【イベントレポ】気候危機に立ち向かうサービスデザイン 「決済」からCO2削減が価値になる経済はつくれるか?

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creative企画ではこれまで、数々のイベントを開催してきました。(過去のイベント一覧)

8回目となる今回は、「気候危機に立ち向かうサービスデザイン『決済』からCO2削減が価値になる経済はつくれるか?」と題し、企業と生活者の接点である決済サービスを担う「株式会社クレディセゾン」の原田佳則さんと、同社にCO2可視化のアルゴリズムを提供する「株式会社DATAFLUCT(データフラクト)」の吉岡詩織さんのお二人を招き、CO2排出量の可視化や「可視化の先」をどう考えたらいいのかを探りました。

この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。

話者プロフィール:原田 佳則(株式会社クレディセゾン)

原田 佳則入社以来、与信・債権回収部門やデジタルマーケティング部門にて、主にデータ分析業務に従事。現在は、決済データを活用したソリューションサービスの企画・開発や、当社会員の活性化に向けた顧客分析・デジタルプロモーションなどを担当。2022年より、CO2排出量を可視化できる日本で唯一のクレジットカード「SAISON CARD Digital for becoz」のプロジェクトメンバー。

話者プロフィール:吉岡 詩織(株式会社DATAFLUCT)

吉岡 詩織大阪府大阪市出身。新卒で資産運用会社に就職。年金のESG投資戦略の立案、運用などを担当。新興国融資を行うFintechベンチャーに転職。再生可能エネルギーファンド等の組成に携わる。2021年7月より株式会社DATAFLUCTで業務委託を開始、同年12月にbecozの事業責任者に。東京大学文学部卒、名古屋大学大学院環境学研究科在籍中。

「個人のCO2排出量が分かる」クレジットカード

原田さんの勤める、日本の大手クレジットカード会社の株式会社クレディセゾンは2022年6月、新しいサービス「SAISON CARD Digital for becoz(ビコーズ)」(以下「becoz card」)をリリース。イベントではまず、原田さんがそのプラットフォームであるbecozについて説明してくれました。

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「becoz」は「be CO2 zero」の造語です。「環境価値を測るものさしをつくる」「環境価値を交換できるようにする」「環境価値を生み出す選択肢を与える」などを目的とした環境価値流通プラットフォームのことで、三つのサービスを提供しています。

一つ目はスマートフォンのアプリ内でCO2排出削減量を管理する「becoz wallet」。個人のCO2総排出量や削減量、オフセット量をポートフォリオ化し、削減目標との乖離を管理することができます。

二つ目はデジタルクレジットカードの「becoz card」。カードの利用申し込みが完了すると、スマホを使ってそのまま買い物することが可能。利用明細データを「becoz wallet」と連携させることで、購買データからCO2排出量を可視化することができます。

そして三つ目は「becoz market」。CO2削減量と削減方法を組み合わせたプランを数百円から購入でき、個人でCO2をオフセットすることができます。現在は日本の森林保全プラン、省エネルギープラン、再生可能エネルギープランの中から選択可能です。

becoz

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サービスのリリースまで「約9ヶ月」のスピード開発

購買データから個人のCO2排出量が分かるという画期的なシステムですが、開発にあたってはどのような困難があったのでしょうか。原田さんによると「becoz card」はクレディセゾンの社長の強い共感とコミットにより、スピーディーに開発が進んだそうです。

becoz

「becoz」は、クレディセゾンのほかCO2排出量を可視化するWebサービスを開発する株式会社DATAFLUCTや、決済データからCO2排出量を可視化する独自技術を持つスウェーデン企業Doconomyの三社による協業プロジェクトから成り立っています。

はじまりは、2021年9月。クレディセゾンの社長がDATAFLUCTの紹介記事を読み、同社に直接電話をしたことがプロジェクト開始のきっかけだったと言います。

「三社できちんと役割分担をしたことや、2022年の世界環境デー(6月2日)に間に合わせたいという熱い想いから、わずか9ヶ月でリリースすることができました」

2023年、「becoz card」は「NIKKEI脱炭素アワード2022」のプロジェクト部門大賞、そして「Japan Financial Innovation Award 2023」の大賞を受賞しました。

国内初、買い物のCO2排出量が「見える」クレジットカード

自分の「CO2排出量」を日常で気にするきっかけに

becozをリリースしてから1年が経ちましたが、CO2排出量を可視化することでステークホルダーの変化はあったのでしょうか。原田さんは、「未だ十分なデータは集められていない」と断りながらも、既存のセゾンカード会員との違いについて言及しました。

