春の息吹を感じる3月下旬のロンドン。公共住宅が立ち並ぶ市内北部のエリアに、いつもは見かけない人だかりができていた。ここに、覆面アーティストであるバンクシーが新しい作品を描いたのだ。
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フィンスベリー・パークのエリアに描かれたこの作品は、一人の人物がスプレーのノズルを持ち、あたかもその人が吹きかけかたかのように、緑のペンキが壁一面に広がっている。建物から少し離れてみると、緑のペンキが、枝が切られた木の葉っぱのように見える。まるで木が「再生」したかのようだ。
バンクシーは今まで世の中を風刺した作品を数多く生み出してきた。例えば、イタリア・ベネチアでオーバーツーリズムを風刺したもの、またコロナ禍のイギリス・ブリストルでくしゃみをするおばあさんを描いたものなどだ。
今回描かれた作品は、壁を緑に塗っただけで「環境に良いことをした」「自然を再生した」とする、グリーンウォッシングを痛烈に批判しているのではないかと推測されている。そう考えると、スプレーを持つ人物が誇らしい顔をしているのが、どこか皮肉めいて見える。
バンクシーは今までロンドンで数々の作品を生み出してきたが、市内中心地に描かれたものが多かった。今回のペインティングが描かれたのはそれらから少し離れたフィンスベリー・パークという地域だ。イギリス国内で見ても人口密度が高く、移民が多く暮らすこの地域では、かねてより街の緑の少なさが叫ばれていた。バンクシーがこの地域にこの作品を描くと決めたのも、何か意味があるのかもしれない。
現地にはたくさんの人が集まって、スマホやカメラのシャッターを切っていた。世の中の滑稽な面を切り取った作品が、報道やSNSの投稿を通じて瞬く間に拡散されていく。あなたはこの作品を見て、何を思い出しただろう。バンクシーが描こうとした裏のメッセージに想いを馳せてみたい。
【参照サイト】Banksy
【参照サイト】Banksy dénonce le greenwashing dans un nouveau street art cinglant
【参照サイト】Banksy authenticates new tree mural in north London with Instagram post
【参照サイト】バンクシー、ロンドン北部に登場の「木」の壁画は自分作と認める
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