土に還らぬ都市の落ち葉を「紙」に。ウクライナ発スタートアップ

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私たちの生活に欠かせないツールである、紙。デジタル化に伴い情報伝達を目的とした紙の使用は減っているが、パッケージやバッグなどさまざまな用途に使われる紙は、依然として需要が高いのも事実だ。

紙の生産は過剰な森林伐採や、それに伴う生物多様性の損失など、さまざまな環境負荷を生み出している。World Wide Fund for Natureによれば、世界で売買される商業用木材のうち製紙業界は33〜40%を占めているという。

近年ではこうした環境負荷を低減するため、バナナの皮や動物のフン、クラフトビールのモルト粕など、木材の代わりに廃棄される素材を練り込んだ、さまざまな種類の紙が登場してきている。

今回は、そうした環境に配慮された紙の新たな選択肢をご紹介したい。それが、都市で廃棄されている「落ち葉」から作る紙だ。

作ったのは、ウクライナの学生であるValentyn Frechka氏が立ち上げたスタートアップ企業「Releaf Paper」。現在、主に企業に向けてショッピングバッグやノート、卵パックなどの制作・販売を行っている。

Frechka氏は、16才の頃から紙の主な原材料であるセルロースの木材に代わる原料を探す研究を行ってきた。草や藁などを用いて実験を重ねるなか、落ち葉からセルロースを抽出することを思いつき、研究を重ねて自国でプロトタイプ作成に成功。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けてフランス・パリに避難したのち、Alexandre Sobolenko氏と共にReleaf Paperを立ち上げた。

Releaf Paperでは、およそ2.3トンの落ち葉から1トンのセルロースを生産でき、同社によればこれは17本の木から生産できるセルロースの量に匹敵する。生産プロセスにおける環境負荷も、同社の見積もりによれば従来の紙と比べCO2を78%削減、水の使用も15倍少なく抑えられるなど、従来のものと比べ低減できているのだという。

また、Releaf Paperが紙の製造に使うのは、都市部の落ち葉だけだ。落ち葉が森にあれば、エコシステムの一部として放っておいても循環するため、集める必要がない。一方で、アスファルトの道が多い都市では、落ち葉は有機廃棄物として焼却処分するのが一般的だ。同社によれば、都市では毎年平均8,000トンの落ち葉が収集されており、欧州の全ての都市を合わせれば、それは100万トンを超える可能性があるという。

こうした課題の解決策として、欧州のいくつかの都市はReleaf Paperの解決策に賛同し、同社に落ち葉を提供しているという。代わりに、同社は落ち葉からセルロースを抽出した後に残る樹木や畑の肥料になるリグニンという物質を都市に戻すことでWin-Winなモデルを構築しているという。

Releaf Paperは、2024年7月にパリ近郊に工場をオープン。ここでは年間5,000トンの落ち葉の処理が可能だ。資金の一部をEUから受けたり、ロレアルやGoogleなどの大手企業がすでに製品を利用したりと欧州圏でのパートナーも多く、今後の拡大に期待が広がる。

ウクライナ出身の友人は、「ウクライナの秋は紅葉が本当に美しいんだ」と誇らしげに話していた。Frechka氏も、そんな美しい秋の季節に、このアイデアを思いついたのだろうか。何気ない毎日の中で見過ごしていた身近な素材にこそ、新たな可能性が眠っていることを思い出させてくれる事例だ。

【参照サイト】Releaf Paper
【参照サイト】European cities give their dead leaves to this startup to turn them into shopping bags and paper
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