「becoz cardの会員は、リリース後にあたる2022年以降に入会した人が約半数を占めますが、既存のセゾンカード会員もbecoz cardに関心を持ってくださり、2枚目のカードとしてお申し込みいただいています。既存のセゾンカードにbecoz cardと同じ機能を搭載するかどうかは、今後の広がりを見ながら検討していきたいと思っています。既存のセゾンカード会員は百貨店などで会員登録をする人が多いため、40代以上が過半数を占めると言います。becoz cardの取り組みは、若者だけではなく、幅広い世代に環境問題に関心を持ってもらうきっかけとなりそうです」

また、原田さんご自身の体験談として、「CO2排出を自分ごととして捉えられるようになった」と言います。

「becoz card導入後、決済時にCO2排出量について周りの人と話すようになったり、商品にカーボンフットプリントが表示されていると見比べるようになったりしました」

個人の「CO2排出量可視化」のその先。家庭部門のCO2排出削減が急務

続いて、DATAFLUCTの吉岡さんから「可視化の先に見据えていること」をテーマにお話いただきました。

日本の産業界ではCO2排出量の削減に関して取り組みが進んできていますが、家庭部門では2030年までに66%を削減しなければならず、さらなる取り組みが必要だと吉岡さんは訴えます。

家庭部門のCO2排出量を減らすにはインフラ投資が必要です。たとえば、家に断熱材を入れることで冷暖房の使用量を減らすことができます。電気自動車(EV)の新車販売割合についても、世界全体で14%あるのに対し、日本は3%ほどに止まっており、制度面でのバックアップが急務です。

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また、家庭部門における食事、買い物、移動、レジャーといった間接排出量(※)がまだまだ多いのも現状です。EVや省エネ・再エネ設備の価格が下がり、より普及しやすくなるまでの間、間接排出量を減らす観点からbecoz cardのようにCO2排出量を可視化し、削減に結びつける事業に期待がかかります。

※「直接排出量」は、ある組織や個人が直接コントロールできる活動から生じる排出を指します(自動車の排気ガスや工場からの排出など)。一方、「間接排出量」は、ある組織や個人が直接コントロールできない活動から生じる排出を指します(電力の購入や製品の製造・輸送など)。

自分の環境配慮が、好きなチームを支える取り組み

最後に、個人の行動変容を促す“推し活×クラウドファンディング”アプリ「becoz challenge」について吉岡さんから紹介がありました。

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「becoz challenge」は、消費者の環境に配慮した行動をポイント化し、好きな企業や団体と共に脱炭素アクションに参加できるサービスです。

「Jリーグ松本山雅(長野)との取り組みでは、長野県松本市の美しい自然を守るため、500キログラムのCO2排出量削減を目標に取り組みを開始しました。結果として山雅サポーターを中心とした250名の参加者と共に、約2ヶ月で目標を超える約820キログラムのCO2排出量削減を達成。スポンサー企業6社を得ることができました」

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この取り組みに参加した松本山雅サポーターの中には、松本山雅の試合を100回以上観戦したことのある熱狂的なファンが約半数、松本山雅のファンクラブに加入している人が全体の約77%など、コアなファンが多いようです。この取り組みに参加すると松本山雅FCから限定グッズや限定体験がもらえるなど、経済的なインセンティブではなく「推しからのインセンティブ」をゲットできる取り組みが、個人の行動変容を促すことに大きく貢献していると言います。

環境問題に取り組むことの大切さは理解しつつも、「自分一人が行動したところで何か変わるのだろうか……」と思い悩んだことがある人もいるかもしれません。また、企業側も「消費者からのニーズがあるのか、利益は十分に出るのか」といった疑問から「市場が成熟するまで待とう」と先送りにする風潮が少なからずあります。

「becoz」のサービスは個人に対しても、企業に対してもそうした考えに一石を投じるものであり、今後どのように市場が変化していくのかが楽しみです。

次回のイベントも、ぜひご期待ください!

第2部では、日常生活のCO2を見える化することで広がる可能性についてClimate Creative事務局とディスカッションし、第3部でもイベントに参加した方々とbecozカードのこれからについて対話をしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待しております。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)

What Is Climate Change?-United Nation

Written by Mayu Suzuki
Edited by Erika Tomiyama

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