絶滅を止める“手がかり”を探す旅へ。自然と人間のつながりを問う、映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』

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いま地球上で、生物種の数が静かに、けれど急激に減少している。半数近い種の個体数が減少しており、そのほぼすべては人類の活動が原因にあるという(※)。これを「6度目の大量絶滅」と表現する科学者もいる。

一方、この絶滅、そして背景にある気候危機を食い止めようと、世界中で多くの人が立ち上がり、声をあげている。16歳のベラとヴィプランも、その一人だ。

ヴィプラン(左)とベラ(右)|Image via ユナイテッドピープル, ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

ロンドンの環境活動家であるベラは「子ども時代をほとんどすべて環境活動に費やしている。でも、希望に満ちているわけではない」と口にする。パリで同じように環境保護の活動に参加するヴィプランは「知識を得てから行動するべき」と言って本を手に取る。

けれど二人とも、変化を起こすためには「何かが足りない」と感じていた。本当に気候変動を止めるためには、大量絶滅を防ぐためには、何が必要なのだろうか。

そんな二人を、生物界との関係を見つめ直す旅ヘといざなったのが、活動家でもある映画監督のシリル・ディオン氏だった。ディオン氏は二人と共に、世界各地の自然環境をめぐる現場や、生物界と接する実践者たちを訪れていく。

SNSでの啓発は本質的な解決につながるか。資本が多いほど発言力を持つ世界は“民主主義”か。絶滅を引き起こしているのは誰か、はたまたどのシステムか──そんな問いを胸に、二人が絶滅を防ぐ手がかりを求めて旅をする様子を収めたのが、映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』だ。

今回、監督を務めたディオン氏に取材する機会を得た。どんな思いからこの映画が構想され、若い二人が旅の主人公となったのか。映画を通して伝えたいと願うのは、どんなメッセージなのか。撮影の裏にある思いを聞いた。

話者プロフィール:Cyril Dion(シリル・ディオン)

©Fanny Dion

1978年生まれ。映画監督、作家、詩人、環境活動家。演劇を学んだ後、イスラエル・パレスチナの和平問題に従事。平和のためのイマームとラビ会議のコーディネート。循環型社会を目指す運動体コリブリを共同設立。雑誌「Kaizen」の共同創刊とディレクションを手がけ、アクト・シュド社より叢書「Domaine du Possible」を刊行、編集を務める。2014年に詩集『Assis sur le fil』を出版。2015年メラニー・ロランと監督した映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』は2016年のセザール賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。2017年に小説『Imago』を、翌年にはエッセイ『未来を創造する物語 現代のレジスタンス実践ガイド』を出版し、10万部を売り上げた。

自然から切り離された人間像に、疑問を投じる

Q. 映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』を撮影するきっかけには、どのような想いや経験がありましたか?

もともと、大量絶滅についての映画は、憂鬱なので撮りたくありませんでした。しかし何度もこの話題について考え続ける中で、最近は「脱炭素化できたら全てが良くなる」など技術的な観点から見た生態学的な課題について議論が活発化してきました。しかし明らかに、それは本質的な問題ではありません。問題は、私たちと生物界の関係性、そして私たちが自然をどう捉えるか、なのです。

もし「人間は自然から切り離された存在だ」と捉え続けるならば、事態は悪化の一途をたどるでしょう。私たちはあまりにも長い間、生物界を、経済とお金のために搾取できる豊富な資源だと考えてきました。今私たちは、人間は命ある全てのものと相互に関わり合っていると気づく必要があります。アリやオオカミ、蜂、ミミズ、森、海、山などとの間に存在する関係性に気づく体験を届け、世界を破壊することのない新たな生き方を見出す必要性を伝えたいという思いが、映画を作成する後押しとなりました。

気候マーチでマイクを握るベラ|Image via ユナイテッドピープル, ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

