北極圏の湖のど真ん中に浮かぶレストランで、6時間かけて食事をする意味

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「6時間かけて食事をする」。そう聞いたら、あなたはどんな印象を持つだろうか?これは、6月下旬にノルウェー西部の大自然の中にオープンしたレストラン「Iris」で“夕食”を食べるのにかかる時間だ。

Irisは美しい入り江に囲まれた湖のど真ん中にある。水中に浮かぶ「サーモン・アイ」と呼ばれる丸い建造物の中にレストランがあるのだ。そんな「浮かぶ」レストランには、近くの港町から専用の電動ボートに乗って向かうことになる。

水中に浮かぶ丸い建物が「サーモン・アイ」

水中に浮かぶ丸い建物が「サーモン・アイ」 Image via Iris

ボートから降りると、ゲストはまずサーモン・アイの中で「多感覚水中体験」をする。海面下の暗い部屋に案内され、食のサステナビリティに関する課題や、Irisのメニューがどのように課題解決につながっているかについての動画を見てから、食事をするのだ。

そうして始まるのが、“Expedition Dining(探求ダイニング)”だ。Irisで提供される各料理は、レストランが位置するハルダンゲルフィヨルド地方の壮大な自然にインスピレーションを受けているという。見た目も芸術的で、五感を使って楽しめる食事だ。

まるで「ひとつの物語」のようなコースは、「世界のフードシステムに対する挑戦と脅威、そして未来の革新のためのアイデアと提案」というテーマだ。全18皿の料理それぞれが、食糧問題を新たな視点で捉え、海洋が持つ食料としての可能性に焦点を当てている。

例えば、近海で採れるウニを使用した料理は、ノルウェー海域の生態系の保全につながるという。サイエンス・ノルウェーによると、1970年代初頭から外来種のウニがノルウェーの海域に侵入し、かつては海藻で緑色だった沿岸の海底を、まるで海中の砂漠のように変えてしまったという。Irisでは、そんなウニを収穫して料理にすることで、生態系のバランスを保とうとしているのだ。

Irisで提供される見た目も美しい料理

Irisで提供される見た目も美しい料理  Image via Iris

Irisのヘッドシェフ・Anika Madsen氏は、ハルダンゲルフィヨルド近海で採れる食材は、「世界で最もエキサイティングなシーフード」だと述べている。Irisをオープンする前は海藻をはじめ、フィヨルドで採れる食材を使った料理を作ることを特に楽しみにしていたそうだ。Irisのメニューには、ジビエ肉、羊のミルク、シードルなど、この土地の食材も取り入れる予定だという。

「あまり知られていない持続可能な食材にスポットライトを当てたい、とずっと心の中で考えてきました」と、プレスリリースの中でMadsen氏は語っている。「より環境に優しい未来につながる食材を発見したら、境界を押し広げることを恐れません。しかし、人々にそれを愛してもらうためには、本当においしいものでなければなりません」。色のサステナビリティだけではなく、美しさやおいしさを同時に探究しているのが、Irisなのだ。

Irisの予約は一晩あたり24名限定、1人あたりの予算は560ドル(約81,800円)と高額だ。そのうえ、すぐにアクセスできる場所にあるわけでもない。つまり、わざわざ時間をかけていかなければいけないのだ。

壮大な自然のなかで、ほかの場所では味わえないユニークな食事をじっくりと楽しむという、Irisの体験は究極のラグジュアリーなのかもしれない。地球の美しさを肌で感じ、自然の恵みを感じ、食事でおいしさを味わい、その瞬間を楽しむこと。忙しい現代を生きるわたしたちが忘れがちなことを、贅沢に思い出させてくれるのだ。

Iris Brand Film from Salmon Eye on Vimeo.

【参照サイト】Iris公式サイト
【参照サイト】At this floating restaurant in Norway in the middle of a fjord, guests spend up to $560 to dine on an 18-course menu. Here’s what the unique experience is like.

Edited by Erika Tomiyama

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