レバノンでAI大統領が登場?政治不信を乗り超える「#OurAiPresident」キャンペーン

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自民党の政治資金パーティにおける裏金問題などにより、政治不信が深刻化している。社会調査研究センターの世論調査によれば、日本の政治を「信頼していない」との回答は74%にのぼっている(※)

こうした政治不信やデモクラシーの危機は世界でも広がる共通の課題だ。そんななか中東レバノンでは、政治危機を払拭しようと、少し奇抜なイニシアティブが巻き起こっている。

レバノンには18の宗派が存在している。そのため同国はこれまで、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派というように、各宗派に政治権力を分配し、合意形成によってバランスを取ろうとしてきた。しかし近年、宗派、政治的立場、利害関係をめぐって激しく対立。2022年10月以来、1年以上にわたって合意が取れず、大統領が不在という政治的危機が続いている。

そこでレバノンの新聞社・An Naharが、なんとAIの大統領「#OurAiPresident」を作り出し、こうした状況に一石を投じようとしている。An Naharによれば、AI大統領は、透明性、誠実性、功利主義を理念とし、データと論理主導の意思決定を行う。それは政治的・宗教的立場を超えて偏りがないという。

#OurAiPresident

Image via #OurAiPresident

さらにAI大統領は、新聞社An Naharの過去90年分の記事に基づいてトレーニングを積んでおり、レバノンの複雑な歴史や今日の状況を分析し、市民に奉仕できるという。An NaharによるAI大統領のホームページでは、AI大統領のボットに誰でも質問ができる。

試しに筆者が、レバノンのサステナビリティ政策について質問したところ、太陽光エネルギー利用や環境保護といった答えが返ってきた。日本やアメリカとの関係を問うと、日本とは経済・インフラ支援を、アメリカとは経済・安全保障協力を推進したい、などという返答だった。今のところ、一般的な回答という印象だが、気になる方は試してみてほしい。

レバノンのAI大統領は、まだ技術的に開発途上という感触もある。しかし近い将来の可能性をあなたはどんなふうに感じるだろうか。

個人的な利害関係や選挙だけをにらんで、資金の問題が頻繁に起こる人間による政治よりも、データとエビデンスに基づくAIによる政治のほうが望ましいだろうか。それとも、AIによる政治には「人々がみんなで決める」という民主主義の観点からは正当性に欠けると感じるだろうか。AIの持つ危険性には注意しつつ、人間だけでは行えなかった公正な政治がなされていくことを期待したい。

※ 株式会社社会調査研究センター「2月17-18日実施 全国世論調査の分析と結果」
【参照サイト】An Nahar AI大統領公式ホームページ
【参照サイト】外務省 レバノン共和国(Lebanese Republic)基礎データ
【参照サイト】公益財団法人中東調査会「中東かわら版」、「レバノン:アウン大統領の任期満了と大統領位の空席」

Edited by Erika Tomiyama

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