もう一つのきっかけは、気候ストライキの始まりを担った若者との対話です。グレタ・トゥンベリがフランスを訪れた際に、ヨーロッパ各地の若者と出会い、他国でのストライキでも対話を重ねる中で、若い世代が「もう未来などない。全ては崩壊するだろう」と考えていることに衝撃を受けました。同時に、私たち親世代やさらに上の世代に責任を問うているようにも感じたのです。この経験から、若い世代の二人が生物界との新たな関係を模索し、世界を再構築するための道筋を見出すような映画を作りたいと考えました。

Q. 環境問題をめぐる映画やドキュメンタリーが増えている一方で、16歳という若い二人が映画の主人公となった点は本映画の特徴でもあります。将来世代が主人公となったことには、どんな目的があったのでしょうか?

若い世代は、すでに未来に足を踏み入れています。彼らは、世界が決して元通りにはならないことに気づいていて、2040年を生きているかのように今の世界を見ている。だから、彼らの視点からストーリーを伝えると、私の視点から伝えるのと比べて大きな違いが生まれると考えたのです。

また、撮影で会うすべての人が、ベラやヴィプランと会うことで「揺さぶられること」を目指していました。上の世代からの質問に答えるのと、16歳の二人からの質問に答えるのとでは、返答するときの責任感が全く異なります。大人からの質問に対して、若い二人からの質問と同じ回答や正直さ、誠実さは見せません。その違いを見るのは興味深かったですよ。

インドの環境活動家を訪れた様子|Image via ユナイテッドピープル, ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

世界をめぐる旅は、あらゆる人の学びに

Q. 映画の撮影は、ベラとヴィプランの心の変化を追った旅でもあったと思います。

彼ら自身の変化をたどることも、映画のプロジェクトの一部でした。初めは、大量絶滅を防ぐための解決策を見つけようとしていたのですが、それではとてもつまらない旅になる気がしたのです。私たちが実現したかったのは、人々を前向きにさせること。だからあるとき、ベラとヴィプランに色濃く印象に残る経験をしてもらうことが、最も大切だと気がつきました。

そこで、私たちは状況だけ用意して、彼らをその場に放り込み、そこで起きることそのものを撮影することにしたのです。たとえば、ベラとヴィプランが真夜中の山の中でオオカミを待つ間、彼らがどんな反応をするのかは未知でした。それでも毎回、その結果は驚くべきものでした。

ドキュメンタリー制作においては、映画の内容や構成を事前に台本に書き下ろすのではなく、編集の過程で物語やその伝え方を描いていきます。彼らが「生きた」経験を撮影し、すべてを再構成するのです。また私たちはベラとヴィプランに、撮影の各段階において、何を感じ、考えたかを日記として残すよう依頼していました。それをナレーションの作成に活用し、二人がナレーションで語る感情が場面と一致するかどうかを本人たちに確認していました。

Q. 撮影を通して、監督自身にはどのような学びや気づきがありましたか?

生物界について本当に多くのことを学びました。例えば、ケニアを訪れた際に学んだアリの生態系や、フランスの生物学者が話していたオオカミと羊や犬の関わりなど。まず初めに、自分はほとんど何も知らないという現状を理解する必要があったのです。なぜなら、ケニアのムパラ研究センター所長のディノ・マーティンスが言ったように、多くの場合、人は、自身が愛するものを守る。そして、自身が知っているものを愛する。だから、そもそも生物界について何も知らなかったら、その生き物たちを愛することはできず、彼らを守りたいというエネルギーも湧いてこないからです。

もう一つ印象に残っているのが、「人間という種が生きる目的は何ですか」というベラの問いに対して、エコノミストのエロワ・ローランが「私の生きる目的は愛し、愛されること。それだけを気にかけています」と答えたことです。一瞬、耳を疑いました。安っぽく聞こえるけれど、その言葉はすごくパワフルです。もし皆が人生の目的を「愛し、愛されること」とするなら、今ある問題はもっと少なくなるだろうと思います。

ケニアの動物保護区を訪れたベラとヴィプラン|Image via ユナイテッドピープル, ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

