世界各国で設定されている、建国記念日や独立記念日。国家の成り立ちにとって重要な日であり、それぞれの国で祝日となることも多い。
しかし、それは誰の視点で設定された「記念日」なのか、考えたことはあるだろうか。筆者の住むオーストラリアで、近年白熱している「建国記念日」にまつわる議論は、さまざまな人が集まる国家で多様な視点を取り入れる重要性や困難さを教えてくれる。
建国記念日は、イギリスの艦隊が上陸した日
オーストラリアの建国記念日は、1月26日だ。この日は「オーストラリア・デー」と呼ばれ、祝日でもあるこの日は、街に人々が繰り出し、お祝いをしている……そう思いきや、先住民に対する敬意を欠くものだとして、近年は再考を呼びかける抗議デモ「インベーション・デー(侵略の日)」がオーストラリア国内で広がっているのだ。
1月26日は、1788年にイギリスの艦隊が未開拓の地であったオーストラリアに上陸し、イギリスの国旗を掲げた日と言われている。その後オーストラリア政府は、この日を日本でいう「建国記念日」にあたる「オーストラリア・デー」と制定した。
オーストラリアでは、毎年この日に様々な祝賀イベントが開催される。現地の人々は、家の前に国旗を掲げたり、ビーチや屋外でバーベキューをするなど、家族や友人とオーストラリアの始まりを祝う。
また、国民栄誉賞の授与式や、オーストラリア国籍取得者を祝福する式典も毎年この日に行われる。多民族国家オーストラリアでは、毎年世界中からたくさんの移民を受け入れており、新しくオーストラリア人となった人々を祝う行事だ。
土地を占領された先住民の立場を尊重し、抗議が起こる
しかし、そんな「オーストラリア・デー」に対して、近年抗議の声が上がっている。
それは、もともと何千年も前からこの土地に住んでいた先住民の人々にとって、この日は自分たちの土地や文化を奪われた「侵略の日」でもあるからだ。「残虐な迫害の歴史が始まった日に、祝福するのはふさわしくない」という声が年々高まっている。
今年もオーストラリア各地で大規模な抗議デモが開催され、筆者の住むメルボルンでは約3万5千人、シドニーやブリスベンでも数千人もの人々が参加した。参加した人々は、この日が持つ複雑な歴史を考慮し、「オーストラリア・デー」の廃止、または別の日に変えるべきだと訴えた。
このような「オーストラリア・デー」に対する国民の抗議運動の広がりによって、実際に今年は、81の自治体が国籍取得者を祝福する式典を別の日に開催するなど、国全体で変化していこうという前向きな姿勢が感じられる。
オーストラリア政府も民間企業も、先住民への敬意を改める動き
IDEAS FOR GOODでは今までも、オーストラリアで先住民への敬意を示すような取り組みや事例を取り上げてきた。
例えば、国内の地名を先住民の言語で表記する動きが広まっていることがその一つだ。地域の役所や、道路沿いに設置された地名の標識は現在英語と先住民の言語の二つが表記されていることが多い。
また、公式な会議やイベントの冒頭では、先住民の人々に敬意を表すスピーチをするのが通例となっている。自治体関係者が集まる会議からスポーツイベントの開会式など、大規模なものから小規模なものまで幅広くこの儀礼が浸透しており、オーストラリアに暮らす人々は意識せずともそのスピーチを耳にする機会があるほどだ。
さらに、先住民の文化をユニークな形で広める企業の動きもある。先住民の食文化を取り入らたレストランがあったり、先住民の旗の色(赤・黒・黄色)を使った原色ファッションを広めるファッションブランドが立ち上がっていたりするのだ。
多文化の国オーストラリア。先住民の文化も、植民者、移住者が持ち込んだ文化も、その一つ一つが尊重され、一つの国としてより良い共同体を築くためにはどう考え、どう行動すれば良いのか。
特定の人々を虐げた歴史を、正確に奥深く認識することは、多様性を本当の意味で尊重するための大切な一歩だ。「オーストラリア・デー」をめぐる議論と今後の動きは、オーストラリア国内にとどまらず、あらゆる場所にいる人々が多文化共生のあり方を考えるきっかけになるかもしれない。
【参照サイト】Thousands gather at Invasion Day rallies, calling for rethink of Australia Day (ABC News)
【参照サイト】Local councils move Australia Day ceremonies from January 26 as attendance declines (ABC News)
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Edited by Megumi