難民と地元の人々をつなぐ、パリの晩餐会。Refugee Food Festival訪問記

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2024年6月末の晴れた日に、パリ郊外の公園で開かれたディナーに参加した。会場の最寄駅から15分ほど大きな公園の中を歩く。すると、緑に囲まれた会場に到着した。月曜だというのに19時ごろから次々に人が訪れ、20時を回るころには、会場はあっという間に満席になった。

参加したのはフランスを中心に開催されている、Refugee Food Festivalというイベントだ。非営利団体・Refugee Foodが主催するこのイベントでは、難民のシェフたちがフランスのレストランや会場で出身地の料理を披露する。2016年に初めてパリで開催されて以来、フランス国内の他都市やヨーロッパ各国に広がり、難民と地元住民の交流の場として定着してきた。

このフェスティバルは、もともと難民の社会統合を促進し、彼らのスキルや文化を広く知ってもらうことを目的としている。毎年6月20日の「世界難民の日」に合わせて企画されるこのイベントでは、彼らの料理を通じて参加者がさまざまな「故郷」の味を体験することができ、味覚から文化の多様性を実感することができるというわけだ。

この記事では、実際にRefugee Food Festivalのイベントに参加した、当日の様子をレポートしていきたい。

料理は、ウクライナとパレスチナからインスピレーションを受け、一流シェフが考案

参加する日によって、どのような料理が振る舞われるかは異なる。筆者が参加した日は、ウクライナとパレスチナの料理からインスピレーションを受けたものだった。見た目はフランス料理のようなのだが、スパイスやお米がふんだんに使われていたり、スイカがメインになっていたりと、料理を口に運ぶたびに驚きが続く。

フリーカ(カルダモン、赤玉ねぎ、ズッキーニ、ミント、バジルなどが入っている)

ローストしたスイカ、リコッタチーズ、スイカのブリュノワーズ、松の実、黒オリーブ、オレガノ、エシャロット

この日のメニューは日本人を含む4名のシェフによって考案されたそうだ。どの料理もちょうど良い量で、塩味と酸味と甘味が散りばめられているため、飽きることがない。メニューはデザートを含め5種類。ドリンクはバーカウンターで自分の好きなものを注文することができる。

ライスプディング、ラズベリー、ピスタチオ、エディブルフラワー

メニューは配られ、料理は自分で取りに行く。背景をじっくり知ることも

今回のディナーでユニークだと感じたのは、料理がウエイターによって提供されないことだ。受付で予約を確認すると、メニュー表が配られる。そのメニューにはデザートを含む5種類の料理が掲載されている。参加者はそのメニュー表を持って、料理が提供されるカウンターまで自分の好きなタイミングで料理を取りに行く。メニュー表にチェックをつけてもらい、その料理を受け取る。

メニュー表

料理が提供されるカウンター

一気に複数の料理を取りに行っている人もいれば、一つ一つの料理を味わってから何度もカウンターに足を運ぶ人もいた。コースメニューは通常、お皿が下げられるとまもなく次の料理が出てくるか、はたまたしばらく時間を置いて出てくることもあるが、今回のイベントではそのペースを決めるのは参加者自身だ。

料理が提供されるまでに列に並ぶこともあったが、参加者は談笑しながら、順番を待っている。参加者が自ら料理を取りに行くことで、料理の作り手の顔を見ることができる。そして、カウンターは難民のシェフとの交流の場になるのだ。

料理をゆっくりと食べ進める中で、会場では生演奏が始まる。なかなかに大きな音だが、みんなそれぞれめげずに話を続ける。大きな公園の中で実施された食事会だからこそ、とっておきの開放感がある。

Refugee Foodがスピーチをしている様子

演奏のあとには、このイベントを主催したRefugee Foodからのスピーチも。フランス各地で広まるこの活動の背景が語られた。

あくまでも自然なディナー。難民の問題は社会に溶け込んでいる

コースは28ユーロ(約4,900円)。パリの平均的な食事の価格を考えると、比較的お手頃だ。このイベントの収益の一部は難民支援団体に寄付されている。そしてこうした場を通じて、多くの難民シェフが自身のキャリアを築くきっかけを得ており、フランスの食文化にも新しい風を吹き込んでいるそうだ。

ヨーロッパに暮らしていると、「難民」と呼ばれる人々が決して遠い場所にいるわけではないことを実感する。近くで戦争がいくつも起きており、それらがきっかけでゆかりのある土地に暮らせなくなり、逃れてくる人々がいる。それは現在のヨーロッパのリアルであり、今は日常となっているのだ。

会場があるパリ・ヴァンセンヌの森

今回のイベントには「食事」をしにきている人が多い印象だった。もちろん難民の問題に関心があり、支援したいと思って訪れた人もいただろう。しかし、あくまでこのイベントは外の風にあたりながら、会話と料理を楽しむための場所だった。

人々が母国を離れなくてはならないことは、決して望ましい状況ではない。しかし、彼らが新しく居を構える場所でより良い生活をしたいと望むとき、そのための舞台が用意されていることは大切なことだろう。Refugee Food Festivalは、地域の人が純粋に食事を楽しめる場を提供することで、同じ社会に暮らす人々がともに「よく」生活できるきっかけを生み出しているようだった。

【参照サイト】FESTIVAL – Association Refugee Food
【参照サイト】Programmation Paris – Refugee Food Festival 2024
【参照サイト】CHALET DES ÎLES DAUMESNIL – Clôture du Refugee Food Festival Paris
【関連記事】難民から起業家になれる。自立を促す英国のショップ「Anqa Collective」

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