ホームレスの人々に選挙権を。アイルランドで、住所がなくても投票が可能に

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2024年は欧州議会選挙や米国の大統領選など、各地域で注目の大型選挙が実施される「選挙イヤー」だ。社会改革に結びつく選挙では、投票者の一票が世界を大きく変えることにもなる。だが、それらの選挙への投票権はその地域で生活を営む「すべての人」に与えられるわけではないことを知っているだろうか。

投票権があっても投票しない人がいる一方で、住所不定のために投票したくても投票権を持てない人もいる。ヨーロッパのほとんどの地域では、「住所不定の場合、投票不可(No Address, No Vote)」というルールが敷かれている。住民票がないと投票ができない日本と同じように、ホームレス状態の人々には投票権が与えられていない状況なのだ。

アイルランドでは、そうしたホームレス状態の人々が増加している。NGO団体・Focus Irelandによると、アイルランドの首都ダブリン中心部では住宅不足が深刻化した結果、この10年間でホームレス状態にある人(緊急用住宅に暮らす人を含む)の数は4倍、およそ14,000人にまで増えたという。

そこでアイルランドは、「社会問題に実際に直面している人たち自身の声が反映されない」という現状を打破する施策として、ホームレスの人々の有権者登録を可能にするキャンペーンを開始した。

登録するのにかかる時間は2分ほど。オンラインや電話で登録を受け付けている。必要なのは、PPSナンバーのみ。このPPSナンバーは、アイルランド国内で就労したり社会保険サービスを受けたりするために必要な番号で、現在ホームレス状態にある人でも所有している場合が多いという。これにより、アイルランドではホームレス状態にある人々も、希望すれば2024年6月の欧州議会選挙で投票することが可能になるのだ。

キャンペーンを主催するFocus Irelandは、1ヶ月の間にアイルランド国内のホームレス状態の人々が、できるだけ多く地元の郵便局で住所登録をして、選挙に投票できることを目標としている。同団体のボランティアであるジェイムズ・フラナガンさん(20歳)は、ホームレス状態だった当時、母親と車の中で寝泊まりしていた。フラナガンさんは、POLITICOのインタビューの中でこのように話している。

ホームレスの人々の危機は“トレンド”でもないので、ニュースにもなりません。だから、政治家がホームレス状態の人々を救うために何をしてくれているのかが見えてこないのです。住居の危機は、近年の社会における最大の問題です。私は、自分の一票を使って、行動を起こしたい。特に、私のようなホームレスという背景を持つ人たちにとって、投票する機会を持つことは重要なことです。私たちには、実際に助けてくれる政府が必要なのです。

Ipsosの最新データによると、アイルランドの500万人が挙げる問題のトップは「住宅」だという。また2023年、首都のダブリンはスイスのジュネーブとイギリスのロンドンに次いでヨーロッパで3番目に家賃の高い都市となった。

住宅難がますます厳しくなるアイルランドで、困窮した現状にいるホームレスの人々の一票一票は選挙にどんなインパクトを与えるだろうか。その結果は、EU諸国の将来のみならず世界各地域の政治経済にも大きく影響を与えることになるかもしれない。

【参照サイト】POLITICO: Ireland has a new group of voters: The homeless
【参照サイト】News Talk: Homeless vote could shift the tone of upcoming elections
【参照サイト】Register to vote if you haven’t got a fixed or permanent address – GOV.UK
【参照サイト】Focus Ireland: Number of people who are homeless and relying on emergency homeless accommodation
【参照サイト】The Economist: Where are Europe’s most expensive cities for renters?
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Edited by Megumi

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