目の再生家電マーケットプレイスは?

Browse By

環境への負荷軽減のために循環経済を促進する欧州では、電化製品がより長持ちし、部品が簡単に取り外せ、安全に修理ができる設計になるように法整備を進めている。

2023年6月14日、欧州議会は「バッテリー寿命が電化製品の寿命を実質的に左右している」状態を規制するため、すべての電子機器のバッテリーを簡単に取り外して交換可能にすることを義務付ける規則案を可決した。

新規則には、バッテリーを本体に内蔵して取り外せないようにすることが禁止されるほか、バッテリーの製造・回収・リサイクルといった過程におけるカーボンフットプリントの可視化、原料のリサイクル、バッテリー性能や耐久性の明示、交換用バッテリー提供の義務などが含まれる。今後、欧州理事会の承認を経て2027年の施行を予定しているが、2025年に施行予定の別の法案「スマートフォンとタブレットのエコデザイン」にも同様の規則が含まれるため、スマートフォンとタブレットは、2025年から自分でバッテリー交換をすることが可能になるかもしれない。

このニュースを受けた、ロビー団体の「Right to Repair Europe(修理する権利・ヨーロッパ)」は、「修理する権利の大勝利!」と喜びつつ、修理の簡易さについても規則に含めることを要求している。

修理する権利」キャンペーンの拡大で、再生電子機器の認知度が高まっている欧州では、徹底した品質管理とアフターフォローを提供するマーケットプレイスが増えている。

市場調査のスタティスタによると、家電リサイクル市場は今後数年間で成長し、2026年までに約660億ドルの規模に達すると予測している。特に、再生スマートフォンの需要が多く、 2021年には世界で2億5,100万台以上が取引されたという。再生パソコン市場も成長しており、今後数年間でさらに拡大すると予測されている(※)

手ごろな価格で高品質、かつ廃棄物削減につながる電子機器が、安全に手に入るならば、新品に限らず中古・再生機器を選ぶひとも増えていくだろう。

欧州で急拡大し、日本にもその波が押し寄せている、中古・再生電子機器販売の3事例をご紹介する。

欧州で成長する再生電子機器マーケットプレイス3事例

Circular Computing(サーキュラー・コンピューティング)


イギリスのCircular Computing(サーキュラー・コンピューティング)は、見た目も性能も新品同様のHP、Dell、Lenovo製の再生ノートパソコンを提供している。2023年6月、サーキュラー・コンピューティングは、世界初かつ唯一、英国規格協会BSIのKitemark™認証を取得した。これは「新品と同等またはそれ以上」であることを証明するものだ。

サーキュラー・コンピューティングの顧客には、世界自然保護基金(WWF)や英国王立造幣局が名を連ねる。顧客は、機器費用を節約しながら、環境負担低減も実現でき、同社ホームページには、これまでに7,300万キログラムの天然資源を保護、115億リットルの水の節約、1,928万キログラムの炭素を削減したと記されている。

今回、世界195か国に77,500のクライアントを持つBSIと協力関係を築いたことにより、サーキュラー・コンピューティングの再生ノートパソコンが世界で主流化されることが期待される。サーキュラー・コンピューティングでは、ノートパソコン1台の販売につきWeForestを通じて5本の植林を行っているという。

Back Market(バックマーケット)


フランスのBack Market(バックマーケット) は、世界16か国に販売ネットワークを広げる中古電子機器マーケットプレイスだ。2020年夏には150万だったユーザー数は、約1年半で4倍の600万を超え、世界有数のマーケットプレイスへと急成長している。2021年3月には、日本向けサービスも開始した。

品質を保証するための仕組みとして、出品者の約30%しか通過しないという厳しい品質チェック、専任マネージャーによるユーザーエクスペリエンス向上、独自のアルゴリズムで品質スコアの高い製品レコメンド、販売品の抜き打ち検査などを行っている。また、ユーザーが安心して購入できるよう、12カ月間の動作保証や30日間の全額返金保証を提供している。

2022年にシリーズEで5億1000万ドルを調達したバックマーケットは、エンジニアを中心に採用を進め、欧米中心の事業をアジアに拡大する計画だ。

Refurbed(リファブド)


オーストリアのRefurbed(リファブド)は、2017年のサービス開始以来、欧州で急成長している中古電子機器販売サイトだ。「取って、作って、捨てる」という現代のリニア型の経済モデルから、製品の耐用年数を延ばして、再生品をニューノーマルにする循環型ビジネスモデルへの変換を目指している。

リファブドが欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構と共同で行った調査では、新品の代わりに再生機器を購入することで、二酸化炭素排出量78%減、電子廃棄物71%減、工業用水86%減の効果があるという。

新品より40%安い再生機器を提供するという販売サイトでは、消費者が安心して購入できるよう、バックマーケットと同様の品質管理や動作保証、返金保証が付帯する。また、デバイスが販売されるごとに、ハイチ、マダガスカル、ケニア、インドネシア、モザンビーク、ネパールなどに木を植える活動も行っている。

リファブドは、2021年にはシリーズBで5,400万ドルを調達し、欧州でサービスを拡大している。2023年には、欧州の有望スタートアップ企業50社を選出する「テックツアー・グロース・アワード」のサステナビリティ部門に選出され、その成長が期待されている。

編集後記

便利な電子機器は、もはや私たちの生活の一部となっているが、すべての人が新しい製品を購入できるわけではなく、製品に高い金額を払いたくないと感じる人もいるだろう。そんな需要をとらえたビジネスが、欧州で大きく成長している。

欧州は、「修理する権利」ロビー団体、製造メーカー、ユーザーなど、それぞれの主張を聞きながら、着実に循環経済への立法プロセスを進めているようだ。

欧州はルールメイキングに長けると言われ、日本は技術で勝ってビジネスで負けると言われることが多い。欧州の規制の動きを追うことで、既存技術の活かし方や、新規ビジネスのアイデアを閃くこともあるかもしれない。

※ スタティスタ「Recycling and reusage of consumer tech – statistics & facts」
【参照サイト】tech eu「Circular Computing and BSI join forces to bring ‘good as new’ refurbished laptops to market」
【参照サイト】欧州議会「Making batteries more sustainable, more durable and better-performing」
【参照サイト】Right to Repair Europe「Big win for right to repair with new EU rules for batteries – but legislators must get the implementation right」
【関連サイト】修理する権利(Right to repair)とは・意味
【関連サイト】日本に「修理する権利」の波は来る?アップル、サムスンなど大手テック企業で今、起こっていること

FacebookTwitter