言葉より変革を。個ではなく相互依存関係へ

Q. 映画での重要なメッセージの一つが、アクションを起こすことの重要性だと感じました。監督にとって、「アクション」はどんな行動であることが重要ですか?

アクションは、“変革的”である必要があります。映画は人々の心にある何かを変えることができるので、私にとっては映画を撮影することがアクションでした。ビーチのプラスチックを拾うことも、海洋生物の命を救うことになるアクションですね。

もしあなたが話し続けているだけだとしたら、多くの場合、それは現実世界に影響を与えません。それはただの空虚な言葉になります。言葉そのものが効果を持つのは、“アクションと同時に”世界へ発するときなのです。

Q. 重点が置かれたもう一つのテーマが、「複雑に絡み合う関係性を持つ世界」という見方だと感じました。この視点について、監督はどのような考えを持っていましたか?

近年になって、インターネットの普及を通じて、人間はより「相互に依存する関係性」に気づき始めていると思います。でも私たちは、最も大きく偉大で精巧で洗練された「自然」という相互依存関係を忘れてしまう。そして、その相互依存関係のおかげで私たちは互いにコミュニケーションを取り共存できていることも忘れてしまう。

映画で伝えているのは、私たち人間が生物界を築いた訳ではないということ。生物界が、私たちを作ったのです。

Image via ユナイテッドピープル, ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

編集後記

「ANIMAL」と聞いたとき、たくさんの野生動物の姿が思い浮かんだ。それはとても美しい光景であった。

けれど、取材を終えて、映画を見終えて、はっとした。私はその中に人間を一切描かなかったのだ。知識として「命のつながり」を理解していながらも、どこか潜在的に人間とそれ以外の生き物の間に何らかの線引きをしてしまったのだ。

その想像すら働かなくすることは、この映画が導こうとするところではないはず。私たちが人間とそれ以外とに切り離しがちであるという傾向を自覚すること、その線引きを乗り越えようとして行動することが大切なのだ。

取材の中で、監督はベラとヴィプランのタイプがあまりにも違うことを教えてくれた。ベラはどこにカメラがあるのかを常に意識して行動するのに対し、ヴィプランはいつも間違った場所に立ってしまい、指示を出し直すことが何度もあったという。身近にいそうな16歳なのだと、改めて気付かされた。

そんな二人の人間性が見え隠れするところも、映画にどこか親しみやすい雰囲気を加えている。映画を通して二人が旅の仲間になり、その存在は映画を見た後も多くの人の心の支えとなることだろう。ベラとヴィプランも、今世界のどこかで、同じように答えのない旅の続きを歩んでいるのだ。

闇だけでも光だけでもない、悪と正義だけに分つことのできない現実から、二人は何を導き出すのか。ぜひ、二人と共に一歩踏み出してみてほしい。

上映情報(2024年5月17日時点)

東京都 シアター・イメージフォーラム 2024年6月1日(土)~
群馬県 前橋シネマハウス 2024年6月22日(土)〜7月5日(金)
神奈川県 横浜シネマリン 2024年7月6日(土)〜
埼玉県 川越スカラ座 2024年7月6日(土)〜7月19日(金)
長野県 長野松竹相生座・ロキシー 2024年8月2日(金)〜8月15日(木)
京都府 京都シネマ 2024年6月14日(金)~
大阪府 テアトル梅田 2024年6月14日(金)~
兵庫県 宝塚シネ・ピピア 2024年7月26日(金)〜8月8日(木)
岡山県 シネマ・クレール 2024年6月21日(金)〜6月27日(木)
大分県 別府ブルーバード劇場 2024年7月予定
大分県 玉津東天紅 2024年8月24日(土)~8月28日(水)

Finn, C., Grattarola, F. and Pincheira-Donoso, D. (2023), More losers than winners: investigating Anthropocene defaunation through the diversity of population trends. Biol Rev, 98: 1732-1748.

【参照サイト】映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』公式HP
【参照サイト】6度目の大絶滅。人類は生き延びられるか?|ナショナル ジオグラフィック日本
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