建築の背景にある植民地主義に向き合う。イギリスの“不快な“街歩きツアー

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オクスフォード、ケンブリッジ、ヨーク……奥深い歴史を誇るイギリスの各都市で、いま「Uncomfortable Cities Tour(不快な都市ツアー)」なるものが開催されているという。それはどんなものなのだろう。そしてツアーのいったい何が「不快」なのだろうか。

Uncomfortable Cities(アンカンフタブル・シティズ)はイギリスを拠点とする社会的企業だ。オクスフォード・ケンブリッジ・ヨークの三都市で、ウォーキングのツアーを開催する。ツアーのガイドを担当するのは、主に大学に籍を置く博士課程の学生。彼らは一方的に街の物語を伝えるだけではなく、参加者とのディスカッションを大切にしながら、ツアーの企画を行なっている。

彼らがツアーを「不快」だとする理由の一つは、歴史的建造物の裏に隠された「不快な」歴史を振り返るものだからだ。Uncomfortable Citiesが企画するツアーは、植民地主義の遺産や奴隷貿易などにも焦点を当てていく。ツアーのテーマは、「植民地主義」だけではなく「階級」「ジェンダー」など多岐に渡り、建造物を外から見るだけでなく、ときには美術館の中を巡ることもある。

ツアーが「不快」であるポイントの二つ目は、それが初対面の人とのディスカッションを伴うものだからだ。例えば、様々な背景を持った参加者とともに「植民地化」の歴史を語ることを考えてみてほしい。「違う意見だったらどうしよう」「攻撃的に思われたらどうしよう」……発言をするまでは様々な不安がつきまとう。しかし、そうした不快なディスカッションこそが、彼らのツアーの狙いでもあるのだ。

2023年にはオクスフォード・ケンブリッジ・ヨークの三都市の合計で1,187ものツアーが開催された。参加者は1万5,000名にもわたる。ツアーには観光客・地元の人・学生などが参加し、地域の歴史を残すユニークな動きの一つとして認知されつつあるようだ。

2024年1月にUncomfortable Citiesとロンドン大学のInstitute of Historical Researchによって開催されたイベントでは、彼らの企画するツアーが「オープンな質問に基づく」ものであることが強調されていた。当日トークを担当したOlivia Durand(オリビア・ドゥランド)さんはこう語る。

ツアーに参加する人々からはもちろん様々なコメントをもらいます。そこに刻まれた歴史に憤り、抗議する人もいれば、「大英帝国が悪かったというわけではない、技術の進歩ももたらした」と話す人もいます。そうした様々な立場からのコメントをもらったとき、私たちは決めつけたり、否定をしたりしません。まずはその発言を深掘りします。

このようにツアーでは「ディスカッションは参加者全員のものである」という姿勢が貫かれている。

社会が誰かを痛めつけ、虐げた歴史を知り、それに対して意見を持ち、知らない人々と意見を交わすのは簡単なことではない。しかし、Uncomfortable Cityはそうした骨の折れる取り組みを、あえてツアーというカジュアルな形で行なっているのだ。

街の暗い歴史を隠し、古びたものを駆逐し、新しい建物で塗り替える街づくりは簡単かつスピーディーで、経済効果も大きいかもしれない。しかし、それが「誰のための」街なのかを考えたとき、その街に関わってきた人々──マイノリティの人々を含む──の視点を無視することはできないだろう。

過去の声を拾い上げ、ディスカッションを通じてそれを未来につないでいく。歴史の深い街で編み出されたUncomfortable Cityの取り組みは、今後ますます意義深いものになり、イギリス中、そして他国の都市にもインスピレーションを与えていくはずだ。

【参照サイト】Uncomfortable Oxford Walking Tours
【参照サイト】Uncomfortable Cambridge Walking Tours
【参照サイト】The Uncomfortable York Tour
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