オーストラリアは、どう先住民へ敬意を示すのか。現地在住者がみた3つの事例

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アボリジナルピープル&トレスアイランダー(Aboriginal people and Torres Strait Islander)。

近年オーストラリアでは先住民のことをそう呼ぶ。「オーストラリアの先住民=アボリジニ」と思っている人も多いかもしれない。しかし、「アボリジニ」は一部の主に本土に住んでいた先住民の呼び名であり、実際には200以上もの民族が存在する。そこで今日のオーストラリアでは先住民の呼び名を、大きなまとまりとして本土に住んでいた「アボリジニピープル」と、トレス海峡諸島に住んでいた「トレスアイランダー」に分け、「アボリジニピープル&トレスアイランダー」と呼ぶことが多くなった。

ヨーロッパからの入植者が、オーストラリアに初めてやってくる何万年も前から住んでいた先住民は、独自の文化、言語、そして独特な信仰などを持っている。しかし1788年から植民地化が始まり、およそ200年の間、先住民の人々は様々な迫害を受けた。その影響で彼らは現在に至っても、差別や健康問題、文化の保護など複数の社会問題を抱えている。

そんな中、近年オーストラリアでは、先住民の歴史や文化を尊重し、継承しようという動きが高まっている。今回はメルボルンに住む筆者の目線からみた、国内で広がりをみせている3つの事例を紹介する。

オーストラリアで広がる、先住民の歴史や文化を継ぐための3つの事例

1. 地名を先住民の言語で表記する

地域の役所や、道路沿いに設置された地名の標識。よく見ると二つの言語で記されている。一つはイギリスによる植民地化以降に作られた英語の名前。もう一つは先住民の言語での名前だ。

植民地化が始まった1788年頃、先住民の人々は約700種類の言語と方言を用いていたとされているが、現在では約250種類まで減少している。先住民の言語が現在でも使われている地名も存在するが、植民地化以降、英語が第一言語として使用され、地名もイギリスやヨーロッパ由来の名前に作り替えられた。

例えばシドニーは先住民の言語ではWarrane(ワレーン)、メルボルンはNarrm(ナーム)、ケアンズはGimuy(ギモイ)と表記される。先住民の言語を話す話者が減り、言語が消滅するのも時間の問題とされている中で、次世代に継承しようと働きかけている。またこれは、非先住民の人々が先住民の言語を日常的に感じる機会でもある。

Image via Tourism Australia

2. イベントの冒頭で「土地の歴史的な所有者」に謝辞を述べる

オーストラリアにはイギリスによる入植後、植民地化政策の中で先住民の迫害が行われたという悲劇の歴史がある。その歴史を経て、いま私たちの暮らす土地、社会があることを理解し、先人を称えるため、今日では会議やイベントの冒頭で先住民の人々に敬意を表すスピーチをするのが一般的となっている。2010年にオーストラリア連邦議会の開会の際に先住民への謝辞が述べられ、それ以降広く普及した儀礼だ。

決まった形式はないが、一般的に使われている文言を紹介する。

“I acknowledge the Traditional Owners of the land on which we are meeting. I pay my respects to their Elders, past and present, and the Aboriginal Elders of other communities who may be here today.“

「今私たちのいる場所は、奪われてしまった先住民の土地だということを理解し、本日の催しを彼らに謝辞と敬意を払うことから始めます。」

今日では自治体関係者が集まる会議からスポーツイベントの開会式等、大規模なものから小規模なものまで幅広くこの儀礼が浸透しており、オーストラリアに暮らす人ならよく見聞きすることがある。

3. レストランで先住民の食文化を取り入れる

メルボルンの中心地、フェデレーションスクエアにできたMabu Mabu(マブ・マブ)というレストランがある。「マブ・マブ」とは先住民族の言語で「Help yourself (召し上がれ)」という意味。先住民アボリジニの食文化について理解を深めてもらおうというコンセプトで、伝統的な食材やスパイスを使ったメニューが好評だ。

 

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先住民族の家庭で育ったオーナーシェフのNornie Bero(ノーニー・ベロ)は、「先住民の食材や料理、特に自分の生まれ育ったトレス海峡、メル島の料理をもっと身近なものにしたい」と話す。地元のシーフードを使ったシェアプレートなど、彼女が幼少期に食べたものが参考になった。昨年オープンしたノーニー氏の2号店では、「Big Esso(ビッグ・エソ)」と書かれたピンクのネオンサインが出迎えてくれる。これは「最大級のありがとう」を意味する。マブ・マブを支えてくれているすべての人たちに対して、そして、この大陸の豊富な食材に感謝する気持ちがこもっている。

まとめ

先住民の人々、歴史、文化について理解し、敬意を示すといったムーブメントが生活の中に浸透してきているのは、先住民と非先住民の間に溝を作ってきたオーストラリアにとって、大きな前進と言える。

歴史的な背景から、今まで先住民の人々が権利を回復するためにしてきた運動やその声が国民の大多数を占める非先住民に届き始めているようだ。さらに、人種差別問題や気候変動など世界的な社会問題に対する運動や意識の高まりがオーストラリアの先住民問題への運動も加速させている側面も大きいだろう。

歴史的なトラウマを抱える先住民の人々の声に耳を傾け、謝罪し、敬意を示し続け、そしてその気持ちを受け入れてもらうことが、これからも求められ続けていく。

【参照サイト】Tourism Australia
【参照サイト】Acknowledgement of Traditional Owners
【参照サイト】Welcome to Country or Acknowledgement of Country
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Edited by Megumi

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