IT先進国スウェーデン、学校で「紙と鉛筆のアナログ教育」に戻る計画を発表

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教育先進国と言われている北欧諸国では、ICTを活用した学習を進めてきた。例えば、スウェーデンのソレントゥナ市は、2010年にタブレットやPCを1人1台付与する計画を進め、紙の教科書を原則として廃止するなど、思い切ったIT活用に踏み切った。これは、デジタル社会にいち早く対応した取り組みとして、日本にも紹介され、評価されてきた。

しかし現在、それに逆行する流れが生まれつつあるようだ。

2023年8月中旬から始まった新学期では、スウェーデン全土の学校で、印刷された本や静かに本を読む時間、手書きの練習に重点が置かれている。その分、タブレットを使った自主的なオンライン調査、キーボード操作のスキルに割く時間は減らされた。

この動きを主導しているのは、約1年前にスウェーデンの学校担当大臣に就任したロッタ・エドホルム氏である。彼女はテクノロジーの全面的な導入に以前から反対してきた。エドホルム大臣は2023年8月、「幼稚園でのデジタル機器の使用を義務付けるという教育委員会の決定を覆す」と発表し、さらに、6歳未満の子どもたちのデジタル学習を完全に止める計画であることを明らかにした。

実は近年、特に2016年から2021年にかけてスウェーデンの児童の読解力は低下している。小学4年生の読解力に関する国際的な評価である「国際読解力調査(PIRLS)」において、ヨーロッパ平均は上回っているものの、毎年ポイントを下げているのだ。

以前より、保育園でのタブレット導入など、スウェーデンの教育へのデジタル化アプローチが基礎的な学力の低下につながっているのではないか、という政治家や専門家から疑問の声があがっており、エドホルム大臣の決定はこれらに応えた形だ。

スウェーデンのカロリンスカ研究所も、「デジタル情報源から知識を得るのではなく、印刷された教科書と教師の専門知識を通じて知識を得ることに重点を戻すべきだと考えている」との声明を発表している。

だが、話はそんなに単純だろうか。

スウェーデンの「伝統的な教育方法」への回帰に異論を唱える専門家もいる。オーストラリアのモナシュ大学で教育学を専門とするニール・セルウィン教授は、「テクノロジーの影響を批判することは、保守的な政治家がよく使う巧妙な方法」だと言う。

セルウィン教授は、英・Guardianの取材にて「スウェーデン政府は『テクノロジーが学習を向上させるという証拠はない』と言っているが、裏を返せば『テクノロジーによって何が効果的なのか、よく分かっていない』ということだろう。テクノロジーは、教育における複雑な要因の一部に過ぎないのだから」と述べている(※1)

日本でも、2020年より進められているGIGAスクール構想により、小中学校で1人1台の学習用端末の配備がほぼ完了している(※2)。また、今後はChatGPTなど生成AIの登場により、これらを活用した授業のあり方が議論されている。

これからもICTは間違いなく生活に欠かせないツールであり、さらに驚くべきスピードで進化し続けている中で、初等教育はどうあるべきか、どのように取り入れていくべきか、手探り中という状態だ。

関与する教育関係者の政治的立場や思い込みではなく、事実に基づいた検証と議論を重ねることで、教育の中心である子どもたちに最高の学習環境を提供することが、大人としての責務ではないだろうか。

※1【参照サイト】Switching off: Sweden says back-to-basics schooling works on paper
※2【参照サイト】GIGAスクール構想について
【参照サイト】“考えなしのIT導入”は教育を駄目にする? スウェーデンの自治体が検証
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Edited by Megumi

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