先住民作家の映画上映で、多様な「世界の切り取り方」を示すDecolonizing Lens

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邦画さらにはアジア映画において初の快挙として報じられた、映画『ゴジラ-1.0』のアカデミー視覚効果賞の受賞。この受賞は日本映画の技術が国際的に認められた証であり、多くの人々が賞賛が送られた。しかし、それと同時にこれまでハリウッド映画を中心としてきた映画業界における、地域の偏りに違和感を抱くきっかけを得た人も多いのではないだろうか。

このような映画業界の「偏り」を感じてきた人は少なくない。その一員であろう人たちが、先住民の映画作家である。これまでに鑑賞した映画の中で、先住民の映画監督や作家による作品はあるだろうか。現状として、制作資金の面でも困難を抱える彼らの作品に出会う機会はかなり限られており、私たちはある程度固定化された視点や切り口からの作品に触れることが多い。

こうした先住民の映画作家と共に、映画を通じて市民とつながり教育の場を築こうとしているのが、カナダ南部の都市・ウィニペグ市で上映会を運営する組織「Decolonizing Lens(デコロナイジング・レンズ)」だ。

同組織は2016年、インディアン工業学校をめぐる映画『RIIS from Amnesia』の上映会を実施した後に、市民からの要望を受けて正式に設立された。拠点とするのは、カナダ北部と南部をつなぐことをコンセプトに世界最大の現代イヌイット美術のコレクションを収蔵するアートセンター・Qaumajuq(カウマジュク)だ。

彼らは、映画を配給するのではなく上映会を通じてパブリック教育を実践しようとしている。シンプルなイベントではあるが、上映会は無料かつオンラインとのハイブリッド開催、先住民が経営する店のケータリング提供など、誰もが参加しやすい環境を整えているという。

そんなDecolonizing Lensが扱う映画は、歴史ものからホラーまで、先住民の映画作家によって制作された幅広いジャンルの作品。その多様な作品の上映を通じて、先住民に対する画一的なイメージを変えようとしているのだ。同組織の運営を担うJocelyn Thorpe氏とKaila Johnston氏は、The Conversationにおいてこう綴った。

Decolonizing Lensが扱う映画は、先住民の土地と世界観の美しさを映し出すと同時に、「単一的な“先住民の視点”が存在する」という考えへの反論を示しているのです。

その例として二つの作品を紹介したい。一つ目は、第二次世界大戦の時代を生きたクリー語(※)の暗号技師・Charles “Checker” Tomkins氏の戦時下の役割に迫る10分の短編ドキュメンタリー映画『Cree Code Talker』だ。クリー族出身のディレクター・Alexandra Lazarowich氏と、カナダ・アルバータ州南部のブラックフット族の血を引くプロデューサー・Cowboy Smithx氏によって制作された。

暗号技師のCharles氏は米国空軍に関わり、クリー語を秘密兵器とした通信システムの開発に携わっていた。しかし彼らの働きは、アメリカ政府やカナダ政府が未だ認知していない役割であるという。そんな歴史の一面に、光を当てた作品なのだ。

※ クリー語:カナダ国内各地で話されている言語であり、先住民族の言語の中で最も広く話されている言語の一つ(参照:Cree Language | The Canadian Encyclopedia

二つ目の映画『Tia and Piujuq』は、難民としてカナダに移住してきたシリア人の女の子・Timが魔法のポータルを手に入れ、イヌイットの女の子・Piujuqと出会い冒険する物語。イヌイット出身のディレクター・Lucy Tulugarjuk氏と、プロデューサー・Marie-Hélène Cousineau氏が共同で台本を執筆した。

Lucy氏の娘であるNuvvija氏が、イヌイットの女の子・Piujuqを演じており、彼女はイヌクティトゥット語を学び直す必要があったそうだ。これを踏まえLusy氏は、「他のイヌイットの子ども達にとっても、自身の文化と言語をさらに好きになるきっかけになるかもしれません」語っている。

これらの作品以外にも、多岐にわたる映画を届けているDecolonizing Lens。エンターテイメントとしての映画は、市民の対話を生み出す媒介となりながら、いかようにも変化できる“世界の切り取り方”を問いかけている。

自分は世界をどう切り取って理解しているのか、そして、日々受け取る情報は誰の切り取り方であるのか──今手にしているレンズを認識できたとき、私たちの世界観はより広く豊かなものになるのではないだろうか。

【参照サイト】‘Decolonizing Lens’: Winnipeg and virtual film series reflects the beauty of Indigenous worldviews
【参照サイト】CREE CODE TALKER
【参照サイト】Tia and Piujuq
【参照サイト】How Native filmmakers are restoring cinematic narratives|High Country News
【参照サイト】Indigenous filmmaking getting more of the spotlight, director says|CBC
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