戦争と朗らかな日々、どちらもまちの姿。映画『ガザ 素顔の日常』に込められた想い

Browse By

サーフィンに興じる学生。ビーチでくつろぐ人。海辺のカフェにいるフレンドリーな店主。穏やかな日差しに包まれ、美しい地中海が目の前に広がる。

でもそこは、リゾート地ではない。パレスチナ・ガザ地区だ。

ニュースではほとんど目にすることがない、こうした情景を映し出すのは、映画『ガザ 素顔の日常』だ。同映画の予告動画は、こんなメッセージから始まる。

よその国の人から見た私たちは戦争ばかりの地域で暮らす人間です。とても苦痛です。物事の表面だけでなく、本質を見てほしい。

映画に登場するのは、こちらに笑いかけてくる子どもたちや、乗客と一緒に歌い始めるタクシー運転手、心の声を叫ぶ若いラッパーに、子どもが40人いる漁師のおじいちゃん……。そんな普通の日常がある一方で、街では急に爆発音と救急車のサイレン音が鳴り響く。その対比はあまりにもかけ離れている。けれど、どちらもガザの本当の姿なのだ。

運転しながら歌っている様子

『ガザ 素顔の日常』©Canada Productions Inc., Real Films Ltd. Image via ユナイテッドピープル

紛争状態にある町で荷物を抱えて歩く人

『ガザ 素顔の日常』©Canada Productions Inc., Real Films Ltd. Image via ユナイテッドピープル

街にはいま、その明るさはほとんど灯らない。2023年10月から2024年1月現在まで続く、イスラエル・パレスチナにおける紛争状態。今もなお各地で被害は続き、事態は悪化している。

一方で、日本での報道は減少傾向にある。人々の関心が遠のいていくことは、現実に起きているはずの問題を「見えなく」して、問題の根源に働きかけようとする力を弱めてしまいかねない。

『ガザ 素顔の日常』を配給するユナイテッドピープル株式会社は、2023年10月中旬から日本各地において同映画の再上映を支えてきた。同社代表取締役の関根健次さんは、こう語る。

「2023年11月末に1週間ほどの休戦状態に入った辺りから急速に報道が減ったことで、日本社会の関心も薄れていったのではないかと感じています。2023年10月や11月にはひっきりなしに続いていたマスコミの取材も、ぱたりと途切れているという状態です。

ただ、そうした状況だからこそ映画が必要ではないかと思います。ニュースを見ていて、『どこで○○名が亡くなった』と報道されても、実感が湧かないですよね。ガザに住んでいる一人ひとりは数字で表せるものではなく、それぞれに人生があり、家族がいて、夢を持っているわけです。この映画は、そんなガザの日常を生きる人々が見せる、世界のどの街角とも変わらない表情を伝えてくれます。

この映画を見た人が報道される数字に触れたとき、映画に出てくるような子ども達やお母さん達の姿を想像してくれると思うんです」

ひとりで外で弦楽器を奏でる少女

『ガザ 素顔の日常』©Canada Productions Inc., Real Films Ltd. Image via ユナイテッドピープル

事態が長期化し世間の関心が弱まりつつある中で、戦況やデータではなく人々の「姿」や「暮らし」を知ることで、より自分自身に近づけて物事を捉えることにつながるはずだ。こうした心の変化は、すでに具体的な行動へ広がりつつあるという。

「映画は、いろいろな行動につながるきっかけになると思っています。東京・小笠原の母島出身のとある親子が、映画を見た後に『ぜひ地元でも上映したい』と声をあげ、1月27・28日に母島および父島での上映会を企画しました。その娘さんが、停戦を求める署名活動をSNSで共有したところ、小笠原村の議会でもガザでの停戦を求める決議が全会一致でされたんです。一人ひとりに感動を届けて、行動を促すという映画の力が表れていると思います。

一人ひとりの力は決して小さくなくて、むしろ大きいのです。ぜひ映画を見て、知って、感じて、少しでも良いので行動を起こしてほしい。気づかずに、知らずに、行動せずにいるということを選択してしまうと、より多くの犠牲者を生んでしまう。逆に言うと、声をあげることで命を救うことができると、信じています」

もし上映会に足を運ぶことがあれば、ぜひ実践してほしいことがあると、関根さんは言う。

「ぜひ自分の周りにいる無関心な人を、誘ってみてください。自分一人が1,000万人を変えようとすることは無理があるけれど、目の前の人の行動を変えることは、実は誰でもできること。身近な人に物凄い熱量で『どうしてもこの映画を見てほしい』と言われたら、ほぼ間違いなくその人は行くんです。この力を活かして、無関心な人に映画を見てもらうことができれば、何かしらの揺らぎがあるはずで、その人は関心のある人に変わるわけです。

もしかしたら『見たけれどもやっぱり遠い出来事のままだった』と感じる人もいるかもしれない。それはそれで良いんです。その人なりの距離感を理解したということが、成果だと思います。まずは現地のことを知るということ、感じるということから、始めてみてほしいです」

関根さんは、個人の影響力とは“鐘”のようだと表現した。遠くで鐘が鳴っていると伝わりにくいけれど、目の前で鐘の音を聞くと身体中に響くような振動を感じる。そんな強いパワーを、私たち一人ひとりが持っているのだ。

関心を持ち続けることは、決して簡単ではない。けれど、誰かと一緒に考えることが、改めて何かを見つめ直すきっかけにもなるかもしれない。新聞の一面を飾ることはない「素顔」に会いに、彼らの「声」を聴きに、足を運んでみてはいかがだろうか。

ここに、予告動画の最後にあるメッセージを残したい。

私たちはただ生きたいのです。その声を聴いてほしい。生きたいんです。

映画館上映スケジュール(2024年1月現在)

大阪府 シネ・ヌーヴォ:2024年1月27日(土)~2月9日(金)
富山県 御旅屋座:2024年2月10日(土)~2月23日(金)
佐賀県 シアター・エンヤ:2024年2月2日(金)~2月8日(木)
宮崎県 宮崎キネマ館:2024年2月2日(金)~2月15日(木)

そのほか映画館における上映の最新情報は公式サイト

2024年2月12日には、座・高円寺2(杉並区立杉並芸術会館)で開催される「第15回『座・高円寺』ドキュメンタリーフェスティバル」のプログラムの一つとして18時10分より上映予定。上映後には、関根健次さんと認定NPO法人Dialogue for People副代表・フォトジャーナリストの安田菜津紀さんによるトークイベントも開催予定。また、ガザに関するもう一つの映画『ガザ・サーフクラブ』が2024年1月13日からシアター・イメージフォーラム他にて緊急公開。

【参照サイト】映画『ガザ 素顔の日常』|ユナイテッドピープル
【参照サイト】パレスチナ自治区ガザにおける平和の早期実現を求める決議|小笠原村
【関連記事】報道されなくなったら終わり、じゃない。「忘れられた」問題への支援を考える動画

FacebookTwitter